156話 何してんの?①

 寝ているときに隣からガサゴソと音がする。

 暗くて何をしているか分からないが遥が動いていることは分かる。

 隣にいた結もいなくなっている。

 しばらく寝室には戻ってこなかったが時間が少し経つと人の気配が戻って来た。

 一歩一歩近づくと仰向けで寝ている体に突如重みが圧し掛かった。

 当然、遥であることは予想がつく。

 無音の世界でただお互いの距離が詰まっていくのを暗がりの中感じる。

 彼女から見れば、きっと起きていないと思っているのだろうか。

 顔と顔とが紙一枚触れるか触れないかというときに、生暖かい水滴がポタポタと落ちてきた。

 それを感じた俺は、枕元のリモコンで電気をつけた。

 暗闇が一気に電灯によって視界が開き、弱り切った様子で泣く遥の姿が現れた。


「泣くぐらいなら最初からしないで。一体、何をしているの?」

「起きてたの?」

「なんかガサゴソしてるなと思ったらこんなことを。そして、重い。寝ている人に乗っかって起きないわけがない」


 床に足をつけてくれればまだ体重が分散されるが、俺の体の上に正座でいて遥の体重が全てのしかかっている。

 すると、足を体から降ろし、腹部に跨るような姿勢となった。


「そして、まさか裸になっているとは思ってもいなかったよ。何してんの?」

「優。ごめんなさい」


 何を言うでもなくただ謝る彼女に対して、大丈夫だよ、なんて言葉をかけてしまえば自分自身のためにならないだろう。


「なんで謝るの? なんで泣いてるの?」

「優。怒ってる?」


 彼女に対しては怒もあるが悲の感情が強く、怒は自分に対しての感情だ。


「激怒まではいかないけど、少しだけ怒ってる。遥の悩み、お金でしょ? 病院代稼ぐために体を使おうなんて、そりゃあ怒るよ」

「知ってたの?」


 遥はバレていないと信じていたのか驚きを隠さなかった。


「今日、リビングのど真ん中にあるテーブルに雑誌やらパソコンやらを開いたままにしてあったらね。教えてくれたのは結だけど」

「結が?」

「手を握って教えてくれた」


 何も言わずに彼女はこちらをじっと見ているが目に生気を感じない。

 何を思い、何を感じているか彼女にしか分からないことであるが、ただ自分の行為についての彼女自身の理解はその目が物語っている。




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