154話 気づき
夕方を過ぎて日がすっかり落ちた時刻に帰宅する。
疲労感はあるがそれよりも焦燥感がある。
危険なことに首を突っ込みかけている遥を引っ張り出さなければならない。
自宅に到着すると柔らかい電気が灯っている。
玄関を通過し扉を開けると結がリビングで静かに横になっていた。
遥は恐らく入浴するために席を姿を消しているだけですぐに戻って来るのだろう。
こちらの方に視線を移した結は手をバタつかせ始めた。
「どうした? のど乾いた? 粉ミルクでいいなら作れますが、どうしますか?」
もっと声を高くしたりする方がいいのかもしれないがこれが俺の一番の接し方だ。
「ああ……うう……」
彼女の小さな柔らかな指を触ると力強く握ってきた。
俺は自分の指を脱力させ結の好きにさせて見たら机の方向に手を持って行った。
そこにあるのは求人広告雑誌と間違いだらけの計算が書かれているチラシ、そして請求書が見てくれと主張しているようにに開きっぱなしで置かれている。
「これって……」
日付からして結の出産費用だろう。
遥は払っていないと言っていた。
ようやくわかった。
彼女の困りごとはお金で間違いない。
なぜ相談しないのだろうか。
きっと、結の出産には完全に俺は関わっていないからだろう。
だから伝えられなかったのだろう。
未払いでもう二か月にもなっているから彼女自身にも焦りが生じている。
「ん、なんか調べてあるな……」
パソコンも閉じられていることもなく電源が点けっぱないしのままになっている。
そこに記されていたサイトを見ると、結が伝えたかったことが分かった。
「結。お母さんこんなこと考えてたんだね。教えてくれてありがとう」
遥はお金に困っている。
スマートフォンを持ち出してかかって来た電話はきっと病院からだ。
督促が来て自分の問題だと抱え込んでこんな手段に出ようとしているのだろうか。
立ち上がって遥に話を聞こうとするが、彼女は入浴中である。
そして、結は俺の指を離さない。
少し引っ張ってみるがなかなか離れない。
「ん? どうした?」
首はまだ据わっていないから自由に体を動かすことはできない。
しかし、なんとなくだが首を横に振っているように感じた。
「……これはお母さんが自分で気が付くべきことのなかな? いきなり口を出すことではないのかな?」
遥自身の力で気が付かなければいけない事なのかもしれない。
彼女のしようとする方法は誰も幸せにならないと。
きっと遥が自分自身で考えて答えを出す。
思いとどまってくれると俺と結は信じている。
そうして俺は部屋に入り着替えてから、次の準備を進めることにした。
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