131話 関係①
結を布団に寝かせてから再び座ると、先ほどと同じように彼女の頭が俺の肩の上にある。
そして静かに彼女は口を開いた。
「優は私と一緒になることも考えていたよ、って言ったでしょ?」
「うん。考えてたよ。俺もこのままでいいのかなって」
「いつから思ってたの?」
「うーん。気がついたら二人が居るのが当たり前になってからかな。でも、そのときは伝えるのはもう少ししてからかなって思ってたよ。やっぱり、結もいるからさ俺がどんな人か、本当に一緒になってもいいのか考えるでしょ?」
「普通はそうかもしれないけど、私は優の優しさにすぐに溺れちゃったから」
小さな子供がいるから再婚には慎重になることもあるだろう。
この世の中には交際相手や再婚相手に手を出されている小さな命があることは毎日痛いほど報道されている。
男親だろうと女親だろうと関係なくある。
報道されずに知らないで埋もれてしまうことあるだろう。
「だからもう少しかなって思っていたけど、あのときに前倒しする必要があるなと思った」
「何か切っ掛けがあるってこと?」
「一番は結が熱を出したことかな。あの場面でのんびりしていられないなと」
「えっ、昨日じゃん」
今日が長くて濃密な一日であり結も普段と変わらぬ様子でいたから病院に連れて行ったことが大分昔のように感じるが、昨日のことである。
「だから今日遥が公園での会話がなかったら近日中に俺から言うつもりだったよ」
「詳しく聞かせてよ。なんで結が熱を出したから考えてくれたの?」
俺は遥の手を握ってその内容を説明する。
手を握っていると彼女の存在を直接感じることができている。
「もし俺と遥が婚姻関係がなくただの仲のいい家主と居候の関係だったら不都合が生じるなと」
「不都合?」
「うん。遥が病気になって手術が必要だ、となったらどうする?」
「えっ? うーん。優がどうにかしてくれるという甘い考えで何も考えないな」
彼女の気ままな回答に笑みがこぼれる。
ふざけて言ったのではなく本心で俺を頼ってくれているのだと感じる。
「遥らしい。でも、俺にはどうすることもできないよ。だってあのままだったら外から見たら他人だよ」
「うん……? よくわからない」
「遥が意思疎通できないぐらいになっていたら、誰が手術のサインをするの?」
彼女の方を向くとはっとした顔になった。
「……わかったよ。優の言いたいこと」
「遥もそうだけど結のことも。法的に親子関係がないとダメかなって」
「結?」
「二人が同時に事故にあったりして、遥も意識がないときに誰が結のサインをするの?」
「うん。いないね」
有事のときにこのままの関係でいたらしてあげたいこともできなくなってしまう。
家主居候ではできないことが多すぎる。
もちろん事実婚は一つの選択肢であるし、その選択をした家庭もあるだろう。
「あとね、これが一番大事かな」
遥の目を見る。
彼女の綺麗な瞳がこちらを捉えている。
「このままの関係でいて、遥が先に死んじゃったら、結はどうするの?」
彼女にとっては少し残酷な質問かもしれないが可能性はゼロではない。
病気、事故、災害、幼い子供を残して先に死ぬ起因はいくらでもあるのだから。
このことは考えておかなければならないことだ。
「もしそうなったら結は一人になっちゃうよ。育てる人いなくなっちゃうよ。法的に親じゃないと出来ないことたくさん出てくる。そう考えるとちゃんと親になったほうがいいと思った。もちろん二人のことが好きになったから一緒にいようという判断はしたよ」
「優。私、そんなことまで考えてなかった。たくさん考えて考えて、悩んでくれていたんだね」
「まぁ、そうだね。一番大事なのは命と未来かなと思って。もし、このままの関係を続けていたり、事実婚みたいにしていて、本当に命が零れ落ちそうになっていて、あの時結婚してたら、あの時養親養女になってたらって後悔しても遅いでしょ。だから、そうならないように少しでも二人に近いところにいようかなって」
これは俺の我儘なのかもしれないが本心だ。
前に言ったと思う、幸せにすると。
それは生きていることが大前提なのだから。
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