96話 地獄①

 食後はテレビを見ながらお話をして過ごしている。

 食事の時の言葉は悲しかったけれどなんとか落ち着いている。

 私と大輔はソファーに隣同士で座り、ピタッとくっついている。

 彼のがっしりとした腕が私の体に接触して、少し緊張を覚える。

 緊張を紛らわそうとチャンネルを変えようかと提案しようと声を掛けたときにこっちを向いてきた。


「大輔?」

「遥ちゃん……」


 私の唇を大輔の唇で覆うように塞がれた。

 急でビックリしたけれど嬉しいとも思った。

 彼が私を必要としてくれている。

 彼が私に関心を示してくれている。

 バカで単純だからキス一つでそう思ってしまう。


「遥ちゃん……どうかな?」

「……うん、いいよ」


 彼は風呂場の位置を聞いてきたから案内をした。

 そして彼はさっと風呂場でお湯を浴びて私の部屋に来た。

 腰にタオルを巻いただけの彼を見るとドキドキが止まらない。

 それは彼のがっしりとした肉体になのか、緊張からなのかは分からない。

 次は私が入るターンである。

 風呂場に入り熱めのシャワーを頭から浴びるとさらに鼓動が速くなる。

 鏡を見ると自分の体が映る。

 彼と出会ったときとはだいぶ変わった気がする。

 髪の毛はもちろん、お腹も少し引っ込んだ。

 彼の好きな見た目に近づいているし、見てもらう。

 今日は忘れられない日になると思う。

 彼と深く結び付く関係になる。

 彼が私の先輩を卒業する日に楽しい思い出を作れることが嬉しい。

 バスタオルを巻いて彼のいる私の部屋に戻り、その後は彼に身を任せた。

 少しすると彼は直方体のパッケージをカバンから取り出した。

 プラスチックの包装は取られていて興味本位で中身を見せてもらうと、内容量より個数が少なくなっていることに気が付いた。


「大輔はこういう事、初めてじゃないの?」

「遥ちゃんと出会う前に」


 私と大輔が交際を始めたのは入学後の五月からだ。

 サッカー部のカッコいい男性だから、私が入学する前の二年間に私以外の人と交際していてもおかしい話ではない。


「そっか。責めてるわけじゃないよ」


 それなのに自分でも何故か分からないぐらい冷たい声が出てしまった。

 自分で言うように彼のことを責めているわけではない。

 交際していればそういう事もする可能性だってあるし、彼も用意してくれていて安心感がある。

 中途半端に残したそれを持ち込んで、今、私と使うことに対して嫌なのかもしれない。

 個別包装とはいえ、その箱自体は他の女と一緒に楽しくなったものであり、それを今の交際相手である私にも使おうとしている。

 気にし過ぎなのかもしれないけれど私は心に引っ掛かりを覚えた。

 お金もかかるから気持ちも分かるけれど、大輔と楽しくなってた女を意識してしまい胸が苦しくなる。

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