125話 大好き②

「優さん」

「ん?」


 私は自分の小さい手を彼の手に重ね、握る。

 握手ではなく、指を交差しあう親愛している同士がする握り方だ。

 彼の綺麗な手、私を何度も支えてくれていたこの手が大好きだ。


「こ、こ、恋人みたいな……新婚さんみたいなこともできないかもしれないし、させてあげられないかもしれないけどさ……」


 再び顔が熱くなるのが実感する。

 この話をしたいと思っていたけれど自分が思っているより照れる。

 そんな思いで言った言葉に彼は面白がっているのか「何してくれるの?」と言い、さらに顔が熱くなる。

 やけになって彼の耳元で小さく呟いた。

 彼の顔が近く、自然と彼の匂いが感じ取れる。


「それはね……お風呂にするか、ご飯にするかってやつだよ。もう、言わなくても分かるでしょ? もっとハッキリ言ったほうがいいの? 仲良しとかそういう言葉のほうがいい?」


 耳元が弱いのか彼はビクッとなりながら聞いていた。

 見る見るうちに顔が赤くなってきて、してやったりと勝ち誇れる思いだ。

 彼は恥ずかしさを隠すためか握っている手を痛くならない程度により握る。

 初めて彼が私を本質的に異性と意識してくれた。

 それでも優さんは一息の間を開けていつものように言葉を紡ぐ。


「恋人みたいなことや新婚ごっこをするつもりないよ。安心してね。今まで通り接するから」

「それは嫌だ」

「えっ?」


 彼の言葉は本当に嬉しいものであるが、今は目の前の男の人にの恋する乙女として話している。

 小中学生の恋愛ではないから恋して、時間が経って、双方の意思があればそういう事もする。

 直接的なことはしなくとも恋人、というよりは新婚の新妻として扱って欲しいのだ。


「ちょっぴりでいいから……母親としてではなく一人の女性として見て欲しい。今すぐにじゃなくていいから。今……母性的なものががドバドバ出ているのか分からないけれど……ね。でもそこらへんはわかってくれているし……ちょっと待ってね」

「うん、それは分かってるよ」


 私のことを大切に思ってくれる、自分の欲で動かない。

 そういうあなたの優しさが大好き。


「だから、今はそういうことをするのは難しいけど、もう少ししたらさ……一人の女として見てよ……産む前は結構そういう欲強かったから。お腹に結ができたときにはそういう欲は消え去ったけど。多分、私の観測的にそういう欲求、ちゃんと戻るから。結構早く……今週末あたりには?」

「早ぇ~。今までの話は何だったんだ~」

「嘘じゃないよ~」

「まぁ、いつでも待ってるよ。というより、いつも居るから」


 今週末は少し言い過ぎかもしれないが、あなたと一緒にそういう時間を過ごしてみたいのは本当だ。

 優さんの、近藤優のすべてが欲しい。

 あなたにもっと私のことを知って欲しいし、もっとあなたのことを知りたい。

 あなたと共に生きて、たくさん喋って、たくさん遊んで、色々なものを食べて、同じ時間を過ごしたい。

 彼に対する感情が抑えきれなくなってきている。


「優さん。聞いて」


 ちゃんと言葉にしないと伝わらない。

 彼が私のことをどんな時も受け入れてくれた。

 きっとこの大一番の言葉も包むように受けてくれると思う。

 彼の目は私を捉えてくれている。

 あなたの目には私だけが見えているだろう。

 その澄んだ目が大好き。

 私と一緒に同じ景色を見て欲しい。

 大きく深呼吸を一回して彼に私の気持ちを伝える。


「私は近藤優の隣にいたい。あなたのことが大好きです」


 その瞬間、結と目が合い、心の中で「ポンコツなお母さんでもやるときはやるんだよ」と伝えた。

 彼女は当然ながら何も答えることはなかったが、穏やかな表情を見せて静かに目を閉じた。

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