124話 大好き①


「私も一回座ろうかな。よいしょっと」


 立ちっぱなしであったからベンチに座った。

 隣にはもちろん優さんがいる。

 今ではそれが当たり前となっている。


「座って話してもよかったんだよ。疲れちゃうからね」

「真面目なお話だから。ちゃんとしないとダメかなって」


 優さんはそう言ってくれているが、結の人生に関わる大切な話だった。

 しかも私たちがいなければもっと違う人生があっただろうし、制限ない生活を今も送っていたはずだ。

 対等な関係だと思っているがそこはしっかりと分けて考えたかった。


「はい。優さん、結をお願い」


 優さんに結を預けると、再び名前を呼んでくれた。


「結」


 呼び方が変わったとはいえ、いつも通りである。

 結も喜んでくれているような私も見たことのないような笑顔を見せてくれている

 その様子をほほえましく思いながらも、ここからは私が頑張る時間だ。

 優さんが結のお父さんになってくれるということで私は安心して次の話をすることができる。

 これは結には関係ない、私と優さんの話だ。


「優さん」

「ん?」

「お話はまだ終わってないの」

「延長の準備はできてますよ。何時間でもお付き合いしましょう」

「ふふふ。お願いしようかな」


 彼の使う言葉一つ一つが優しさがあり、面白みがあり、話していて飽きない。

 横顔を見ると惹き込まれるような感覚になる。

 桜が舞う、私たち以外に誰もいない静かな公園。

 そこで私は、今、この瞬間だけは母親をやめる。


「ここからは一人の女、優さんにとっての異性として話をしようと思うの。母親ではない私」


 急に顔が熱くなって、空いた両手で頬を覆うようにした。

 これから伝えることに自分だけで照れてしまった。

 彼はその様子を不思議に思って覗き込むようにしている。


「何? どうした? 恥ずかしいことでも言うの? 大丈夫、人いないから誰にも聞かれないよ。それとも家に帰ってからにする?」

「んーん。今言う」


 熱さは落ち着いてきて、横に座っている優さんの肩にもたれかかった。

 やっぱり彼の肩は安心する。

 がっしりとした体が私の体重を支えてくれる。

 目を閉じて彼と過ごしたひと時ひと時を頭に思い浮かべながら話す。


「優さんと巡り合うことができて本当に幸せ。物心ついてからこんな幸せを感じたこともなかった。特に人間関係は最悪だったみたいで」

「うん。色々話してくれたね」

「この世界には私を思ってくれる人はいないのかなって思ってたら……いたよ。その人は近藤優、あなたです」

「そうだろうな。この流れでほかの人が出てきたら悲しい通り越して笑ってしまうよ」


 彼のユーモアある返答にクスっと笑った。

 もたれかかるのをやめて体を斜めに向けて彼の目を見る。

 私をどんな時も見捨てないで、構ってくれたその目でずっと見て欲しい。

 そんな彼の目が大好きだ。


「もう一回聞くけど、優さんは子持ちの私に配慮して私のことを女として見ていないよね?」

「そうだね……信じられないかもしれないけど」

「信じてるよ。私の素っ裸見ても何とも思わないでしょ。この人、何してるんだろう? って感じでしょ」

「そんな感じだね。ある時は服も着ないで悔しくて泣いているし、またある時は堂々と風呂で呼び出してるし。そんなお色気なこと考える暇もない」

「女として話している今はちょっと複雑だな~。でも本当に優さんからはそういうのは感じなかったよ。安心できたよ」


 彼の気持ちは分かる。

 もし彼も今までピンポンダッシュした先にいた人と同じ目をしていたら好きにはなっていないし、ここまで一緒にいることもなかった。

 結のためにも出てただろう。

 優さんはそういう私の心情を理解してくれていた。

 だからこうやって長期期間家にいることができたし、この家にいたいと思わせてくれた。

 どんな私でも支えて、見守ってくれた。

 私のことをたくさん見てくれて、たくさん考えてくれるあなたの心が大好きだ。

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