117話 決別
「終わるために、優さんに聞いてほしいことがある」
「外でいいの? 家に戻る?」
「外がいいの。新鮮な空気を吸いながらがいい」
遥さんは結ちゃんを抱えたまましっかりとした口調で話し始めた。
「でね、話したいことなんだけど。結のことを第一に考えたんだけど、このままじゃだめだなって思った。私ひとりでは結を大人にすることはできないなって」
彼女は結ちゃんの頭を撫でながら遠くを見ながら丁寧に言葉を紡ぐ。
「前の夫は私より二学年上だったの。高校生の時に出会って、付き合って、卒業して一緒に暮らしていくうちに結婚して、結を設けた。優さん、他の男の話だけど気分悪くしないで聞いてね」
「ちゃんと聞いてるよ」
遥さんは顔色が悪くなり冷や汗をかき始めている。
二人の旅を終わらせるためには彼女自身の心どこかにある突っかかりを解かなければならないのかもしれない。
それがこの長く険しい彼女たち二人の道の始まりの要因であると思う。
「大丈夫。私ね、サッカーのマネージャーだったんだ」
「全然似合わないな。入る部活動を間違えてるよ。完全に野球派じゃん」
「そうだよね。結局ルール覚えられなかったよ。今もわからないまま、何も得られないまま卒業した」
僅かながらの笑顔を作って話を続ける。
「最初はね、そこそこうまく行ってたよ。でも途中から歯車狂って。働いているから多少はお金はあったのかな……あまりわからないんだけど……パチンコとかのギャンブル、明らかに飲みすぎなお酒、パカパカパカパカたばこ。ここで気が付けばよかったと思うんだけど気がつかなかった」
「典型的なやばいやつって感じ。なんでそんな人と付き合って結婚したの?」
彼女は一つの事にのめりこむタイプだと思う。
今までの生活でも彼女はやらなければならないことが日々ある中で順番に一つ一つをこなしていくタイプだ。
前の夫の背中を純粋に好きという思いだけで追っていたのかもしれない。
ただ、それだけではないと思う。
その答えが遥さんから告げられる。
「当時は好きだったと思う……浸っちゃって結婚してしまった。でも、そうするしかなかったというのもある。私の親はあまり私に関心がなくて、高校卒業したらお金もないし、家も出されるしで。何もないからさ、そうするしかなかった」
遥さんの親の話はあまり聞いたことがなかった。
彼女の親が遥さんを愛していたという事ではないが、事務的に高校までは行かせたということが読み取れた。
高校卒業したら無関係になって彼女は孤立してしまっていた。
遥さんは一呼吸おいて前を向いた。
「あの男、私のほかに女がいたって話を一番最初にしたよね。でも、許していたよ」
「嫌でしょ?」
「感覚が麻痺してたかも。でも、ね……うっ。ゴメン結をお願い」
結ちゃんを俺に預けて突然口に手を当て始めた。
吐いてはいないが吐き気が彼女を襲ったようだ。
「どうした? 落ち着いて。深呼吸し……」
俺の言葉を遮るかのように大きなハッキリとした声で遥さんは言う。
「大丈夫! 大丈夫だから。これで私は過去の自分とお別れするの。だから、大丈夫」
「そんな慌てなくていいから、水飲んで」
彼女に家から持参した水を渡し、それを彼女は勢いよく飲んだ。
深呼吸をして落ち着きを取り戻し、彼女は再び語り始めた。
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