87話 長い一日⑦

 車に乗って小児科のある病院に行く。


「近くの総合病院でいい? 午後もやってるし駐車場もある」

「うん。お願い」


 雨が強く降る中、車を走らせて病院へと運転する。

 結ちゃんは悪くなっている様子はないが、心配だ。

 運転中は何も話すことなく、目的地まで到着した。

 駐車場を見渡すと、雨の午後であるが混み合っている。

 駐車場に車を止めると遥さんはシートベルトを外す。


「ありがとうね。行ってくるよ」

「一緒に行かなくていい?」

「いいよ。中にも人がたくさんいるだろうし。ここで待ってて」

「気をつけてね。傘、屋根ないところまで使いな」


 遥さん結ちゃんを抱きかかえて、入り口へと消えていった。


「何事もなければいいな」


 そう思いながら正面を見ていると、赤ちゃんを抱えた女性が傘をさしながらこっちへ向かってくる。

 それはもちろん遥さん結ちゃんだ。

 運転席をノックし、窓を開けると困り顔の遥さんだった。


「どうした?」

「優さん、あのね……」

「ん?」

「母子手帳忘れた。大丈夫かな?」


 ガクッという効果音が流れるように俺は首を下に向けた。

 忘れ物の確認をしていなかったか。

 あるに越したことはないが、なくても受けられないということはないだろう。


「大丈夫だと思うよ。忘れました! って受付の人に堂々と言ってきな」

「うん。分かった。行ってくる」


 再び病院内に入ってからしばらく出てこなかった。

 受付することができて待っているのだろう。

 気がつけば雨も止んでいる。

 出て少し体を曲げ伸ばしをする。


「優さん」


 二人が帰ってきた。

 その顔から安心感が滲み出ている。

 結ちゃんも目をぱっちり開け元気そうに見える。

 車に乗り座ってから彼女に結ちゃんの状況を聞く。


「大丈夫だった?」

「うん。病院に来て、待っている間に熱が下がってきていて、悪い病気ではない。布団かけ過ぎて熱かったのかな。汗拭いて、おっぱい飲ませて、ゆっくりすればいいって」

「よかった」

「一応まだ生まれたばかりだから、詳しく調べるために入院もあるって言われたけど、勘弁して下さい、様子見ますって言った。家に帰らせて欲しいって。結も家の方が休めるでしょ。夜に熱上がったときに困るから赤ちゃんでも使っていい薬も貰って来たから、安心して」

「そうだね。よかったよ」

「うん。よかった。ありがとう」

「帰ろうか」


 帰り道、後部座席の遥さんは安心してすぐに目を閉じていた。

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