83話 長い一日③
「ふぅ。結も寝たな~。私も朝から疲れちゃったな~」
結がオムツ漏れしてしまって朝からシャワーで流したりで休まる時間がなかったけど、今は落ち着いてどっと疲れが出た。
寝息を立てながら寝ている結に一枚毛布を掛けて小さい声で話しかける。
「かっこよかったね、優さん。結の汚しちゃった服とか洗ってくれたんだよ。そこまでやってくれる人、なかなかいないよね」
私がやりたくないようなことでもやってくれたり、これからお仕事で疲れるのに朝から動いてくれる。
もし私ひとりだったらどうだっただろう。
漂白剤なんて使っていただろうか、流石に汚れ物を洗濯機に直接は入れてはいないと思うが、パニックになって慌てて何もできていないかもしれないな。
「優さんのこと好きだな~ ふぁ~、少し寝ようかな……」
一瞬で意識がなくなり夢の世界へと向かった。
夢が脳内で鮮明に浮かび上がってきている。
夢の中の私は今よりも少し年を重ねて、その隣には男の人の膝に座る結と思われる女の子がいた。
「お母さん。今日、ハンバーグ食べたい」
そう言った結は小学二年生ぐらいだろうか、夜ご飯のリクエストをするぐらいになっている。
「いいよ~。お母さん。頑張るよ。手伝ってくれる?」
「……お父さん、結ね、宿題しないといけないんだよ。一緒にしよ?」
「お父さんは、私の料理を手伝わなければならないの。床に油とか塩とか落とすのを防いでもらわないと」
「お父さん、結の宿題見てよ。算数、わからないの」
お父さんと呼ばれている彼は困り顔をしているが、嬉しそうだ。
「結、あっちで宿題しようか」
私の様子を見ながら結を選んだようだ。
それに対して、私は足を組んでこう言った。
「へぇ~。可愛くて美しい妻の手伝いより娘の宿題か~。いいよ、いいよ。宿題は大事だもんね。一人寂しく夜ご飯を作るよ~」
娘相手に嫉妬心からずいぶんと可愛げのない言いようだ。
彼もおどおどしてしまっているがいつものことなのだろう、結は勝ち誇った顔で宿題を広げ始めている。
「いや、そういうつもりは……」
「別にいいよ~、あとでたっっっぷり、じっっっくり時間を貰うから~。楽しみだね~。さて、食事をつくりますか」
きっと夢の中の私は彼との時間も大切にしているからこそ、このような意地悪な言い方をしてしまっている。
お互いがお互いに対して心を開き切っていることが分かるシーンだ。
「そ、そうだね。た、楽しみだな。ははは……」
それを聞いた彼は何かに少しだけ恐れているようにも見えるが、何だかんだで楽しそうだ。
夢の中の私はこんなにも幸せなそうだ。
そして夢の中の私はエプロンをしたところで、結と男の人にギューっと抱き着かれている。
「お母さん。おいしいごはんをありがとう」
「ありがとう。後ほど埋め合わせはするから、お手柔らかに」
「結、どういたしまして。ご飯の前に宿題終わらすことはできるかな?」
「うん。できる」
結はすぐに離れて広げていた宿題に取り掛かるために離れて行った。
残った彼の耳に口を当てて何かを言った。
顔を真っ赤にして結のいる場所へと戻っていた。
「お父さん、顔が赤いよ? 熱があるの?」
「大丈夫だよ。ご飯までに宿題終わらせよう」
「うんっ」
その会話を聞きながら私は上機嫌で食事を作り始めた……。
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