77話 二か月
「お疲れさまでした」
今日の仕事が終わり周囲に挨拶をするとそれに呼応するように「お疲れ様です」と返って来る。
廊下を歩き、エレベーターを待っていると広田副社長に出会う。
「お疲れ様。帰りだね」
「はい」
「なんか楽しそうだね。前より生き生きしてるよ」
「そうですか?」
「遥ちゃんたちがいるからかな?」
自分では分からないが二人がいることによって仕事もパッパッと、かつより丁寧にするようになっているのかもしれない。
失敗したら時間が別にかかるから、多少時間がかかっても一回で慎重にするようになっているのかもしれない。
エレベーターが到着し一階へと降下した。
出口を出て道を進むと「あら?」という声が聞こえると斜め後ろに人影が付いてきた。
「家、反対方向だよ」
「間違っていないです。ちょっと近くの百均とケーキ屋に。結ちゃんが今日、二か月なんで」
「そっか、そっか。喜ぶんじゃない? 私は近くのスーパーに行くから。今日のご飯を買うんだ。一人寂しく会社のデスクでご飯ですよ~。あ~寂しい」
そうこうしていると百円ショップに到着して広田さんと別れ入店した。
カゴを持ち必要となるものを購入する。
カラフルなロウソクを手に取り、カゴに入れる。
音はビックリするからクラッカーは見送り、くす玉にする。
紐を引くとおめでとう、という言葉が垂れ下がる仕組みである。
あとは、飾り付けのキラキラしたモールだ。
色は……青色とピンク色にする。
二人と初めて出かけたときに買った服もこの色だった気がする。
「大きくなったよな~ 結ちゃん」
二か月になった結ちゃん、これからもっと大きくなることを祈る。
百円ショップで買い物が終わるとケーキ屋へと移る。
「いらっしゃいませ」
ショーケースにはさまざまな種類のケーキが並んでいる。
もちろん結ちゃんが食べるには早すぎるから、遥さんが主に食べるのだろう。
みずみずしさが分かるイチゴのケーキ、苦さと甘さのバランスがあるチョコレートケーキ。
結ちゃんの記念の日だからやはりイチゴのケーキだろう。
小さめのサイズのものを指差し店員に注文した。
「有料でプレートが付けられます」
誕生日の日にケーキの上に乗せるチョコレートのプレートだ。
「あー、じゃあ、ゆいちゃん、と書いてください。誕生日用のを」
「かしこまりました。ロウソクは有料でお付けすることができます」
ロウソクは有料であることを想定していたから事前に購入してあるのだ。
「ロウソクはなしで」
「有料でこのような飾りもできますが?」
砂糖やゼリーで作られている人形を勧められた。
今回はクリスマスなどの行事ものではないから見送ることする。
「いらないです」
「分かりました。お持ち帰りの時間は? 有料でドライアイスや保冷袋をお付けできます」
こんなに多くのことを聞かれることは初めてだ。
ケーキ一つでこんなにも質問があるとは思いもしなかった。
前に来た時はこんなことなかった気がする。
色々有料化したりオプションが広がったのだろう。
帰宅までの時間が二十分ほどであることを考えると無料の保冷剤で間に合うだろう。
「二十分ぐらいですので」
「では無料の保冷剤をお付けします」
その後手提げ袋の有無、リボンの色を選択できることに対する質問があり、ようやく会計へとこぎつけた。
「スタンプカードはお作りになりますか?」
「……えっと。はい。作ります」
スタンプには今日の日付も捺印されている。
結ちゃんが二か月の今日の日付だ。
きっとまた結ちゃんを祝うこともあるだろう。
あっという間に一杯になるはずだ。
「商品です。ありがとうございました」
右手にはカバン、左手にはケーキ、肩には飾り道具を入れたエコバッグ。
時間が過ぎて暗くなってしまったが、少しずつ暖かくなってきている二月末。
二人が待つ家へと戻るのであった。
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