122話 血縁①

「だから……さ……」


 下を向いて言葉を選んでいるようだが、なかなか発することは難しいようだ。

 彼女が言おう言おうとしていることは分かる。

 それを聞いた俺がどんな回答をするのかも彼女は分かっているだろうけれど、聞くまでは本当にその答えなのかは分からない。

 彼女の心はドキドキして言葉が口に出ないのだろう。

 俺の思いも二人に伝えておく必要がある。

 結ちゃんはお母さんを勇気づけるかのように手の指を握っている。

 結ちゃんを抱えている遥さんの手を軽く重ねた。

 すると緊張感で一杯な顔をこちらに向けた


「ありがとう。聞かせてくれて。結ちゃんが元気に明るく成長できるように、しっかりこの世の中を生きていけるようにする。そして結ちゃんの命を守る。こう見えてもそういう覚悟と責任はあるよ。そう思って家に入れたし。もちろん遥さんのことも。二人のことを守りたいって気持ちがあるよ」

「優さん……」

「二人が家に来たときに感じた。二人との関係は、二、三日で終わるものではないなって思った。この親子の滞在は週、月……いや、年単位になる気がした。何も言わなければもしかしたら何十年もいたでしょ? いつの間にか結ちゃんが大学入学していたかもね」

「……うん。そうかもしれない」


 苦笑いをする彼女の手に力が入った。

 そのことによって手のひらの体温がより伝わる。

 外にいるから冷たいはずがとても温かく感じた。


「二、三日の関係で終わりそうならここまでのことはしてない。二人が落ち着くまでここにいられるようにと思って色々したし、話も聞いた。それがなくても、もう二人がいない家なんて……考えられないな。それだけ二人にはいてほしいと思っている。楽しいもんね」

「優さん、お願いします。一生続けて欲しい。私たちとの関係を」


 その言葉は今後の三人の関係を決定的なものとするものだ。

 ただ、この関係にするには遥さんや俺には絶対に変えることのできない事実がある。


「遥さん。将来結ちゃんが大きくなってどんな風に伝えるの? 俺とは絶対に似ない。多分気が付くよ」


 結ちゃんには俺の遺伝子が入っていないから、顔は似ないだろうし、血液型が遺伝的に矛盾が生じるかもしれない。

 このようなことは大きくなった時に自然と疑問となり、真実に気が付くだろう。

 この問いを聞いた彼女は目を閉じて深く息をした。

 そして意を決し、その答えを言う。

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