120話 分岐点①
ブレイクタイムが終わったところで話の続きになった。
ベンチから立ち上がった彼女は俺の前に来て頭を下げた。
「この一か月間、結のことを本当の娘のようにかわいがってくれて、そして助けてけれてありがとうございました。本当に助かりました」
「……娘」
娘という響きに少しだけ緊張した。
結ちゃんは俺の子供ではないが今までの接し方はそう見えていたのかもしれない。
現にパパ代行をしているのだから。
遥さんは頷いてから話を続ける。
「結の生物上の父親は存在する。今どこにいるかは分からないけれど」
「まぁ、結ちゃんは人間だもんね。遥さんが一人で結ちゃんをつくることはできないもんね」
一組の異性によってはじめて子孫が残される。
親による生殖の過程があって俺も、遥さんも結ちゃんも今ここにいる。
母親は産むまでは赤ちゃんを四六時中、生活を共ににするが、父親はそうではない。
途中でいなくなったとしても、自分の子孫が繋がる可能性は十分にある。
もちろん野生動物はそうやって繁栄させているのだろうが、人間は違う。
残された母親と子供はどうなるのだろうか。
遥さんと結ちゃんのようなお金も頼る人もいないような人はどうやって生きるのだろうか。
しかも彼女は器用な生き方をすることはできないだろう。
「今、家庭上父親はいない。生物上の親は親じゃなかった」
「そっか」
一層遥さんの目が真剣になった。
きっとここからが核心を突く問いになるのだろう。
「優さんに聞いてほしいことがあるの」
「嫌だな~、聞きたくないね。さぁ、今日は一緒に買い物でもして帰ろうか」
冗談ぽく言うと遥さんは柔和な笑顔を見せる。
「ははは、優さんも詰めが甘いね。一緒に帰ろうってことは結局はあとで聞くことになるってことだよ」
笑いながら一歩近づいて俺に迫ってくる。
「聞いてよ」
「聞くよ。遥さんの、結ちゃんの話は聞くよ」
「そう言ってくれると思っていたよ」
「いや~、なんか今日は人生の分岐点になりそうだな~」
「あはは、そうだね~」
言葉通りこれからの話は人生が大きく変わるものとなる予感がする。
俺にとっても、遥さんにとっても、結ちゃんにとっても。
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