21話 この家②
俺の目をまっすぐ見て遥さんは口を開く。
「でもさ、優さんは私のことをそういう目で見てないでしょ。女の人は視線に敏感らしいからわかるよ」
「そうだな」
「うん、目を見ればわかるよ。目がそう言ってる。見られていても気持ち悪くない。私が結におっぱいあげるために出していてもさ、そういう風に感じない」
彼女を見るときに思っていることは、次にどんなトラブルを起こすのかというハラハラ感が強い。
「出していても気にしてないよね。気は使うかもしれないけど。見ていてもチラチラ気持ち悪い感じじゃなくて……ガン見? でも、私じゃなくて結のことだよね、見てるの」
「そうかもな、遥さんを変な目でみることないから。安心してください」
「それは私に興味がないってことなのかな?」
頬っぺたを膨らませている。
そういう若々しくて可愛らしい姿もあることが分かった。
「今はそういう話題じゃないでしょ」
「ごめんごめん、でもお母さん心配だな。若い男性なのに」
俺はもう笑うしかない、かくいう遥さんも楽しそうだ。
少しするとまた結ちゃんのほうに目線を移した。
「でも何よりもここに居たがってるのは結なの」
「うん、ん? どういう事?」
「今までの家ではこうやって泣き止むことはなかったの……私が家をピンポンする前から泣いてたの。いわゆるギャン泣き、いやギャンギャン泣き。もう大炎上」
今日出会ってから結ちゃんがギャン泣きしている姿をまだ見てない。
もちろん泣いている姿は見ているが、赤ちゃんとあまり接したことのない俺の想定範囲内だ。
「でもこの家の鐘を鳴らす時から結は落ち着いていた。ここだって思ったのかな」
「それはよかった」
「でも違ったよ」
「うん?」
手を伸ばして俺の腕に手を添えた彼女は、安心しきった声で言った。
「この家にいる優さんなんだよ」
「俺?」
予想外の答えに声が裏返ってしまった。
「優さんが近くにいないとダメなんだよ、せっかく貸してもらった部屋に入っても泣いちゃったし。まぁ、まだ一か月だからだけど……なんか寂しそうだった。昼はさ、明るかったから怖くないけど、夜はまだ怖いんだよ」
「……」
「でも、今はすやすやしてる。安心してるんだよ。赤ちゃんはわかるんだよ。守ってもらえてるって」
もしかしたら大人には分からない感覚があるのかもしれない。
俺は彼女たちに何かしてやれているわけでない。
ただ、結ちゃんが安心して眠れる場所を提供しているだけだ。
「私さ、人の見る目がないからかな、入れてくれるだけで満足しちゃって……でもそれが結にどれだけ辛い思いをさせてしまってたのかなって。危ない思いもさせちゃったかも」
結ちゃんの頭を撫でながら話している、本当に悔いているようだ。
我が子の身に何かあったらと思ったら。
「でも、守ったんでしょ」
「へ」
「その最初のバーさんは意図的に害を加えるつもりはなかったとして……ほかの変な輩からは自分を盾に指一本触らせなかったんだろ。結ちゃん、お母さん頑張ったね」
「うん……がんばったよ」
「遥さん」
「なに」
「お母さんだよ。結ちゃんにとって、そばにいてほしいと思われる」
俺がそういうとにこっと笑った。
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