20話 この家①
「ねぇ、遥さん?」
「なに。優さん」
「自分で言うのもおかしいかもしれないんだけど、知らない兄ちゃんの家に入って怖くないの? 警戒しないの?」
「う~ん、あんまりないかな。むしろ、ありがとうが強いよ」
あまりにも警戒心なく接しているから聞いてみたのだ。
「うん。大丈夫。優さんはいい」
「そうかな?」
「うん。本当だよ」
遥さんの目線は俺から結ちゃんに移った。
「多分、結がこの家を選んだんだと思う。この家がいいなって」
「どういうこと? 結ちゃんが選んだって?」
「あのね、この家にお世話になる前も他の家にもお世話になったんだ。たぶん五回ぐらいは家に入ったかな?」
「どんな人だったの……ってあんまりいい予感はしないな」
ピンポン先が良かったら今ここにはいないだろう。
「ある一人は70代ぐらいのおばちゃんだった」
「ん、まぁ……悪くなさそうだけど……」
「うん、言葉悪いけど、当たりかなって思ったよ……子育てもしてたのかもしれないし安心した。でも、結にべたべた触ってくるんだよ。土いじりした後とかトイレの後とか。何時代だって話だよ」
結ちゃんが寝ているから声量は大きくないけど口調はなかなか強い。
もしかしたら普段はすごく優しい温厚な人柄なのかもしれないが、怒ったら本当に怖いのかもしれない。
今まで言えなかったけど、心の中ではすごく怒りを持ったエピソードである。
「でも、優さんは、結に触るのにわざわざ手を石鹸で洗ってきてくれたじゃん」
「当たり前のことだろ。季節的にも」
「その当たり前ができない人がいるんだよ」
俺の言葉を真似た。
最初に、事情を聞いているときに俺が彼女に言った言葉。
俺があの時言わなくても、彼女の価値観や常識は高い、特に娘である結ちゃんに関して。
「だから、その家には六時間ぐらいで出てきちゃった。挨拶もそこそこにね」
ここまで不愉快な家なのであれば仕方がない。
「ある家にいたのは若い男の人と女の人だった。やばそうだったけど寒かったし入っちゃった」
彼女は震えている、その家で何があったかはなんとなく想像がつく。
「最初は優しくしてもらった。結に危害がなければ、暖かければ、それでいいと思っていたから、怖くても我慢できた。口出しもしなかったからさ、大丈夫かなって」
「……」
「でも、結がギャン泣きで、端っこのほうでおっぱいあげようとしたら……」
「その男が何かしたのか。大丈夫だった?」
「いや、最初に目をつけられたのは女の人のほう……怖かったな……」
「ん。女の人?」
「うん。私もまさか女の人から先に目を付けられるとは思わなかったよ……勝手なイメージなのかな?」
「『おい、姉ちゃんよう、人の家でパイ出してミルクやろうってか。本当はガキは苦手なんだよ』なんて言われちゃって」
物まねでどんな人だったかわかる気がする。
確かに小さい子供が苦手な人は案外いる。
「まぁ、仕方ないとは思っているよ」
「うん。まぁ、うん」
「案外ね、男の人は手を出さなかったんだよ。危ないかなって思ってたんだけど」
「そりゃあ、同居人がいるのに手は出さないでしょ。そこで色目使ったらその同居の女の人と修羅場るよ」
遥さんはクスクスわらってる。
「すごいイケメンだったからそんなことしないのかなって思っていたら、チラチラ見ていた。変な目で。気持ち悪かったよ」
「そっか……嫌な思いしたな……」
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