92話 高校

 私が高校生の時に住んでいた場所は田舎に入るかもしれない。

 バスも満足にないし、駅前まで行かないと商業施設やデパートもない。

 勉強もできない私はそこそこの高校に通っていた。

 親からは期待もされていないし、そもそも関心を持たれていない。

 学費は支払われているようだが、生活費は必要最低限だ。

 そんな高校時代、私は一学年上の先輩が好きだった。

 高校二年生の時に出会った先輩だ。

 私は一目見てかっこよく見えた。

 初めて見たのは校庭でサッカーボールを蹴っている姿だった。


「はい、パス」


 見た目はイケメンで整った顔の男子生徒だった。

 明るい金色の髪の毛がイケメンの中に少しチャラっとしている感も出ている。

 体も大きくて恵まれた体格である。

 周りには彼を見てキャーキャーと歓声を発する女生徒がいることから、彼は人気の生徒なのであろう。

 その先輩の名前は飯山大輔いいやまだいすけという。

 彼に少しでも近づきたいと思い、私はサッカー部に入部した。

 もちろんサッカーはできないから、マネージャー登録である。

 私がマネージャーで、彼は選手という関係だった。


「よろしくお願いします。精一杯頑張ります」


 こう挨拶すると大輔は笑顔で拍手をし、歓迎してくれた。

 彼はサッカー部でも中心的な存在であるから部員の前で挨拶するときも隣にいてドキドキした。


「遥ちゃんか。よろしく」


 サッカーには全く興味もなかったけどたまたま見た大輔がサッカー部だった、それだけだ。

 サッカーの細かいルールも用語も分からない。

 ルールブックを読み込んでも結局のところ理解することが出来ない。


「んーん? オフサイドってなんだ」


 サッカーが好きな人には申し訳ないが、私はサッカーより野球派だ。

 インフィールドフライの適用ルールを一から十まで説明できるぐらいには好きだ。

 でも、一生懸命サッカーのルールを覚えようとした。

 彼のポジションはサイドバックだったようだ。

 実際、最後までどんな役割かわからなかった。

 そんな役立たずなマネージャーでも入れるぐらいのサッカー部だから、部内の規則は緩く、恋愛禁止なんてルールもなかった。

 彼に置いて行かれたくないし、もっと仲良くなりたい。

 いつかは恋仲になって、結婚したりするかもしれない。

 高校生にもなって好きな人が出来たら内面も見ずに結婚を考えるなんて幼稚だと自分でも分かっている。

 そんな幼稚な人間が私であるし、もしかしたら重たい人間かもしれない。

 それだけ彼に付いていきたいと思ったのである。

 そのためにまずは彼と交際を始めることにした。

 彼とは帰りに一緒になったり、ファストフード店で食事したりして仲を深めた。


「先輩は今お付き合いしている人はいますか?」

「いないよ。もうすぐ卒業しちゃうし」

「進学ですか? 就職ですか?」

「就職するつもりだよ」


 彼は卒業したら仕事のために社会に出る。

 私はまだ高校二年生で社会にも出られない。

 そんな私が彼に何ができるだろうか。

 大輔はハンバーガを食べながら聞いてきた。


「遥ちゃんは? 遥ちゃんは何か将来したいことあるの?」

「私は……将来、家族を作って、仕事に行く旦那さんを支えたり、子供を育ててみたい」

「大人なんだね。そんなこと考えるなんて」

「バカにしてますか? 古い考えなんですよ、私は」


 膨らませた頬の空気を抜くように彼は手で顔を触ってきた。

 彼の触り方はなんか手慣れたようであったが、少し嬉しくもなってしまった。

 私がここに存在していて、大輔に私を見られていることが感じられるからだ。

 この時の私は自分で評価したように幼稚だったかもしれない。

 パートナーと暮らすこと、子供を授かりお腹で育てること、何よりも子供を守り抜くことの本当の大変さを全く理解していなかったから。


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