14話 買い物①
「じゃあ、行こうか。まず、トイレに行きます。結のオムツを変える」
「おう、行こう」
彼女は建物に入ったらトイレに行き結ちゃんのオムツを変えに行った。
遥さん自身もお手洗いということだったため二十分ぐらいと言われた。
その間に俺は銀行のATMでお金をおろす。
ある程度まとまった額をおろす。
並んでいたために出金を終え、二人のもとに戻るとベンチに座っていた。
「どこ行ってたの?」
そういう彼女の目は不安に満ち溢れてた。
今まで誰にも頼ることができなくて一人だったのに、また一人になってしまったことに不安を覚えてしまったようだ。
「ごめん、勝手に離れて。おか……」
お金について口にしようとする、一歩前で止めた。
「ごめん」
「もう離れないでよ」
「わかった。じゃあ行こうか。とりあえず今日明日使うものを優先な。軽自動車に詰められる量は限界がある。でかいものは、また今度だ」
「うん、わかった」
まずは、ベビー用品を扱うエリアに行った。
「何が必要なんだろう……」
「なんだろね~」
試してるのか、彼女は鼻歌交じりに歩いている。
「粉ミルク、哺乳瓶、おむつかな」
「ハハハハ、そうだね」
「多分あってるでしょ」
「うん、お願いしようかな」
カートを引きながらおむつの売り場に来た。
メーカー、サイズが異なるものが多種にわたって陳列されている。
「どれがいいの?」
「この大きさ」
「了解」
「熱心だね」
「そうかな。まぁ、できることはするよ。買い物とかは」
オムツとおしりふきをかごに入れた。
これだけでもカゴの半分が埋まっているが、一か月の赤ちゃんがどれくらいの頻度で消耗するのかわからない。
ましてや未熟な赤ちゃんを置いている責任がのしかかっている。
「足りるの?」
「今日明日には十分でしょ」
「いや、そうだけど。わからんぞ、明日ドカンと地震来たらいかんよ。なんでも多めに買って」
「うん。ありがと。十分だよ」
次にミルク関連の売り場へと向かった。
缶入りの基本的なものからキューブ、液体といった商品がある。
ここまでバリエーションが豊かであることは、二人に出会わなかったら知らなかったことだ。
「ミルクはどうする、どれがいい?」
「どれがいいんだろうな~」
「粉ミルクとか液体とか使ってないの? さっき、缶捨てたけど」
「いろんな本とか見ても母乳が出なくて困ったって体験談が書いてあったりしてたけど、私は今は困ってはいないんだよね。いや、本当に神様ありがとうだよね~」
彼女は自分の胸元に軽く手を当てながら言った。
「だって、おっぱい出るのに困っていたら結にご飯あげられてなかったと思うと……」
どこまでも結ちゃんを中心に置くことのできる親であることが分かる。
子供を満腹にさせるという、親の仕事を遂行する強い意志が瞳の奥に燃えている。
「そこまで神様も見放さないだろ。神様も赤ちゃんには優しいんじゃないの?」
「そうかも」
「で、お母さん的にはどうしたいんだい」
「うーん、とりあえず分泌されているし……自分のおっぱいあるからね。結はなんでもいいって感じだよ。液体だろうが粉末だろうがちびちび飲んでたよ」
「そうか、じゃあとりあえず1缶買っとけばいいんじゃない。あと、明日……いや今日、帰ってから地震あるかもしれないし。あれ、地震があったら水出ないか。液体のほうがいいのか?……まぁ、買っちゃえ」
考えると考えた分だけ俺が不安になってくる。
買っても無駄にならないだろうと信じて粉末粉末ミルク一缶に液体缶三本をかごに入れた。
その様子を見ている彼女も頷いているから、これで様子を見ることにする。
「哺乳瓶はどうする」
「優さん選んでよ、結へのプレゼント」
「えっ、マジ」
「マジマジ」
「どれがいいの」
「まぁ、優さん選んでくれたら喜ぶんじゃない」
「なんかいろいろ種類あるみたいだけど指定ないの」
「私はあんまり知らないんだよ……なんか違うの? メーカー?」
明らかにいろいろ違うけど。
「じゃ、俺が決めちゃっていいの?」
「うん。そうだね。よろしくお願いします」
もう一回端から端まで見て選んだ。
「じゃあ、これで」
「決め手は」
「……ん、決めて? ……う~ん、素材が天然ゴム。天然ゴムは一番本物に近いって聞いたことがある」
「そうなんだ、知らなかったよ」
「そして、吸う力弱いだろうからまあるい穴が開いているもので小さいの……一ヶ月ってかいてあるよ。これだ。知ってるメーカーだしね」
「なるほど、初耳のことがいっぱいだ」
「いかがでしょうか?」
「いいと思う」
「じゃあ、これ二本ぐらいか……あとプラスチックもいるか」
哺乳瓶といえばガラスだがプラスチック製も売っている。
ガラスは冷めやすいけど割れる、プラスチックは軽いけど冷めにくいなど考えれば考えるほどメリットとデメリットのバランスが分からなくなってくる。
使ってみないことにはわからないことが多すぎるから使ってみるしかない。
ガラスを二本とプラ製一本を選び哺乳瓶をカゴに入れた。
「……そんなに買ってもらっていいの……」
「消耗品でしょ? ゴム部分は替えられるのかな? 外出るときは軽いほうがいいでしょ。あと、瓶割っちまったらこまるでしょ。不測の事態に備えないと。遥さんは絶対落として割るよ……そういえば、今までどうしてたの? 一本も持ってなかったの?」
棚に陳列されている哺乳瓶を眺める遥さんは笑顔でこう言った。
「割った」
それを聞いた俺は、もう一本ガラス製哺乳瓶をカゴに入れた。
「一本増やす」
「すいません……ありがとう。結もありがとうして」
そして次に向かったのは布団。
結ちゃんが寝るのに必要な寝具は家にない。
新しく買うべきものの一つである。
「ベットはいらないの?」
「そうだね。使わなかったっていうこともよくあるらしいから……」
「もっと調べてからにする?」
「うん、外で寝るよりはましだよ」
「外と比べてもな……」
「じゃあ、今日は赤ちゃんサイズの布団かマットにしよう」
「うん、おねがい」
目の前にある布団やマットの数々をざっと流し見た。
値段も違うなら使ってる素材も違うようだ。
「なんかこのメーカー聞いたことがあるけど」
「そんな高いのだめだよ。有名なメーカーに弱いね」
「えっ、まぁ。高いけど、より良い睡眠をとったほうがいいんじゃないの」
寝る子は育つなんて言葉があるから睡眠は重要であろう。
「それは……そうだけど」
「俺が結ちゃんに買ってあげるものだから」
「じゃあ、結、買ってもらおっか」
「ん。あとはなんだろう。ベビーカーとかはいいの?」
「うん。最優先じゃないかな。私の体もまだ元気だよ」
「体痛いんじゃないの?」
「それは、それ、これはこれ。人を抱えてたら普通に疲れるよ。でも、やるときはやらないと。自分で抱えてなんぼ。でも、重いは重い」
「やっぱり買う? ベビーカー?」
そう言ったが「いらない」の言葉が返ってきた。
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