3話 一息
しばらくすると、女性がきれいになった結ちゃんという名前の赤ちゃんを抱き抱えて連れてきた。
本人は洋服の袖を捲っていて、びしょびしょになっている。
風呂場までの道を見ると垂れた水滴、彼女の足跡、結ちゃんに使ったであろう石鹸の泡が点々としていた。
「お風呂ありがとうございました。おむつでかぶれたりするんでよかったです」
「……大丈夫ですか?」
「お湯を足そうと、シャワーを上からかぶっちゃって……あはは。私も少し肩までつかりたいので……見ていてもらえませんか。結を入れている間に浴槽に張ったお湯少し熱くさせていただきました」
「それはいいですけど」
多分役に立たない。
俺の心情を察した彼女は、手を合わせて懇願するようにした。
「走って行ってくるので……見ているだけでいいので」
「わかりました。何かできるわけでもないですけど」
「お願いします」
お風呂場のドアがガチャンと聞こえてから、女性が歩いた廊下を拭くのであった。
それは、自分の家に漂う事のない匂いであった。
足早に風呂場へと姿を消し、そうして残された21歳男性と赤ちゃん。
俺はどうしていいいか本当にわからない。
正座で俺は見守るしかできない。
赤ちゃんの顔や胸の動きを見て生存を確認する。
「よし、息はしているようだな」
なんか……とてもとてもかわいい。
首は……すわってなさそう……
そんなことを確認していたらまた目が合った気がした。
おそらく目はまだ見えてないだろうがなんとなくこっちを見た気がした。
「……どうも、近藤です……」
取り敢えず小さな声で名乗って小さく手を振った。
多分この結ちゃんはこの世に生を受けてまだ一か月そこらではないかと思う。
視線を動かすと彼女が飲んでいた紅茶のカップが目に入った。
飲み終えたカップを台所に行き、溜めてある水に浸けておく。
洗いたいがお風呂場のお湯が出なくなる恐れがある。
入浴後のお茶が入った冷水筒とお菓子を用意しておき、結ちゃんの近くに戻り彼女を待つ。
数十分もするときれいになった女性が出てきた。
入浴前よりさらに若く見える。
まだ少し濡れた髪の毛、赤ちゃんを気にかけ大至急拭いてきたことが分かる。
よく見るとかわいらしいまだあどけなさが残る顔だ。
まだ体が熱いのか青いTシャツと短パン姿だった。
「お風呂、ありがとうございました。久しぶりでした。広いところで……ちゃんと温まることが出いましたし、しっかり洗えました。髪もサラサラです」
「えっ、久しぶりなんですか?」
驚いて声を少し張ってしまった、結ちゃんはびっくりしてないようでよかった。
改めて結ちゃんを見ると、少し肌が荒れていたりしている。
服で見えないが汗疹もできていることが想像できる。
「ずっと正座で待ってたんですか?」
「あっ、いや。その……正直どうしていいか……分からなかった」
「ははは、そうですよね。結泣きませんでしたか?」
「はい、泣きませんでしたよ」
「……そうですか、よかったです」
泣かなかったことが珍しいのか一瞬目を丸くした。
それと同時に、結ちゃんの様子を見て安心したのかホッとしたような表情を見せた。
座布団に座ると彼女は正座をして一息ついてから話し始めた。
「冷たいお茶飲みますか?」
「はい。下さい。とてもあたたかいお風呂でした」
氷を入れたコップにお茶を入れ差し出し、それを受け取って一気に飲んだ。
コップには少し白く濁っている氷だけが残った。
「……もう一杯飲みますか?」
「お願いします」
冷水筒を傾けコップに注ぎ彼女に渡す。
今度は一口飲んでテーブルに置いた。
一息ついたようで状況説明に入るようだ。
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