11話 飲食店
「ここ、着いたよ。降りられる?」
駐車場に車を止め、必要な荷物をもって店に入ることにする。
「ここなんかすごいね」
スロープ、手すり、自動ドア。
今思えば普通かもしれないが個人の店にしては案外珍しいかもしれない。
自動ドアを開けると、女性店員が出迎えた。
俺より少し低い身長で金髪をしていて、つり目なのでちょっと威圧感はある。
「いらっしゃい……、って
「ああ、連れがいるんだけど個室あいてるか? 空いてそうだな」
その連れを俺は一瞥した。
遥さんは威圧に負けていて、後ろに隠れている。
「空いてそうだって? 喧嘩売ってんのか……ああ、連れ? って、若い姉ちゃんと赤ん坊じゃねえか。いつ生まれたんだ? 聞いてなかったぞ。親戚かなんかか?」
こんな会話を聞いてる遥さんは少し緊張した様子で俺に話しかけた。
「あの……お知り合いなの? このお姉さん」
俺の後ろに隠れていて、縮こまっているから大分下から声が聞こえた。
「ごめんね、彼女はこの店の
「……そうなんだ」
「どうも~うどん屋の娘の曽場で~す。曽場うどんの店員の曽場です。面白いでしょ?」
「ふふふ」
初めてあった人には必ずこの寒い冗談を言う。
遥さんは少し刺さったようだ……初めて受けたみたいで曽場も少し嬉しそうだ。
「すんげー赤ん坊小さいな。あっ、こちらへどうぞ~。個室、端開いてるぞ。扉閉めていいぞ。後は、勝手にやってくれ」
俺についていく遥さんは初めて入るこの店中をきょろきょろ見ている。
「大丈夫だよ、緊張しないで。本当に危険な人物ではないから。なんなら大将もいるから」
「うん。大丈夫。ああいう人結構好きだよ」
俺らは最初の案内通りに個室に入った。
後から曽場が来て水が入った水筒を持ってきた。
ちょうど水がなくなっていたようだ。
「じゃあ、ごゆっくりどうぞ。赤ん坊、バイバイ~」
「うん」
曽場が去ると俺はコップに水を注ぎ遥さんに渡した。
「ありがとう。優さん」
「とりあえず頼もうか。好きなの食べな」
「何がおすすめなの」
「基本はざるうどんだけどね。そばじゃなくてうどん。うどん屋だから」
「じゃあ、それで」
「じゃあこれ二つにしよう、大きさは極小、小、並、大盛があるけど」
「そのサイズ設定は?」
「女の人とか子供とか高齢者とかあまり食べられないって人いるから極小を用意している」
「確かに。少食だと一人で並盛食べきれないよね。私は並盛で。お腹空いてるから」
「いいと思うよ」
手元の端末で注文をし、配膳までの時間を過ごす。
「どんなのかな……」
「普通のそ……うどんだよ」
「いまそばって言いそうになったよね?」
「狙ってこの店名にしてるんだろうな」
俺のミスを面白がるように笑った。
こんなことを話していたら結ちゃんを見て思う。
「あっ、結ちゃんのミルクとか? お湯いる?」
「お湯はいらないよ。私が直接おっぱいあげるから」
お母さんは大変だ、本当に。
でも、こうして人は成長していき、次は成長させられる。
「ところでここにはよく来るの?」
「うん。このうどん屋は俺の同級生がやっているんだけど、紹介したけどさっきの金髪な」
「そうなんだ、曽場さんすごいな。飲食店やってるなんて」
「彼女の親父さんが大将をやっていて、他社や値上げの波にはかなわなくて苦しい状況になっていたんだけど」
値段も相当安く設定されていて、努力が見て取れる。
「なんとか工夫して乗り越えた」
「どんなどんな?」
「子供連れでもふらっと行くことができるようにした」
「なるほど」
「平日昼間の時間は俺の勤務している会社の食堂と化しているが」
「そうなんだ、この辺で働いてるんだ?」
「そうだね。職場も家も近くてありがたい」
遥さんはうんうんとうなずく。
まだまだ、聞きたそうにしているから説明を続けることにした。
「テーブル席を多めにして」
「若い人だったり子連れはやっぱりカウンターは抵抗あったりするからね」
子供連れだと荷物も多いから、テーブル席が必要であろうことから、そういう発想に至ったと聞いた。
「あとここは特に結ちゃんぐらいのより小さい子供を連れていても来店できるような工夫を施したんだ」
「赤ちゃん連れてはなかなか行けないもんね」
「トイレにはベビーチェア完備されていて目を離すことがない」
「なんかすごくこだわってるね」
曽場の目の付け所は褒められる点である。
「あと個室かな」
「そうなんだ」
「遥さんみたいな赤ちゃんにおっぱいあげないといけない人には大絶賛らしい。同伴者に見られてしまうかもしれないんだけどね。だから本当は授乳スペースを作りたかったみたいなんだけど広さ的にね。流石にきついな」
個人で経営しているうどん屋であるから面積に限りがあるからあきらめる点はあきらめなければならない。
「まぁ、お父さんぐらいならいいんじゃないかな。知らない、他所の人の目を遮断できるだけでもいいと思う。こんな店が地域に一つあればいいね」
コツコツとうどんが運ばれる音と、だしの匂いが近づく。
遥さんは小さい鼻を動かしていた。
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