第32話 アークデモン

 アークデモンの周囲に黒い魔力の塊がいくつも現れ始めた。


 ただの魔力の塊ではないのが分かる。


「アルマくん! 消滅属性の魔法だよ! 当たったら回復すらできないくらい致命傷になるの!」


「キシシシ! モウ遅イ。喰ラエ! ダークネススフィア!」


 魔力の塊が一気にこちらに飛んでくる。


 それと同時にシャリーが俺の前を塞いで両手を広げた。


「シャリー!?」


「アルマくんは死なせない!」


 あまりにも突然の出来事に、シャリーを連れて逃げようとしたその時。


 ――――ぱくっ。


 俺達の前に弟のルークが飛んで来て、ダークネススフィアを一気に平らげた。


「ルーク!? そんなモノ食べて腹壊さない!?」


【う~ん。ただの魔力だし、食べても問題ないよ~!】


 母さんもそうだけど、妹弟の強さの根源部分の一つに神獣である所以がある。


 神獣とはただ強いだけの存在ではない。


 神に愛された神獣は神の代行者とも呼ばれ、世界のを越えた生き物でもある。


 本来魔法というのは、色を持たないただの魔力である。


 そこに術者の知識やスキルを上乗せしてようやく色を持つ事で魔法は顕現する。


 そうやって放たれた魔法は本来の姿とはまるで違う姿なのだが、それでも原点が魔力である事に違いはない。


 世界に多く存在するという魔法防御を可能にしている装備品は、元々魔力の威力を減らす事でそれを成している。


 もちろん属性に特化したモノも存在するが、元来魔法というのは魔力そのものだ。


 では神獣という存在はどのような存在かというと、世界の魔力そのもので生き続けている生物だ。


 例えば、神獣が食した物は神獣の胃袋の中に入るのだが、人と違い消化するのではなく――――魔力を吸収するのだ。


 万物の根源である魔力。


 それを食事として食べている神獣に――――魔法のたぐいは全く効かない。寧ろ、神獣にとっては食事に等しいのだ。


 ただ、全ての魔力を食せる訳ではない。


 あくまで、魔法として発動した魔法のみが食せるのであって、魔法という魔力の塊から生まれたモノだからこそ成せる技である。


「ア、アリエン! フ、フザケタ鳥ダ!」


 続けていくつもの魔法を発動させても尚も全てルークに喰われてしまった。


【う~ん。あまり美味しくない魔力だ…………】


 美味しそうにパクパク食べていたのに、意外と美味しくはないらしい。


「切リ刻ンデヤロ!」


 今度は爪が伸びて、手甲鉤てっこうかぎのようになった。


 ルークに目掛けて殴り付けるが、ひょいひょいと簡単に避けられてしまう。


「シャリー? そろそろ大丈夫じゃないかな?」


「っ!? ご、ごめんなさい!」


 俺の前を塞いでくれていたシャリーが恥ずかしそうに後ろに下がる。


 少し顔を赤らめているシャリーがまた可愛い。


 次の瞬間、遠くから殺気が込められた視線が俺に刺さる。


 ううっ…………はいぃ…………ニヤけてすいませんでした。クレア様。


 妹に睨まれながら、アークデモンを手玉に取るルークを見て、頼もしいと思う。


 さて、アークデモンは弟に任せてよさそうだ。


 口をパクパクさせている司祭に近づき――――ハガネメルを使って司祭を拘束した。


「な、なんだこれは! め、女神様の天罰がああああ~!」


「天罰天罰って何も起きないし、そもそも悪魔を使役している司祭さんの方が余程天罰が下りそうですけどね」


「そ、そんな…………」


 捕まった司祭が口をパクパクさせながら何かを呟くが、聞く必要すらなさそうだ。


 礼拝堂の玄関口が荒々しく開くと、外から武装した騎士達が入って来る。


「アルマくん。遅れてすまなかったな」


「いえいえ。ナイスタイミングです。ベルハルト様」


 イケメン騎士は早速司祭の捕縛とルークの手伝いに参加する。


 ルークひとりでも十分すぎるくらいなのに、遊びすぎて心配になったようだ。


 ベルハルト様は腰に掛かっていた剣を抜いてアークデモン戦に参戦した。


 美しい装飾が飾られた剣だが、そこから感じられる不思議な力はただの剣ではない事を感じさせてくれる。


 それを証明するかのように剣が虹色の光を纏う。


 ルークに全力を出していたアークデモンはベルハルト様に気付かず、急に現れた彼の剣に斬られると痛々しそうな声をあげる。


 司祭の言葉では普通には傷つけることすらできないらしいけど、ベルハルト様の高い実力とそれに見合った武器ならではで、ルークによって焦っていたとはいえ、アークデモンが手も足も出ずにベルハルト様によってボコボコにされて姿を消した。


 少し残念そうにしていたルークだが、シャリーと一緒に裏で覗いているクレアの元に向かった。


 礼拝堂の裏に向かうと、奴隷が入れられる大きな鉄格子が置いてあって、中には美しい金色の髪の女の子が寂しそうな目でこちらを見つめていた。


 確認せずとも、彼女が青い点である事は間違いなさそうだ。

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