第33話 花

「初めまして。俺はアルマ。こちらは妹のクレアで弟のルーク。こちらは仲間のシャリーだよ」


 鉄格子の中で怖がっている女の子が可愛らしい大きな目を開いて俺達を見つめる。


「さて、まずはそこから出してあげないとね。クレア~お願いしていい?」


【あい~】


 妹の翼に炎が現れ始めて、俺の肩からひと凪ぎで鉄格子の正面を一瞬で溶かした。


 あっという間の出来事にポカーンとしている女の子に手を伸ばす。


「君は自由だよ。さあ、外においで」


「!? あ……あぁっ…………」


 何かを言いかけようとするが、声が出ないようで悔しそうに両手を握りしめた。


「大丈夫。怖がることは何もないよ」


「うんうん。アルマくんはとても優しいからね? たま~にあくどい事もするけど」


「え!? 俺ってそんなあくどい事したっけ?」


 シャリーとクレアがジト目で俺を見つめてくる。


「だって薬草全部独り占めして高額で売ったのはアルマくんでしょう?」


「ううっ。あ、あれはだな……悪気があったわけでは……」


「ふふっ。もちろん知っているよ~でもちゃんと高額で売り払っていたしな~」


 うぐっ。


 何も言い返せない……。


 そもそもだ。俺が転生人だからなのか『もったいない』と思ってしまう。


 こう『損をしてしまう』と考えてしまうところもある。


 だから稼げるならちゃんと定価・・で売っているのは、ある意味良心があるからだと思うんだけどな……。


「あっ! そうだ! アルマくん?」


 シャリーが近づいて来て何かを耳打ちし始める。


 どれどれ…………美少女に耳元で囁かれると色々周囲に誤解されそうで怖い。


 …………クレア。そんな殺気めいた視線で見ないでよ…………。


「なるほど。それはいい考えだ!」


 シャリーの提案を受け入れて、俺は鉄格子の中に入って女の子と少し距離を取って片膝を下して跪いた。


 両手を目の前に出し――――道しるべの収納の中から色とりどりの花を両手いっぱいに取り出す。


「さあ、姫様。こちらをどうぞ」


「!?」


 両手いっぱいの花のおかげで鉄格子の中には花の良い香りが充満し始める。


 少しずつ表情が緩み始めた女の子は恐る恐る前に出て来た。


 ボロボロの衣服にフードまで被らされてはいるが可愛らしくて、金髪の綺麗な髪が伸びている。


 ゆっくりと両手を伸ばして俺が取り出した花束を受け取った。


 どれも棘はないし、香りが良い花で、実を言うとこれだけで豪邸が建つ程の値打ちがあったりする。


 それでも怖がっている女の子の心を開けるなら、花たちも本望だろうと思う。


 花束を受け取った女の子は次第に目に大きな涙を浮かべて――――――満面の笑みを浮かべた。


「さあ、外に出よう? こんな冷たい場所にいなくても、外には楽しい事が沢山あるんだから。君を待ってくれる仲間達もいるからね」


 やはり声が出ないようで何かを話そうとしても声は聞こえない。


「無理して喋らなくてもいいんだよ? これからゆっくり治していけばいい」


 目を丸くした彼女は、聞こえない声で大きく口を開いて何かを話した。




 ――――「ありがとう」




 声は聞こえなくても彼女から伝わる気持ちはしっかり伝わって来た。


「「どういたしまして」」


 俺とシャリーは彼女の手を引いて外に出た。


 両手いっぱいに抱えた花はより彼女の美しさを照らしてくれる。


 そんな彼女をシャリーが少し羨ましそうに見つめるのに気付いてしまった。


 ベルハルト様に話し合い彼女は俺達は請け負う事にして、理の教団の事は任せる事になった。




 あのままレストラン『スザク』に連れて行っても良かったのだが、酷く疲れていたので宿屋に連れて来た。


 まだ名前も知らない金髪の可愛らしい女の子は、年齢は大体十歳前後くらいか。


 眠っている彼女のベッドに花束を散らす。


 なんだか…………絵面だけみれば眠れるお姫様というか、このまま永…………ごほん。


 意外というか、クレアもルークも彼女の隣で一緒に眠りについた。


 妹弟がまだ話したこともない人に懐くなんて初めて見た。


 恐らく彼女から優しさを感じているのだろうな。


「はい。アルマくん」


「ありがとう」


 シャリーが淹れてくれた紅茶の良い香りが広がっていく。


 目の前に眠っている天使達を眺めながら、紅茶を口にすると格別に美味しく感じる。


「それにしてもアークデモンすら軽々と倒せるなんて、アルマくん達って本当に凄いね」


「そうかな? ベルハルト様は一瞬でやっつけていたけど」


「あれはルークくんがいたからね。アークデモンの一番怖いところって消滅魔法だから。あの魔法って防ぐ事もできないから厄介なんだよ。聖属性魔法なら何とかなるかも知れないけど、他の魔法は文字通り消滅しちゃうから」


「ふむふむ。そんな消滅魔法を怖がることなくシャリーは俺を守ってくれたと」


「えっ!? い、いや、あれは……咄嗟に出た行動というか…………」


 顔を真っ赤に染める。


 消滅魔法がどれくらいの脅威なのかを知っているシャリーは、迷うことなく俺をかばってくれた。


 できれば、異世界に来たら美女とは関わりたくないと思っていたけど、ここまでしてもらったら俺も何かした答えなくてはならないかなと思う。


 道しるべの収納から小さな花を取り出した。


 まだ両目を瞑って恥じらう彼女の美しい赤い髪に、不思議な光を放つ青い花を付けてあげる。


「へ?」


「プレゼント」


「――――――!?」


 やはり、思っていた通り可愛いな。


 異世界では装飾品を装備する人も多い。


 その中でもファッションも気にする人も多くて、シャリーはどちらかというとオシャレにはあまり力を入れてない。


 基本的に機能性重視だと言っていた。


 この花も特殊な力を持っているので、機能性重視のシャリーにも受け入れやすいと思う。


「あ、アルマくん! た、た、大切にするね!」


 嬉しそうに満面の笑みを浮かべたシャリーがとても美しかった。

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