第31話 司祭の切り札

「ふざけるな! そんな迷信を言うでない!」


 顔を真っ赤にして怒る聖職者。


 無理もない。この事実が広まれば奇跡どころの話ではなくなる。


 今でも国から多額のお金をぶんどっているからこそ、森の呪いを訴える必要があるのだからね。


「本当ですよ? 確認に行きましょう~」


「…………」


 次第に聖職者の表情が暗いモノに染まっていく。


 ――――それが本性で間違いないな。


 指をパチンと鳴らすと、後ろの扉が乱暴に開かれて多くの男が出て来た。


「へえ~とてもじゃないけど、聖職者とは思えない格好の男たちですね?」


「ふん。貴様がどこの誰かは知らないが――――ここで死んでもらう! あいつらを捕まえろ!」


 盗賊のような格好の男たちだが、思っていたよりも動きが洗練されている。


 一気に流れてくる多くの男たちと同時に妹には一足先に開いた先にある場所で、青い点の正体を確認してもらうために飛んでもらう。


 そして、俺とシャリーもやって来る男たちに立ち向かった。


「シャリー! 思っている以上に洗練されている! 無理はしないようにね!」


「分かった! アルマくんもね!」


 念のために弟にシャリーの護衛を頼んで、こちらにやって来た男たちと対峙する。


 仕込み短剣で斬りつけてくる彼らの攻撃を避け続ける。


「短剣に毒なんか塗ってズルくないです?」


 しかし男は顔色一つ変えず、ただ無口のまま俺を狙い続けてくる。


 特殊な訓練を受けている――――アサシンで間違いなさそうだ。


 突いてくる短剣を避けながら的確に相手の腕を叩きはらう。


 完全に感情を切っているわけではなくて、相手が痛みで眉間にしわを寄せる。


 隙を見て懐の中に潜り込んで顎にパンチを叩き込む。


 相手の体が空中を舞う間に、次の相手に向かう。


 仲間がやられたというのに、顔色一つ変えない。


 出て来た二十人の男たちを制圧し終えると、後方で戦っていたシャリーも無傷で勝てたようだ。


「あとは貴方だけですね。一応司祭さんになるのか?」


「き、貴様ら! わしは理の教団の司祭だぞ!? 俺に手を上げたら女神様から天罰が下るぞ!?」


 天罰か……そもそも俺達よりもあんたの方に下るだろうに。


 そもそもこんな小悪党を放置している女神様も何をしているんだと、怒りが込みあがってくる。


【お兄ちゃん~中に女の子が一人、鉄格子の中に入っていたよ~】


 ちらっと顔を覗かせた妹だ。


 後ろに見えていた青い点はどうやら捕まっている女の子みたいだ。


「司祭様? そんな事よりも呪いの件を聞かせてもらえます? 今まで本当に女神様から呪いって聞いたんですか?」


「な、なにを! ほ、ほ、本当だ!」


「じゃあ、今から聞いてくださいよ。呪いはなくなったはずなんですよね~それとさっきの奇跡の事も聞かせてください」


「ふ、ふざけるな! 貴様らに女神様の呪いが落ちぞおおおおお!」


「何も起きないですよ?」


 俺はわざとらしく両手を上げて何も起きない事をアピールする。


「さあ! 女神様! 早く!」


「く、くそおおおお!」


 司祭はやけくそのように懐の中から黒い宝玉を一つ取り出した。


「随分と禍々しい玉ですね」


「貴様らのせいだ! ここまで来たら…………出てこい! アークデモン!」


 アークデモンってどういうのか分からないけど、デモンって言ってるんだから悪魔だよな。


 投げ込まれた宝玉が空中に浮いて禍々しい霧があふれ始めた。


「あ、アルマくん! アークデモンはまずいよ! Aランク冒険者でも複数人じゃないと勝てないと言われているよ!?」


 単純に高位悪魔という事だろうから、それだけで強いのが確定事項かな。


 それにしても放たれるプレッシャーは今まで戦った相手よりもずっと強い。


 ただ――――――


「グフフフ。我ノ獲物ハコイツラカ?」


「そ、そうだ! アークデモン! そいつらを全員食ってしまえ!」


「グフフフ。イイダロ。ソレニ――――我ハ処女ガ大好物ダカラノォ~!」


 ただのエロ悪魔じゃねぇか…………。


 隣のシャリーが振るいあがるのが伝わる。


「シャリー。大丈夫。俺が守るから」


「あ、アルマくん……」


「グフフフ!」


 嫌らしい笑みを浮かべたアークデモンが大きな翼を広げてこちらに飛んでくる。


 愚直に真っすぐ飛んできたアークデモンが無防備だったので、そのまま顔面を蹴り飛ばす。


 速度が乗った蹴りにアークデモンの顔面が面白い表情に変わりながら礼拝堂の壁に真っすぐ吹き飛んだ。


「ええええ!? アークデモンを蹴り飛ばした!?」


 シャリーの驚く声と共に、崩れた壁から信じられない表情を浮かべたアークデモンが、口から紫の液体を流しながらこちらを見つめてくる。


「ワ、我ヲ蹴リ飛バシタダト!?」


「ありえん! アークデモンを武器もなく傷つけられる人間がいるわけがない!」


 司祭の丁寧な説明のおかげでアークデモンが真っすぐ飛んできた理由が分かった気がする。


 きっと自分の防御力には自信があったのだろうな。


 段々とアークデモンの表情が怒りに支配され始めた。

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