第100話 「お礼参り」監禁

「降りろ」

4人の男は車の中でほぼ無言であった。

エマが降りるように言われたのは、車に載せられてから30分近く経った頃合いだった。このような場面で人は狼狽し、泣きわめくのだろうか?エマは自分が驚くほどに冷静であった。


車を降りて見渡すと小高い丘の上、それなりに広い広場のような場所で少し入ったところに建物があった。手前にはそれなりの大きさの鳥居が木々の中に佇んでいた。

どうやら神社のようだ。


その手前に6人程度の男達が屯していた。

するとそのうちの坊主頭の男が近寄ってきた。男は首からネックレスをいくつかぶら下げ手には指輪をしていた。


「あーわざわざ、ゴメンナサイねー」

笑顔で男話しかけてきた。


「だ、誰ですか?」

エマは持っていたバッグを握りしめて言った。


「いやー、ホント美人さんだなー。アナタが三上エマさん?」

男は質問には答えず、エマを舐めるように見回した。


「私に何の用ですか!?」

エマは身構えながら言った。声は震えていた。


「あはは。そんなに怖い顔しないで!スマイル!スマイル!」

男は大げさに笑ったふりをして言った。


「申し遅れたね。私は東都西高校の3年 黒崎って言います。でも、3年だけど定時制の方だから、年はね結構イッてます!お酒も余裕で飲める年ですよー」

黒崎と名乗った男はどうやらこのグループのリーダーのようだ。口調は丁寧ではあるが、目は一切笑っていなかった。

周りの男達も完全に統制されているようで、ただ黒崎の発言を聞いているだけだった。


「さて、三上さん。アナタには謝罪とお礼をしなきゃなりません」

「謝罪?お礼?」

「はい。謝罪はカラオケボックスで、ウチのバカな後輩がアナタを殴ったこと。まぁ、その事で一生モノの怪我を負ったわけですけどね…」

「……。」

エマは何も言わなかった。想像はしていたが、やはりあの事件に絡んでのことだ。自分の名前まで調べられているということは、だいぶ前から準備されていたのだろう。


「お礼はね。アナタの恋人?水島瞬君を連れてくるための人質になってもらうことです」

「水島くんを!?」

「はい。彼が悪いとは思いませんが、ウチの学校のものを…というか、私のチームメンバーを一人で3人もボコボコにした訳ですから…」

「でもそれは!?」

「それはなんです?非常に困るんですよ。今ね私達は学校内で3つのグループに分かれて抗争中なんです。戦力を削られた以上に、明和高校の学生ごときに、ウチの兵隊が無様に叩きのめされた!っていうのが、他のグループに対しても示しがつかないんです」

「なにそれ!?関係ないじゃん!逆恨みじゃん!」

エマは大きな声で反論した。


「いいえ。私達にとってはとても大切な事なんです。分かります?3人に大怪我させた男があっさりと出てきた。少年院にも送致されなかった。何でか分かります?」

「分かるわけない!」

「そうですか。それはね、私達が被害届けを出させなかったんですよ。下手に少年院に送られたら、数年は戻ってこれないでしょ。それ困るんです」

「いったい、何を…」


「何を?って、そりゃお礼参りですよ。知りませんかお世話になった人には、お礼しなきゃ…」

黒崎はそう言うと、エマの顔をいきなりビンタした。


「きゃあ!」

エマはその場に倒れた。


「水島瞬がこの場に来た時に、恋人のお前がボロボロの状態で見つかった上に、袋叩きにされる。最高のシナリオじゃね?」

黒崎は態度を豹変させて、エマを上から見下ろした。エマは黒崎を睨み返した。


「へぇ…いい女だな。お前、俺の女になればここでひどい目にあわされないぞ。どうする?」

黒崎は半笑いでエマに言った。


「ふざけないで!」

エマは涙を流しながら叫んだ。


「あっそ。じゃあ、神社に連れてけ」

黒崎は横に居た男に告げるとゆっくりと自身も社に向かった。

男二人はエマの腕を掴むと無理やり立たせて社に連れ込んだ。


社の中はそれほど広くはなく、5人の男とエマが入った時点で窮屈に感じられるくらいの広さだった。


「さーて、じゃあ、楽しませてもらおうか?」

黒崎はにやりと笑うとエマの髪の毛をすこし取ると匂いをかいだ。


「いや、ヤメて!!」

エマは恐怖に顔を引きつらせながら、後ずさった。


「はー。いい匂いだなぁ。そしてそそるねぇ。その表情!薬やっちゃう?飛べるぜ!?」

黒崎は笑いながら、ゆっくりと追うようにエマに近づいてきた。


「おい、お前ら俺が楽しんだ後、好きにしていいぞ。一回表出とけ」

黒崎はそう言うと、他の男達を外に出るように指示した。

男達が外に出ようと扉を開けたときだった。


「ん?」

男の一人が違和感を感じた?


「あれ?アイツラどこ行った?」

先程外に待機していた5人の男が見当たらなかった。


次の瞬間、先頭を歩いていた男が真横に吹き飛んだ。

突き飛ばされた男は5メートルほど吹き飛ばされると、境内の段差からそのまま地面に落下した。


「な!?何だ!?」

「おい!誰だてめぇ!」

「黒崎さん変なやつが来てます!?」

残る3人の男達は、目の前にいる男に対し身構えた。


男はサラリーマン風なスーツを着ていた。

身長は170cmくらいでガッシリとした体つきだ。


「誰だ?てめぇ」

男の一人が不用意にサラリーマン風の男に近づいた。胸ぐらをつかもうと手を伸ばすとサラリーマン風の男は手を取ったそのままに膝を突き立てた。

男の顎に膝が当たると「パシッ」と言う音が聞こえるとそのまま倒れ込んだ。


「な、なんだお前!?」

「て、てめぇ!」

残る二人が飛びかかるものの、サラリーマン風な男はカウンターでパンチを打つとグシャッという音とともに、強烈な一撃が顔面の口と鼻の間を捉えた。

鼻はありえない方向にズレて見えた。口からはおびただしい血が流れた。


更に残る男には、足払いをすると、男は尻餅をついて倒れるとその顔面めがけて蹴りを放った。首から上が飛んでいくんじゃないかという勢いで男は後ろに倒れ込むと後ろに倒れて意識を失った。


黒崎は、その様子を奥で見ていた。


「な、なんだてめぇ!?」

黒崎はサラリーマン風な男に向かって叫んだ。

サラリーマンは黒崎をじろりと見ると、無遠慮に境内の社に入ってきた。

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