第99話 「お礼参り」連絡

唯は家路につく途中寄り道を殆したことがない。

コンビニにすら寄らない事がほとんどだ。


エマと別れて地元の駅につく頃には、夕方になっていた。

最近は日が長くなってきて、まだ明るい空を眺めて歩いていた。

地元の駅は学校の近くとは異なり、人通りは疎らだ。

唯の家に帰る途中に大きな公園がある。唯はその公園を突っ切る形で帰るのが日常であった。


大きな公園は人もまばらで夕方の犬の散歩をする人が数名いる程度であった。

唯が歩いていると前方から男が一人唯の方を伺っていた。


唯はそれを見ると慌てて別方向に歩みを進めた。だがよく見るとその方向にもやはり男が居た。

人相の悪い男達は唯を見ているのが分かった。

唯は慌てて来た道を引き返そうとしたが、そこには二人の男が唯の方へと歩いてきた。


唯は動転して、男達から逃れるように男が居ない方向へと走った。

そこは公園でも特に木々が生い茂っており、かなりひと目にはつきにくい場所だった。


「あ!?」

唯は思わず声を上げた。そこには唯を待ち構えるかのように男が二人立っていた。

唯は慌てて戻ろうとしたが、先程の男達がすでに行く手を塞いでいた。

男の数は全部で6人。

明らかな悪意と狙いを唯へと定めているのは理解した。


「おい。お前名前は?」

「ふ、藤村、ゆ、唯です…」

消え入るくらいの小さな声で、唯は言った。


「ち!違ったぞ」

「こっちは外れだ」

「よし、なら計画の通り今日一日は確保しろ」

男はそう言うと唯の腕をつかもうとした。


「おい、お前をこのまま帰らせるわけには行かない」

男は唯に向かってニコリともせず言った。


「騒がなけりゃ痛い目には合わさないから付いてこい」

別の男も同様に感情がないかのように言った。

「…」

唯は恐怖のあまりにその場で動けなくなった。

この状況で動ける女子高生などほとんど居ないだろう。

「ち!早くしろ!」

恐怖のあまり逆に感情がないかのように、何も答えをしない唯に対し男達は少し苛立ちを覚えいているようだ。


その時だった。


「こっち!こっち!」

女性の声が聞こえた。声の主はユリだった。


「ユリさん…どうして…」

唯は信じられない顔をして呟いた。次の瞬間駆け込んできたのは、東一郎だった。


「!?水島さん…」

「大丈夫か!?唯さん!」

東一郎は息を切らせながら駆け込んできた。


「おい!やばいぞ!」

「慌てるな!女一人、男一人だ!捕まえろ!」

男達は東一郎とユリに向かって走り出した。


6人の男のうち、一人は唯の腕を抑えた。

三人が東一郎に向かい、二人がユリの方へと向かった。


「人数配置がよくねぇな」

東一郎はそう言うと、一番最初に向かってきた男のタックルをすっと後ろにずれてかわすとそのまま顔面に蹴りを打ち込んだ。

男は突進してきた勢いをそのままカウンターとして受けたため、瞬時に意識を飛ばすと前のめりに倒れ込んだ。


続いてやってきた二人の男に対し、東一郎はすっと近づくと膝を相手の腹部に突き立てた。男は呼吸が出来ないらしく苦悶の表情を浮かべるとそのまま膝をついた。

最後の男は、その様子を見ていたため、一瞬立ち止まったがそこに東一郎が飛び込むやいなや前蹴りをして相手に尻もちをつかせた。

尻餅をついた男の顔面を思い切り蹴り上げると男は、声にならない声を上げるとそのまま後ろに倒れ込んだ。


あまりにも一瞬の出来事だったため、ユリを追いかけていた男達はその様子に気がつくのが遅れた。

ユリは逃げるように見せかけて実は東一郎の方へ向かってきていたのだ。

東一郎はユリと入れ替わるように、男二人の目の前に現れると一人目の男を顔面へ一撃パンチを打った後、掌底で顎をカチ上げると、一人は糸の切れた操り人形のようにパタリと倒れ込んだ。

残る男も4人倒れている状況に驚き、一瞬立ち止まったところに飛び込んできた東一郎に瞬時に倒された。


5人の男がものの1分も経たないうちに倒されてしまった。

しかも意識がないものも数名、とてもすぐに動けるものは一人も居なかった。


唯の腕を掴んでいた男も明らかに動揺していた。

その男に向かって東一郎は躊躇なく歩いていった。


「く、来るな!」

男は唯を盾にするようにして、後ろに回った。

東一郎はその動きを見て、刃物や武器を持っていないことを確信すると、そのまま近づいた。


「おい、てめぇら。東都西だな」

「!?」

「何でこの子を狙った?」

「…!?」

男が何も答えないので、東一郎は更に歩みを進めた。

「コ、コイツじゃねぇ!」

「ち!やっぱりそうか…」

「こんなやつ!用はねぇ!」

男は唯を東一郎の方へ突き飛ばすと逃げ出した。


「大丈夫か!?唯さん!」

東一郎は唯を抱きかかえると、唯に言った。唯はどう反応して良いのか分からずに、戸惑っていた。


「唯!大丈夫だよ!水島君は味方だよ」

ユリは唯に妙な言い方をした。


「唯さん。ごめん。理由は後で話す!」

東一郎は唯に向かって笑顔で言うと、ユリと一緒にその場をすぐに離れた。

「ユリ!やっぱりエマがやばいかもしれない!場所を教えてくれ!」

「うん。分かってる!今、調べてる。車で移動している!」

「場所は!?」

「うーん、分かんない。山の方…どこに向かっているのか?」

「ちょっと見せて!おいおい、ウソだろ…」

東一郎は携帯を見て驚いた表情を浮かべた。そしてすぐに携帯電話を手にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る