第97話 「お礼参り」変貌
「ちょっと…何アレ…」
「何なの?マジで?」
「ちょーがっかりなんだけど…」
「最悪…」
クラスメイト達が眉をひそめて口々にそう言った。
事の起こりはほんの数分前の放課後のホームルームが終わった直後だった。
ついに東一郎が帰ってきた。
皆心待ちにしていた東一郎の出席に、一同労いの言葉をかけたが、東一郎は何も答えず、何も語らなかった。東一郎の態度はほぼ無言。返事もまともにせずに一日過ごしていた。
そんな中、エマ促されて唯がやってきた。
「あ、あの…本当にごめんなさい!私達のせいで水島さん大変なことに…」
唯はそう言って東一郎に頭を下げた。
「ああ、えらい目に遭わせてくれたな。マジで、お前、ちょっと自分の事ちゃんと見たら?お前みたいな地味なやつがナンパされて浮かれてっからそうなったんだろ。身の程わきまえろよ」
東一郎は唯に向かって半笑いで言った。エマやユリはその様子を見ると驚きの表情を浮かべた。
「な、何その言い方!?」
エマが慌てて割って入った。
「は?何?お前もこいつのせいで殴られたんだろ?」
東一郎は冷たい表情のままエマに言った。
「ねぇ!水島くん!どういう事!?」
エマは東一郎に向かって叫んだ。
「どうもこうもねぇだろ。コイツのせいで俺はとっ捕まったんだ。馴れ馴れしく声掛けんなつーの!」
東一郎は唯に向かって、まるで捨て台詞を吐くように言った。
「ちょ!そりゃ、捕まって、停学になって。納得行かない気持ちもわかるけど言い方ってあるでしょ?」
エマは唯の前に出て東一郎に言った。
「はぁ?おい、エマ?お前はもっと俺に感謝しろよ。お前、俺が居なかったらアイツラにヤラれてぞ?」
東一郎はエマに向かって言った。
「!!?」
エマは何かを言おうとしたが、口を閉じた。
「ちょっと!水島君!何いってんの?」
ユリが堪らずに割って入った。
「うるせー。お前なんて何もやらねー役立たずだったくせに偉そうに言うなよ」
東一郎はユリにも言った。
「信じられない!水島君!捕まって悔しいのはわかるけど何なのよその言い方!?」
エマは東一郎に向かって強い口調で言った。
クラスメイト達は、そのやり取りを何も言わずに見守っていた。
「うぜーな。まじで、お前ら何なの?お前らはもう普通に暮らしてるわけ。だけど俺はこいつのせいで警察にとっ捕まってたの。わかる?どんだけ迷惑かけたと思ってんの?」
東一郎はワザとクラス中に聞こえるように大きな声で言った。
「で、でも。そんなの…」
エマは混乱しながらも反論しようとした。
「あ、あの!本当にごめんなさい!助けてくれてありがとう!」
唯は精一杯大きな声で東一郎に向かっていった。目からは大粒のナミダが流れていた。
「へぇ、感謝の気持ちはあるんだ。なぁ。じゃあさ、今度俺に付き合ってくれよ。一発やらしてくんない?それでチャラ?どう?」
東一郎は唯に対して顔を近づけていった。
「え…そんな…」
唯は驚きと絶望的な顔をして東一郎を見た。
パシッ!
エマは東一郎を思い切りビンタした。
「ってーな!何すんだこら!?」
東一郎はエマは睨みつけた。
「アンタなんて…!アンタなんて!!」
エマは泣きながら東一郎を睨みつけるように言った。
「おいおい。これが現実。俺ばっかり損じゃん。だってお前らは捕まらなかったわけだし。俺だけ捕まった。俺だけ停学。助けたのに?感謝してくれないと!わかる?」
東一郎は半分笑いながらそこにいる人達に言った。
「…!!?」
唯はそのまま走って教室を出ていった。
「唯!?」
エマはそう叫ぶと、東一郎を睨みつけると涙も拭かずに追いかけるように出ていった。
「っち、気分わりー。帰ろっと。おい、お前らも適当なこと言って楽しんでんだろ?最低なのはてめえらも一緒だろ!」
東一郎はクラスメイトたちに対してまで暴言を吐いて教室を出ていったのだった。
その後東一郎は学校では誰とも話さず、誰ともつるまず一人っきりで1週間ほど過ごした。
これまでの東一郎とは正に真逆の性格とも言える変貌ぶりに、クラスメイトや他の人達も東一郎と関わる事は一切なかった。
学校に来てもまるで威圧するかのように、他の生徒を睨みつけていた。
唯に対する態度は特にひどく、エマやユリだけでなく、心や遥に対しても同様であった。
東一郎は警察に捕まり鑑別所に送致され、戻ってきた時には同じ人間とは思えないほどに変貌していたのだった。
もはや明るく誰にでも声をかけてクラスの中心であった東一郎の姿はそこにはなかった。
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「ねぇ。何か…」
「うん。ちょっと、ヤバくない…ねぇ、急ごう!」
女子生徒たちは走ってその場から離れた。
「おい!何か…」
「う、うん。見られてるよな…」
「なんか、色んな所に人いるよな」
「何か怖えよ…」
「あんまり見るなよ。因縁つけられるぞ」
男子生徒たちも、確定的ではないが街の雰囲気に不安を覚えていた。
明和高校の生徒たちの間で徐々に広まっている不安感は、どうやら事実であった。
街のあちこちで人相の悪い不良達がまるで品定めをするかのように、ジロジロと明和高校の学生たちを見ているという事案が多数発生した。
「へへへ。カワイイなぁ。なぁ。俺らと遊びいかない?」
「おい!」
「はは。冗談だって。でも、何でこんな事やってんだ?」
「知るかよ。上からの命令だ」
「っち。めんどくせー」
「お前、それ上の人間に言えんの?」
「ははは。ムリムリ殺されるわ」
「だったら黙ってちゃんとやれよ」
「へーい。だりーなー」
男達は明和高校の学生たちをジロジロと見ているだけであった。
だが、その人数は日に日に少しずつ増えて、明和高校の学生たちは日々の不安が募る毎日であった。
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