第96話 「友達以上」友達
「あ、あの…。すみません…」
唯はエマに謝った。エマは涙を拭くと少し間をおいて息をついた。
自分でも興奮していた事に気がついたのだろう。
「は?何?だから何でアナタがあやまんのよ!」
エマの物言いは相変わらずきついが、先程までの勢いはなくなっていた。
「い、いえ。あの、エマさんに謝りたくて…」
「何でわたし?」
「あ、あの時、部屋に飛び込んでくれて、その御蔭で…」
「ああ、その後ね…。アタシは平気。水島くんが来てくれると思っていたから…」
エマは唯を見ないでそう言った。
「……。」
「ねぇ。アナタ本当に水島くんのこと知らないの?」
「はい…。どうして水島さんが私なんかのことを気にかけてくれるのか…」
「ふーん。ねぇ。アナタどうしたいの?」
「え?どうしたいって?」
「もう、こうなっちゃったら、どうしようも無いじゃない。事実は変わらないし…」
「……。もう、どうしたら良いのか…」
唯は何も言わずにうつむいた。
「…。ねぇ。わたしが友だちになってあげる…。」
「え!?」
「だって、しょうが無いじゃない。アナタ一人じゃどうにもならないんでしょ」
「で、でも…私なんかじゃ…」
「私なんか???アンタ!そんな事絶対言わないで!「私なんか」っていうような子を助けて捕まった水島君!「私なんか」って言うような子の為に殴られた私!アンタがそんな事言ったら…ウチらが何か無駄みたいじゃん!」
エマは言葉を穏やかにしっかりと唯を見ていった。
「は、はい…。ごめんなさい…」
「ねぇ…なんて言えばいいの?」
「??」
「アナタのこと」
「え…、その、あの…何でも…」
「…ふう。じゃあ、「唯」でいいね」
「は、はい…」
「アタシはエマって呼んで」
「は、はい」
「あと敬語禁止!」
「は、はい」
「……。今から私達は友達。わかった?」
エマは唯に向かって真っ直ぐに言った。唯はエマのその真っ直ぐな眼差しに思わず息を呑んだ。
二人は連れ立って、音楽教室を出ると教室に戻った。
「ほら、唯。帰るよ」
「は、はい」
「言葉!」
「は、はい…じゃなくて…うん」
二人は連れ立って教室を出てくと、校門から家路についたのだった。
それはクラスメイト達から見ると信じられない光景であった。
思わずざわつくクラスメイトたちが唯に対する態度を軟化させたのは言うまでもない。
彼女の誤解をといて、クラスにまた打ち解けるのに、それほどの時間はかからなかった。
「エマちゃん…」
ヤマトはエマと唯の後ろ姿を見送って呟いた。
「エマってさ、昔からそういう所あってさ。自分が思ったとおりに進まないと無理矢理にでも進めようとするんだよね…」
ユリも二人の後ろ姿を後ろで見て言った。
「うん。そうだね…優しいんだね…」
「そう、あの子はずっと優しいんだよ…きっと。ただの友達じゃなくて、あの唯って子が、別の意味での友達以上の関係であったとしてもね」
「そうだね。優しいね…」
「うん…」
ユリとヤマトは二人の後ろ姿を、二人に声をかけずに見送った。
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「で、もう一度聞くね。君がその時どう思った?」
「すみません…覚えていないんです…」
「でも、見えたんでしょ。その…友達が襲われている所…」
「は、はい。僕が部屋に入ると男が友達を無理やり押し倒していて、そしたら…僕…僕…うわああああああああ!!」
「落ちついて!落ち着いて!今日はここまでにしましょう」
家庭裁判所の判事と検察官、弁護人が水島瞬の聴取を終了を宣言し部屋を出いてった。
部屋に残ったのは、水島瞬と弁護人だけになった。
「ふふふ。なぁ。先生。俺もなかなかのもんでしょ!?この迫真の演技!?」
東一郎はニタリと笑うと弁護人に対してポンと肩を叩いた。
「本当に、呆れたもんだよ。君には…」
「はは。まぁ、良いじゃん。先生は頑張ってよ!俺は徹底的に演じきるからさ!」
「私も少年事件の弁護を過去担当結構したけど、君みたいな子は初めてだよ」
弁護人はそう言うとフーっと息を吐いた。
「先生だってどう考えても、どっちが正義でどっちが悪かわかるでしょ!?」
「まぁね。君と話しているとどっちがどっちかわからなくなるけどね…」
「えー?弁護士らしく事実を見なよ事実を!進学校の高校生が、街の不良に襲われた女子高生を助けた!これ以上の事実がどこにあんのよ?」
「でも、実際やりすぎたんだよ。相手の親御さんは君を許すつもりはなさそうだよ」
「はぁ!?てめぇのアホ息子が危うく性犯罪者になるところを止めてやったってのに、随分礼儀知らずだな」
東一郎はそう言うと足を組んで天井を見上げた。
「まぁ、そうは言っても、事実は事実でもうネットじゃ噂になっているからね。彼らが女子高生を襲って、逆襲されたって」
「へぇ。ほらほら。正義は勝つじゃん!早く出してくれよ」
「でも、相手も全治3ヶ月以上の大怪我で、足は一生後遺症が残るかもしれないそうだよ。君は何も思わないの?」
「おもわねーよ。そんなもん!奴らがそんな事しなきゃ良かったわけだろ。自業自得だよ」
「でもね。君は少し反省ってことを…」
弁護人が小言を言おうとしたその時、東一郎は弁護人の方に手を置いていった。
「なぁ。お説教は十分だよ。先生。先生だって足の骨おられたくねえだろ?ははは」
東一郎は笑顔でそういったが、目は真剣な目だった。
弁護人は思わず身震いをした。
東一郎が鑑別所から出所出来たのはその7日後であった。
東一郎は迎えに来た両親の前ではしおらしくしていた。
「全くとんだ役者だな」
弁護人はそう言ってニヤリと笑った。
「先生!いやーお世話になりました。もうこんなところゴメンだわ!」
東一郎は弁護人に対し軽口を叩いた。
「今後もやりすぎないようにね」
「はーい。大丈夫だよ。流石に大人だし…」
「あと、ちょっと気をつけなさい」
「ん?何を?」
「今回君が怪我させた相手、東都西高校の学生だったんだ」
「!?ウソ!?」
「いいかい。しばらくは気をつけること。彼等はメンツを潰されたと思っていても不思議じゃないからね」
「東都西…。そうか…アイツらそうだったのか…ちょっとマズイじゃん…」
東一郎は先程までの穏やかな表情から一変し真剣な表情で呟いた。
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