第90話 「友達以上」空回り

「どう調子は?」

「部活忙しい?」

「ねぇ。唯さん何か困ったこと無い?」

「何か手伝おうか?」

「あのさ、あのさ…」

東一郎はクラス替えで、唯と同じクラスになってからは、常に唯のことを気にかけていた。

だが、エマやこころといった、誰しもが認める超絶美人にすら対して興味を持ってるように見えなかった東一郎のこの変わりぶりに、エマもこころも驚きの表情を見せた。


「ちょ…やまと君これ何?」

エマは東一郎の唯に対する態度と今までの自分たちへ対する態度との違いに大いに驚いていた。


「ああ、いや…俺もよくわかんないんだよね…」

ヤマトは難しい顔をして話をした。

そこへ唯詣でを終えた東一郎が笑顔で戻ってきた。


「唯さん!移動教室だね。一緒に行こうよ!」

現れたのは東一郎だった。


「え、ああ。うん…」

唯は曖昧に答えると、それを見ていた友人たちは言った。


「ああ、じゃあ、私達先行ってるね」

友人たちは唯にそう告げるとササッと移動してしまった。


「え?皆も一緒に行こうよ」

東一郎は彼女たちに声を掛けたが、彼女たちはスクールカーストのトップに居る東一郎に対しては、抵抗があるのかまるで避けるように行ってしまった。


「あれー?嫌われちゃったかな?まぁ、いいか」

東一郎自体、ほとんど気にせずに居たのだが、唯にとってはこれまで培ってきた友情が東一郎の存在で消えてしまうような感覚が少し不安にさせるのであった。


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ある日唯が提出物を持って、職員室に行く事になっていた。


「よいしょ」

唯は両手に提出物を持って職員室に向かって歩いていた。


「唯さん!手伝うよ!」

そこに現れたのはやはり東一郎だった。


「あ、ありがと。でも大丈夫だから」

「いいの。いいの。俺がやりたいだけだから!」

「あ、ちょ、ちょっと…」

強引に唯の持っていた提出物を東一郎が受け取ろうとしたことで、唯はバランスを崩してしまった。手に持っていた提出物を廊下にぶちまけてしまった。


「あ…」

「うわ!ご、ごめん!ごめんね唯さん!」

東一郎は慌てて唯に頭を下げて、廊下の提出物をかき集めていた。

悪気がないのは分かっているのだが、唯はどうして東一郎が自分に構うのかが分からずに不思議だった。


東一郎はそれでも唯にいつも話しかけようとした。

彼がか話しかけようとすればするほどに、唯は友達達から孤立していった。


とある女子トイレでの出来事。

「ねぇ、知ってる?藤村さんって子?」

「うんうん。知ってる。水島君と最近よくいるよね」

「ちょっと調子に乗ってんじゃない?」

「マジそれな」

「あのジミーな人達がウケるんだけど」

「水島君達がマジで相手してると思ってそうじゃない?」

「ねー、何か見てて痛々しいよね」

「罰ゲーム何じゃない?」

「あー、それあるかもよ。ウケる!」

女子生徒たちは噂をして笑いながら出ていった。

彼女たちが出ていった後、トイレの個室から出てきた女子生徒が居た。


藤村唯だった。

唯はこんな事を言われる事が自分でも信じられなかった。

ただ東一郎と話をしたと言うだけで、何でこんな事を言われなくてはいけないのか、唯は悲しい気持ちで押しつぶされそうだった。


彼女はいつも目立つタイプの人ではなかった。

あまり自己主張もしないし、派手な交友関係もなかった。

彼女のイメージは、おとなしい、真面目、静か、地味、目立たない、いい人、優しい。そんな印象をもたれていた。


交友関係も文化系のおとなしいメンバーの中に属しており、女子のスクールカーストではかなり低い位置に居たように思われる。

それでも当人たちは別に、それを卑下しているわけではないし、居心地の悪そうな派手なスクールカースト上位に興味も持っていなかった。


唯は困惑していたし、混乱していた。

東一郎が話しかけてくれた当初は、とても嬉しかったし、なんだか満たされた気持ちだったが、周りの反応を感じると東一郎の存在がきつい存在になっていた。


何故?どうして私なのだろう?

可愛い子は他にたくさんいるし、目立つ子達や東一郎のことを好きだという女子生徒もたくさんいる。

唯は一言も東一郎のことを良いとか言ったこともないし、その話題すら出したこともなかった。


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「ねぇ。少しお話しない?」

唯に声をかけたのは、エマだった。

モデルの彼女は、唯から見てもキレイで見ていてドキドキしてきた。


「唯ちゃんってさ、水島君と知り合いなの?」

エマの言葉に、唯はやはりか…という気持ちになった。


「ううん。私は水島君とお話したことないし…」

「ふーん。でも水島君て唯ちゃん!唯ちゃん!って感じだよね」

「え…でも、私全然そんなんじゃ…」

「おかしいよねー。彼、ふと大人っぽかったり、何か自分がバカみたい…」

「えっと…でも、お二人はお似合いだと思います…」

「へぇ、ありがと。それでも私には関係ないか…」

エマはスタッと立ち上がると、唯に手のひらをひらひらさせて、バイバイと言って去っていった。


「ねぇ。唯?大丈夫?何あれ…」

唯の友達が唯を心配してきた。


「ううん。大丈夫。少し世間話しただけ…」

唯は少し憂鬱な気分になった。

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