第89話 「再会」二人の過去
「なぁ、お前純粋に神崎東一郎と入れ替わったと思ってるだろ」
東一郎が水島瞬に聞くと水島瞬はコクリと頷いた。
「それは実は違うんだ。俺はこの時代の6年後から来た」
「え!?どういう事ですか?」
「だから俺はこの時代の人間じゃもう無いんだよ」
「ちょっと…意味がわからないです…」
水島瞬は理解が追いつかないようで思わず頭を抱えた。
「入れ替わっただけでも信じられないが、それが6年後だと思えばより信じられないだろうな。けどそれが事実だ」
東一郎は水島瞬に言った。
「でも、じゃあ、どうして?」
「まぁ、あくまで推測だが、俺がこっちに来た理由は滑落事故だよ。その時の現場が、ちょうどそこだよ」
東一郎が指さした先は、さっき水島瞬が指さした場所と一致した。
「よくわからんが、仮にこの神社の神様がお前の願いを聞いて入れ代わりを行ったのだとして、実際に入れ替わったのは6年後の俺」
「てことは…その滑落事故で御神体が現れたから…」
「それ以外の説明が思いつかねぇな」
「…。」
「まぁ、入れ代わりが起こる原因もわからんけど、埋めなきゃこの時代の俺と入れ替わったのかもな?」
「そうだったんですか…」
水島瞬は今でもまだよく理解していないようで困惑していた。
「お前、ここ数年でどんな事が起こるのか。俺にも分かるんだぜ。競馬の結果知ってりゃ大儲けだったな。ははは」
東一郎はそう言って無理やり笑った。
「なぁ、瞬。神隠しって言葉知ってんだろ?あれってこういう事だったんじゃねーかって俺は思うわ。いきなり消えてそれっきり。だから6年後の俺はぶっちゃけ死んでんのか?生きてんのか?わかんねーんだわ」
「じゃあ、もし僕との入れ代わりが戻ったら…」
「さぁな。現代の俺に戻るのか?6年後の俺に戻るのか?わからんわな」
「じゃあ、僕のせいなんですね。神崎さんがここに来たのは…」
「いや、それはそうでもないかもしれない。なんつーか、実は俺も滑落直前に神様にお願いしたんだ」
東一郎は言って良いのか、わからないながらも言った。
「なんてお願いをしたんですか?」
「あー、なんつーか、その…ある女の人とだな…」
「その人と要はそういう関係になりたいと??」
「あー、いや、それは取り消したような…まぁ、でもそんなところだ」
東一郎はバツが悪いのか目線をそらしていった。
「最低ですね!やっぱり!」
水島瞬は厳しい口調で東一郎を非難した。
「いや、そんなの思うくらいなら別にいいだろ。まさか本当になるなて考えてもいなかったわけだし!」
「いや、アナタはあれだけ、好き放題してあずささんにも迷惑をかけたのに、また女ですか?軽蔑します!」
「は?あずさってお前には関係ないだろ?」
「関係ないわけないじゃないですか!今の僕の妻ですよ!」
「は?いや、俺の元嫁だよ」
東一郎は呆れて思わず言った。
「僕は!あずささんを愛しています!」
「!!?」
「僕は!あずささんを心から愛しています!だからアナタを恨んで!アナタを憎んで…そしてアナタを羨んだ」
「おいおいおい!ちょっと待てよ!あずさって、お前アイツの年知ってんの?えっと…今のお前が32だろ。てことは29だぞ?」
「だから何です?年の差なんて関係ないし、今の僕は32歳の神崎東一郎ですよ」
「うるせー!この童貞野郎!お前の年ならそれに見合う女が居るだろう!」
「関係ありません!年齢なんて!」
「お前は何も分かっちゃ居ない!幻想だよ幻想!初めての女が全てみたいな?鳥が最初に見たものを親と思い込むと同じ!マジで人生狂ってんのに気がつけよ!」
「あずささんは、僕の人生の最高の女性です!これは絶対に揺るがない」
「おいおい。もお前、ちょっと風俗でも行ってきたら?若くていい女たくさんいるぞ?ははは」
「あずささんを侮辱するのは許さない!」
そういうと水島瞬は立ち上がって東一郎に向かって構えた。
「頭いいくせに物わかりの悪いガキだな…」
東一郎もそれを察してすっと立ち上がると攻撃を警戒して構えを作った。
二人共にらみ合いながら、少し時間がたった。
「やめとくわ。もう、お前と戦いたくねぇ。痛いんだよまじで」
東一郎はそういうと構えをやめて座った。水島瞬も敢えて攻撃しようとはしてこなかった。
「だけど、お前マジで思い込み激しいと思うぞ」
東一郎は水島瞬を諭すように行った。
「僕が入れ替わってすぐに、神崎さんになったと気が付きました。でも何も分からなかった。その時あなた達の関係は既に破綻していた。離婚届を出した直後だったんです」
「ああ、まぁ、たしかにそんな気がするな」
「でも、彼女はアナタにひどい目に合わされたにも関わらず、困り果てている僕を見捨てずに助けてくれたんです」
「ふーん…」
「あずささんの優しさに触れて、僕は入れ替わった理由を知った気がします。僕はあずささんに会うために入れ替わったんだと…」
「いや、それはちょっとお前…大げさつーか…」
「…事実ですよ!」
神崎瞬と東一郎は、そこからお互いどうして今に至るのかをじっくりと話をしたのであった。
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「まぁ、こうして漸く会えた訳だ。これからどうする?」
東一郎は水島瞬に聞いた。
「僕は別にこのまま、あずささんと小鳥ちゃんと生きていければよいです」
「なぁ、俺はさ、気を失いながら聞こえたんだよ。神様?の声っつーの?」
「え?なんて聞こえたんですか?」
「・・・叶えよう。役目を果たし然るべき時に戻れ・・・ってな。てことは、俺の願いが叶ったら結局戻るってことなんじゃないか?」
東一郎は事故当時に聞いた不思議な声を明確に覚えていた。
「ッつ!そんな…役目ってなんですか?戻れって?」
「わかんねーけど、何かを終えたら戻るってことだろ。つまり願いが叶えばってことなじゃねーか?」
「だったら、願いを叶えないでくださいよ!」
水島瞬は懇願するように東一郎に言った。
「あ、いや、それなんだが…。お前不思議に思わない?そもそも、これって現実なのかって?」
「???」
「俺たちが居るこの世界。全部夢なんじゃねーか?」
「は!?こんなにリアルで長い夢なんて…」
「じゃあ聞くけど、お前普段夢見るか?」
「…」
「つまり俺はお前と会う時だけ夢を見た。あれは夢じゃなくて現実で、こっちが夢なんじゃないかと思う時がある」
「そんな…」
「だから、どっちにしても夢から覚めたら、俺もお前も元通りになるのかもしれない。終わらない夢を見てるのが幸せなのか?」
東一郎は冷静に、そして少し冷たい口調で言った。
「お前が感じるあずさは、夢で現実には別に居たら?お前はそれでもこの夢の世界で生きていくのか?」
東一郎の問に、水島瞬は答えられなかった。
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