第91話 「友達以上」ハプニング

「唯さーん!」

東一郎はそう言って唯のところに駆け寄ってきた。


「あ、水島君…」

唯は複雑そうな表情をした。東一郎が唯のところに来ると、クラスメイトたちの視線は皆唯に注がれた。


「ねぇ!唯さんめっちゃ字がうまいね!どうしてそんなに上手いの?」

「えっと、子供の頃からやってるからかな…あはは」

唯は少し困った顔をして東一郎に答えた。唯はクラスメイト達の様子を横目で伺った。あまり気にしている生徒は居なかったので、少しホッとした。


「ねぇねぇ。今度の土曜日さ、よかったら出かけない?」

「あ、ごめんなさい。その日はちょっと予定があって…」

「そっかぁ…残念!じゃあ、また今度!」

「う、うん。ごめんね…」

唯は東一郎の誘いに乗るとまたいろんな目が気になるので、断ったのだった。

それに実際にその日は、友達と合う約束をしていたのだった。


ある体育の時間だった。

体育館でバスケットの練習をするという授業だった。

運動があまり得意でない唯は、同じくあまり運動が得意でない友達と端っこの方で、ワンバンのパスを投げていた。


「いくよー」

「うん!」

「ほっ!」

「あーとれたー」

「おお!」

そんなほのぼのとした唯たちの体育の時間にちょっとした事件が起きた。


やはりやってきたのは東一郎だった。

「唯さーん!何々?バスケ?俺も入れてよー!」

東一郎は無遠慮にやってきた。


唯の友達も少し東一郎には距離を感じていたのか、少し困った顔をした。

唯も友達の困った顔を見て、この場から離れようとした。


と、その時だった。


「あ!危ない!」

たまたまクラスメイトの投げたバスケットボールが、唯が移動したところに向かってすごい勢いで飛んできたのだ。

東一郎はそれを見て一気に唯との距離を詰めると、そのボールを空中で弾いた。


「おお!!?」

クラスメイト達は東一郎のすの素早い動きを見て感嘆の声を上げた。

だが、それに驚いたのは唯の方だった。

なんとあまり運動が得意でない唯は、東一郎が着地する方向に移動してきてしまったのだ。


「ええ!?あっぶ!」

東一郎は唯を庇うように空中で身を捩ると、そのまま体育館の床に受け身も取らずに、落ちてきた。


「だ!?大丈夫!?」

驚きつつ唯は東一郎に声をかけた。


「あつつ、唯さんこそだいじょう…ぶ…??」

東一郎は、唯の姿を見て思わず目を見張った。


東一郎が倒れ際に、唯のハーフパンツに手でも掛かってしまったのか?東一郎の手元に唯のハーフパンツがかかっており、半分以上下着が見えている状態だった。


「あ…」

「え…」

「!!?」

クラスの女子達は、唯のあられもない姿に思わず絶句した。


「え…ええぇ!?」

唯は自分の姿に気が付き、悲鳴に近い声を上げた。

そして顔真っ赤にした唯は、体育館を飛び出していってしまった。


「あ、ゆ、唯さん!!?」

東一郎は叫んだが、追いかけることは流石にできなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ヤマト…終わったよ…」

東一郎はがっかりした表情で、机に突っ伏していた。


「ふーん、そんな事があったんだー」

エマは妙にテンションが高くなっていた。


「エマ、性格悪いよ!」

ユリはエマを注意した。が、エマは全く気にしていなかった。

ちなみに、久々にこころと遥も同じく来ていた。


「ああぁ、嫌われた…もう終わりだ。これじゃあ、何のために俺が居るのか…」

東一郎は絶望的な声を上げて、絶望的な表情をした。


「ねぇ、そもそも水島君、なんであの子が良いの?」

「はぁ?良いのって、そりゃあの子は別格だからな…」

「ん?何が別格なの?見た目とかスタイルとか普通じゃない?」

「ああ、そんなのはどうでも良いんだよ。彼女は凄くいい子なんだよ」

「良い子って、そもそも会話ほとんどしてないんでしょ?」

「ああ、まぁ、今はな…」

煮えきらない東一郎の態度にエマは苛立ちを隠せなくなってきた。


「でも、水島さんは人を見た目で判断しないですから…」

こころはエマに対し反論するかのよう言った。


「はぁ?委員長ちゃん、よく言えるね!この間まで、すっごい悲しげな顔してたくせにー」

エマはこころに対し、挑発的な態度を取った。


「こころさんはそんな子供みたいな態度しないわ!」

遥はこころの応援を始めた。


「ふん!?委員長ちゃんもお嬢様もちょっと黙ってらして?」

エマは二人とにらみ合いう格好になった。


「まぁまぁ、皆ここは抑えて」

元気のない東一郎に変わりヤマトは女性陣を落ち着かせた。


「ねぇ!この際はっきり聞くけどさ、あの子のこと好きなの?」

エマは突然東一郎にはっきりと聞いた。これにはこころも、遥も思わず否定せずに東一郎を見た。


「はぁ?好きとかじゃねぇよ。俺は彼女のために…彼女が楽しく過ごしてくれればそれで良いんだよ」

東一郎は机に突っ伏したままそう言った。


「ん?何それ?それじゃあ、彼女と付き合いたいとかじゃないの?」

エマはいまいち腑に落ちない様子で東一郎に尋ねた。


「いや、別に。そもそも俺はそんなつもりじゃないし…ただ、そこに居てくれて幸せになってくれれば良い」

東一郎はそのまま伏せたままで話した。


「へぇ。てっきり好きなんじゃないかと思ってたよ。」

エマに変わってユリが横から口を出した。


「いや、俺が好きとか嫌いとか、笑っちゃうっての。そもそもそういうつもりなら、唯さんに近づかねーよ」

東一郎は割と本気言った。


「ね、ねぇ。ちょっと聞くけどさ、水島くんはさ。あの子と私や委員長ちゃんだったらどっちが大事なの?」

エマは少し伏し目がちに聞いた。こころは何か言おうとしたが言わなかった。


「はぁ?大事?大事っていや。お前らだって俺にとっては大事だ。誰がどうとかじゃない!」

東一郎はガバッと起きると真剣な目でエマたちを見た。


「!?」

エマは真っ直ぐ東一郎に見られたのにびっくりしたのか、顔を真赤にして視線を外した。


「そういうのずるいです…」

こころも顔を赤くしてボソリと呟いた。


東一郎はそれだけいうと、またため息を付いて机に突っ伏したのだった。


「これは重症かもね」

ヤマトはその場にいる全員をなだめるように言って聞かせた。

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