第14話 「カワイイ」小さな約束

エマは商業施設の中にあった椅子に腰を下ろしていた。

どうしちゃったんだろうか。

私は男を手玉に取って、利用して、男は皆私のことが好きなんだから。

アイツも結局そう!

私がカワイイから…と言うわけじゃなかった。


アイツが「見直した」とかエマって名前でちゃんと呼んでくれたのは、見た目の話じゃなかった。

思った以上にラーメン食べたり、ボウリングでハイスコアを出したから。

そしたら今まで無視されてたような、態度がガラッと変わった。

アイツは「カワイイ」を何とも思っていないという事なの?

でも、そんな事はどうでも良くて、なんだろうモヤモヤするなぁ。


そう思うとエマは頭を抱えこんだ。

なんだろうこの気持は!?ああ!!もう!!

自分の気持に整理がつかず、エマは混乱した。


「どうしたの?」

ふと顔を上げると、大学生風のいかにもチャラチャラした風の若者が3人立っていた。3人共顔が赤く酒を飲んでいるようだった。


「もう夜も遅いし、悪い高校生だな〜。補導しちゃうぞ!まさか家出?」

笑いながら一人の男が言った。


「あ、いや、何でも無いです」

冷たく言い放つとエマはカバンを持ち上げてさっと立ち上がった。

ところがカバンがなにかに引っかかって立てなかった。

よく見ると、男の一人がカバンを手で抑えていたのだ。


「ちょっとさ、お話しようよ!そうだ飲みに行かない!俺ら〇〇大学の仲間でさ!絶対楽しませるぜ!だから行こうぜ!」

男の一人は、そう言うとエマの肩に手を回した。


「ちょ、やめてください!」

エマは本気で嫌がって立ち上がろうとした。


「まぁまぁ、そんなに嫌わないでよ」

男はそう言ってエマの肩をぐっと押し込み無理やり座らせた。


「ちょっと!声出しますよ!」

エマはきっと睨みつけて言った。


「おお!かっこいいね!怒った顔!でも平気!ここもう誰も居ないしぃ」

男はキョロキョロと辺りを見渡して言った。確かに周りに人がいる気配がない。

少し静かなところを選んで奥に入ってきてしまった事をエマは少し後悔した。

この場所ではうまい具合に警備員が通らない限り、助けを呼ぶことは難しそうだ。


「ねぇねぇ、これから家で飲み直すんだけど来ない?大丈夫他の女の子も来るし」

男は極端にエマに顔を近づけて言った。


「絶対嫌!」

エマは怒りと悔しさで顔を真赤にして立ち上がろうとしたが、押さえつけられて立ち上がれない。

悔しさと怖さが相まって、涙が流れてきた。


「ああ!やめろよ!泣かせちゃったー」

また別の男が、エマの前に来るとニヤニヤしながら言った。


「ねぇねぇ、チューしていい?君かわうぃうぃねえ!!」

といって一同爆笑していた。

エマは何も出来ずに悔しさのあまり下を向いた。


男がいきなりエマの胸に手を伸ばしてきた。

「なんか凄いいい匂いがする!ねぇねぇ!ちょっと触っていい!?もんでイイ?」

男はエマの旨を揉むふりをした。


「おいおい、いきなりそりゃねーだろ。かわいそうだろー」

別の男が笑いながら言った。


「でも、俺ってテクニシャンだし!君きっと気持ちよくさせちゃうよ〜」

男が手を伸ばしエマの胸に手をかけそうになったその時だった。

男がその姿勢のまま後ろに引っ張られるようにして倒れた。


「てめぇ等、うちのアイドルになんて真似してくれんだコラ!?」

そこには何と帰ったはずの東一郎が鬼の形相で立っていた。


「ってぇなぁ!てめぇえ!何してくれてんだこら!?」

倒れた男は、勢いよく立ち上がると東一郎に掴みかかろうとした。


東一郎は間髪入れずに、男の顔面にストレートパンチを打ち込んだ。

前に出てきた男と東一郎のパンチのタイミングドンピシャに合って、男は顔を中心に逆上がりをするかのように一回転してひっくり返った。

そのままピクリとも動かなくなった。


「お、お前!なにしや…」

2人目の男がいいかけたその瞬間今度は、その男の顔面を東一郎の蹴りが直撃していた。男はそのまま糸が切れた操り人形のようにぺたりと前のめりに倒れた。


「ちょ、おま…」

最後の男が慌てて離れようとしたところを東一郎はあっさりと足を払って、ひっくり返した。


「てめぇ、覚悟は出来てんだろうな」

東一郎はそう言いわる瞬間に男の顔面に蹴りを入れた。

バンと音がしたと同時に男は勢いよく後ろに吹き飛んだ。呻きながら視線は宙に漂っていた。


「わりい。遅くなった」

東一郎はエマに詫びると手を取った。


「どうして…」

エマは何か言おうとしたが、東一郎は男を指さして一発入れとくか?と言わんばかりに、男の髪の毛を引っ張って無理やり顔を上げさせた。

エマは首を横に振った。


「てめぇ、こんな事してただじゃ…」

男は呻きながら呟いた。


「そうか、じゃあ、ちょっと待ってて」

東一郎はそう言うと、男の横っ面を思いきリビンタすると、何故か服を脱がせて倒れている男の写真をスマホに収めた。

そして全員の財布の身分証明書をスマホで写真撮影した。


「お前らが、次この子に絡んだら俺が見つけ出して二度と街を満足に歩けない体にしてやる。あと写真もネットにばらまく!何だったら刑事告発してやってもいいんだぜ!クソガキども!」


「俺は加害者でも構わねーけど、この子は被害者だからな。しかもオレは18才にもなってねー。女子高生を襲おうとした3人とそれを阻止した高校生。お前ら日本人の社会で一生まともに行けていけねーような、本名ももちろん晒してやるよ!ナイスなデジタルタトゥーだと思うけどな。あははは」

狂気じみた笑いを東一郎はした。


男は下を向いたまま何も言わなかった。

東一郎はエマの手を取るとそのまま、その場を後にした。


「ゴメンな、怖い思いをさせちまったな」

東一郎は下を向いたままエマに言った。


「…なんで…どうして…助けに来てくれたの?」

エマも下を向いたまま言った。


「いや、助けに来たっていうか…一応、ボウリングとか付き合わせちゃったし、念の為気にしてたら姿見失っちまって…」

「でも、あの時、帰ったんじゃ…」

「ああ、まぁ、そうなんだけどさ…」

「なんで…」

エマは赤い目で東一郎を見た。


「…、ああ、それあれだわ。ほら、遠足は帰るまでが遠足です!って小学校の頃言われなかった?あれと一緒よ。あと、なんつーか、色々ゴメンな」

東一郎はなぜ謝ったのか、エマには理解できなかった。


「…約束…守ってよ」

「え?約束??何の??」

「ほら、ラーメン屋さんで、これ食べ切れたら何でも言うこと聞くってやつ」

「あっと…そんなこと言ったっけ」

「言った…」

「そうか、何だ?言ってみろよ。殴りたいなら殴らせてやるぞ」

東一郎は、そう言うと大袈裟に目を閉じて、殴られるポーズを取った。


「また、ラーメン屋さん連れてってよ…」

小さな声でエマはいった。


東一郎は一瞬びっくりした顔をしたが、直ぐに笑顔で言った。

「任せとけ、俺はほとんど制覇しているからな!」


エマも少しだけ笑うとコクリと頷いた。

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