第15話 「散髪」理容師の卵?
おっさん空手家の神崎東一郎と普通の高校生である水島瞬の意識が入れ替わって2ヶ月程が過ぎたある日の事。
「なぁ、ヤマト、俺ってずーっとこの髪型?」
東一郎はヤマトに聞いた。
「んー、まぁ、割とそうだと思う」
ヤマトは東一郎を見ながら言った。
「なんかコダワリとかあった?」
「いや、知らねーよ。というか、なんで俺に聞くんだよ。自分でわかんないの?」
「うーん、わかんないんだよね。何でこの髪型なのか…」
東一郎、この世界では水島瞬の髪型は、男の割に長く髪の毛の量が多く太いため、まるでボブカットのようなやや奇妙な髪型であった。
「邪魔なんだよね。俺は短いほうが好きだから…」
東一郎はこの髪型をかき上げながら言った。
「いや、だったら切ればいいじゃん。短いほうが似合うと思うし…」
ヤマトは素直な感想を言った。
「んー、でも、俺が切っちゃっていいのかな?本人がもしこの髪型を気に入ってんなら申し訳ないし…」
東一郎は考えながら言った。
「あー、出たでた。例の二重人格の話?もういいよその設定。確かに以前の水島とはだいぶ違うけど、最近の水島の方が分かりやすくていいよ。もうそれで一本化したら?」
といって、ヤマトは笑った。
「いや、でも、いつ戻ってくるかわかんないしな…」
東一郎はぶつぶつと言っている。
ヤマトはもう面倒になったようで、あえて何も言わなかった。
土曜日の昼下がりだった。
「お兄ちゃん、髪切らないの?そろそろ」
不意に妹のリナが話しかけてきた。
「ああ、切りたいな。そろそろ、もっと短くしたいな」
東一郎は答えた。
ちなみに東一郎はリナとよく話をしている。それは入れ替わってしまった体の主である水島瞬の事をよく知るため。妹のリナとの関係は良好のようだ。
また両親についても情報をリナから得ていた。
両親も当然息子の様子がおかしいことに気がついていたが、思春期の行動だという父親の発言で、絶賛思春期中ということになっている。
「じゃあ、今回も私に切らせて!」
リナは東一郎に甘えた声で言った。
「え!?前回ってリナが切ってくれたのか?」
東一郎は驚いていった。
「え、何で??ここ2年位はずーっと私切ってたじゃん!」
「マジか…」
「えー、いつもだったら、練習台にして良いよって言ってくれるのにー」
そう言ってリナは頬を膨らませた。
妹のリナは子供の頃から理容師になるのが夢で、よく家族の髪の毛を切りたがった。水島瞬はどうやら妹の望み通りに髪の毛を切らせていたらしい。
「よし!じゃあ、頼むよ。かっこよく仕上げてくれ!」
「分かった!任せといて!」
リナは100円ショップで買ってきたであろう道具を、まるでプロの理容師がするように腰に色々とくっつけていた。
「な、なんか本格的だな…」
東一郎はちょっとだけ引きながら、妹のやる気に水をささない程度に言った。
「さあ!本日はどうされますか?お客様!」
一軒家の庭に椅子を置き、ゴミ袋から首だけだした状態の東一郎を前にリナは聞いた。
「短くしてほしいです。この髪型は頭が重いです」
東一郎はやや長い髪を左右に振ってみせた。
「了解しました!では楽にしてください」
そう言うと、手際よくハサミを奮い始めた。
まるでプロの理容師のような手際の良さだ。
「へー、凄いな。プロみたいだな」
「そうでしょ!私絶対理容師になるんだー。そんでねいつかハリウッドに行って、あっちでメイクアップアーティストになるの!」
楽しげに話す妹を横目に、東一郎は居心地の良さを感じていた。
「さあ、終わりました!どうぞご確認ください!完璧!」
リナはそう言うと、手鏡を見せた。
そこにはもっさりした髪の長さが、やや短くなり少しスッキリしたが、やはりボブカットのような男子高校生の姿が写っていた。
「お前が原因だったかぁ!!」
思わず東一郎がツッコミを入れてしまった。
「ええ!?何?何で?いつもと一緒じゃん!」
妹はやや慌てて言った。
「これもっさりした大木凡人が、さっぱりした大木凡人になっただけじゃねーか!大木凡人から離れたいんだよ!俺は!!」
東一郎はほぼ変わらない頭の形を見て、さっきまで切っていた髪の毛は何だったのか混乱しながら言った。
「…」
リナは黙ってしまった。
「あ、ごめん、思わずあまりに大木凡人だったから、いいすぎちゃった。できればもうちょっと短くしたいんだけど…」
東一郎は妹をフォローしつつ慌てていった。
「お兄ちゃん…」
「ん?何?ごめん。言い過ぎたのは謝る」
「あのさ…」
「だから、ごめんて。気を悪くしないでくれ」
「大木凡人って誰??」
リナは困惑した表情で東一郎に言った。
「……」
東一郎は黙って目を閉じて空を見上げた。
結局東一郎の散髪は、この後1時間半も要した。
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