第13話 「カワイイ」封印
「いやー、凄かったな。凄いもの見れたよ」
東一郎はまだ笑いながら言った。
「ちょっと、もうやめてよぉ…」
エマはバツが悪そうに言った。
「しおらしいじゃんか。はははは」
東一郎はエマをみて愉快そうに笑った。
ラーメン店で、すごい量のラーメンを食べ続けたエマは、ヤマトが言った「モデル」という言葉に反応し、「無理」といってしまったのを聞いて、東一郎はじめ周りの人達は「この子は吐く!」と誤解して店外に担ぎ出してしまったのだ。
本人は別にそうという訳でなかったのだが、食べすぎた事実は事実として食べきれずに出てきたのだった。
そして外に出てきて、自分の食べた量を、思い出して急に恥ずかしく感じていた。
「いや、でもマジで見直したよ。お前凄かったな!普通の男だって食えないやつ結構いるんだぜ。初めてみたよ野菜マシマシを食べきろうとした女子高生!」
東一郎は改めて大袈裟に驚きながら言った。
「でも美味しかった。初めて食べた味だった。実は私結構大食いなんだよね」
エマは素で微笑んで言った。
「ああ、見事な食べっぷり!ちょっと舐めてた。ゴメンな。エマ!」
東一郎はエマに向かって深々と頭を下げた。
「え!?あ、ああ、ええ!?」
エマは東一郎が自分のことをエマと呼んだことに驚いて狼狽した。
「え?何?何で焦るの?」
東一郎は不思議そうな顔をした。
「あー、いや、焦ってるわけじゃないんだけど…」
エマは落ち着きなく視線をさまよわせて言った。
「まぁ、あんだけ食べたわけだし、奢ってもらってありがとな!」
東一郎は改めてお礼を言った。
「あと、俺の早とちりで中断させちゃってゴメンな。」
「あ、いいよ、食べすぎてたの事実だし。それよりふたりとも途中だったのに…」
「ああ、それは気にすんなっての。それでも結構食べてたよ」
「そうそう、そこは気にしないでよ」
ヤマトも話に加わって言った。
「それはそれでこの後どうする?」
ヤマトは東一郎とエマに聞いた。
「どうする?まぁ、腹ごなしにちょっと体動かすか?ヤマトいつものところに行くぞ!」
東一郎はエマの意見を聞かずに立ち上がった。
「エマも一緒に来るよなー?」
東一郎はエマに聞いた。エマは黙って頷いた。
東一郎は答えを聞かずに、急かすように歩き始めた。
「これは一体何??」
エマはまたしても混乱している。
惚れさせる計画として、ご飯を奢る約束をしてしまい、超大盛りのラーメンを食べて気がついたら、ボウリング場に居てボウリングをしている。
だが、エマが混乱しているのはそのスコアだ。
第一ゲーム
東一郎・・・ スコア95
ヤマト・・・ スコア88
エマ ・・・ スコア120
何なの?男二人がスコア100も超えない体たらく。
しかもエマはこの時実は実力を出していない。カワイイを発揮してワザとミスをしていたりしたが、1ゲーム終わってこのスコアですでに呆れいているのだ。
スコアが悪いのはエマに気を使ったのだろうか?ヘラヘラとしている態度が無性に腹が立った。
しかも二人は結構通っているらしく、店員と親しげに会話さえしていたし、常連のおじいちゃんグループに声をかけられていた。
「今日は可愛いお嬢さんと一緒なんだねぇ。いいねぇ華やかで」
人の良さそうな老人がエマを見ながら言った。
それから何やら話し込んでいる。
「よく来るのボウリング?」
エマはヤマトに聞いた。
「そうだね。最近よく水島と来るよ。週2くらいかなぁ。で、あの人達親切で投げ方とか教えてくれるんだよね」
ヤマトは老人達と談笑している東一郎を指さした。
「マジで…」
エマは絶句した。週二回も来ておいて、しかも投げ方教わって、それでこの下手さ。それより何故老人たちとそんなに仲良く会話をしているのだ?
エマは、本来の目的など全く気にならないくらいに混乱した。
「わりいわりい。つい投げ方教えてもらってたら、話し込んじゃって!じゃあ、第2ゲーム行こうぜ!」
東一郎は笑顔で帰ってきた。
東一郎は、豪快なフォームでガター。
ヤマトは、小さいフォームで端っこの2ピンだけ倒した。
エマはボウリング場でカワイイを発揮しようとしていたが、そのやる気はとっくに失っていた。もはや東一郎を惚れさせるとかもどうでも良いと思っていた。
エマはボールを持つとすっと力感なくふわっとボールを振り上げると豪快に回転をかけた。ボールは切れなカーブがかかり、吸い込まれるかのような静けさですべてのピンを豪快に倒した。
「うおおおおお!マジか!?」
周りに居た人々ほぼ全員が、そのフォームとスコアに圧倒された。
エマは振り返ると拳を握りしめ叫んだ。
「オッシャー!」
派手なガッツポーズを取ると東一郎や老人たち、隣のレーンの人達まで皆エマに盛大な拍手を送った。
第二ゲーム
東一郎・・・ スコア92
ヤマト・・・ スコア97
エマ ・・・ スコア186
「いやー、凄かったな!尊敬するよ」
東一郎はエマに向かって敬意を込めて言った。
「ふふん。見た私の実力!?ボウリング得意なんだよね〜」
エマはご満悦だった。
「な、なんかエマちゃん雰囲気が…」
ヤマトは思わず言った。
エマはそれを聞いてハッとした表情を作った。
「もうどうでもよくね?カワイイとか、俺はエマの本性がこっちの方がよっぽど良いけどな」
東一郎は何の気無しに言った。
「え?いや、本性とか別に…」
エマは、しどろもどろに言った。
もはやエマは惚れさせる作戦もどうでも良かったし、カワイイキャラを東一郎にするのもバカバカしく思えていた。
「さて、遅くなったしぼちぼち帰ろうぜ」
東一郎は立ち上げるとエマに言った。
「送ってやるよ。家どこ?」
東一郎はあっさりと聞いた。
「あ、いや、別に大丈夫。ありがとう!」
エマは素直にありがとうと言えた事に自分自身驚いた。
エマは今、自分の中で感情がよく分かっていなかった。バカにしようとした相手に相手にされず、手玉に取るはずが手玉に取られ、それでいて素直な人間的な部分を見てしまい。
見直したと言われて喜んでしまう自分がいた。
いつも男を利用し、手玉に取るエマにとってこれは初めての経験に近かった。
「そうか…じゃあ、気をつけて帰れよ」
そう言うとあっさりと東一郎は帰っていった。
「エマちゃん、帰ろうよ」
ヤマトはエマに声をかけたが、友だちに会うからと嘘をついてヤマトを一人で帰らせた。
エマは何となく一人になりたかったのだ。考える時間が欲しかった。
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