第11話 「カワイイ」悪巧み

たった数日にして、エマの親衛隊は全滅してしまった。正確には東一郎のもとに向かった親衛隊メンバーは、東一郎に瞬殺されたというのが実際のところだ。


後日、エマのもとに訪れた親衛隊メンバーは、アイツにはもう関わりたくないという言葉を残しエマのもとを去っていった。


エマが入学してからコツコツと積み上げた地位があっという間に揺らぎ兼ねない結末となってしまった。


「エマ。どうするの?皆やられちゃったよ」

ユリはエマに聞いた。


「ふん!10人も居たのにやられたの?不甲斐ないってば!アイツラ!」

エマは難しい顔をして親衛隊を罵った。


「ちょっと。言い過ぎだよ。あの子達はエマのためにやられちゃったんだよ」

「フン!雑魚はいくら居ても雑魚よ!」

「ええ!?エマ言うねぇ…」

ユリもやや引きながら呟く。


「もうこうなったら私が直接手を下すわ!」

エマはヒーロー物の悪役のようなセリフを、立ち上がりながら言った。


「ちょっと!何すんのよ危ないのはよしなよ!男子が10人もあっさりやられたんだよ!」

ユリは必死になって止めた。


「ふふふ、私は三上エマ!雑誌のモデルでステータスも高い!この学校のカーストの最上位にいるのよ」

勝ち誇ったかのようにエマは言った。


「そうかも知れないけど…」

「ねぇ、ユリ!アイツにとって何が一番辛いと思う?それは好きな女の子に人格否定されて、ボロ雑巾のように捨てられたどう思う?」

エマは不敵に笑った。


「えっぐ…でも、それな!だけど、もういいじゃん。関わるのやめな」

ユリの顔も口とは裏腹に悪い顔になった。

二人は顔を見合わせて笑った。当然ふたりとも悪い顔をしていた。



最近の東一郎は、授業が終わるとさっさと帰る日々が続いていた。


彼はこの世界において、自分の存在を知る必要があった。

その中で、彼が一番知りたいこと。

それはこの時代の自分自身。つまり神崎東一郎の存在だ。

同じ街に住んでいるはずだが、見つからないのだ。

神崎東一郎がそもそも存在していないかのような状況なのだ。あったはずの実家がなく、通ったはずの高校に知る人はおらず、馴染みの友達も探したが見つからず、当時働いた職場ですら東一郎の存在が無かったことになっていた。

彼は学校が終わってから、家に帰るまで情報集めに奔走していたのだ。


そんなある日のこと。


「たまには飯でも食って帰らないか?」

ヤマトは東一郎に言った。


「ああ、たまにはそうするか?」

東一郎はヤマトに言った。


「それ!私も行く!」

突然エマが東一郎に言った。


「うわ!何なの!?てか、誰?」

東一郎は驚いて言った。

エマは誰と言われた事に驚きと怒りの感情が湧き上がったが、そこはなんとか感情を抑え込んだ。


「えー。エマだよー。忘れちゃったー?」

エマはあえて明るく東一郎の肩にボディタッチしようとした。

東一郎は無意識にその手をすっと避けるとヤマトに言った。

エマはその行為に少なからずショックを受けたが、表情は変えずに笑顔だった。


「おい、ヤマト。誰だっけ?」

東一郎はヤマトに助けを求めた。


「嘘だろ!?まじかよ!?エマちゃんだよ!モデルの!」

ヤマトは心底驚いて東一郎に言った。


「エマ??ああ、そういや前になんか訳分かんないこと言ってたやつか!?」

東一郎はちょっと迷惑そうな顔をした。


「思い出してくれたー?」

エマは小動物を思わせる不安げな顔で、東一郎を見上げた。この表情に無関心な男子は過去居なかった。


「は!!思い出した!お前の事で訳のわからん奴らに絡まれて大変だったんだぞ!何なんだよお前?何の嫌がらせだよ!?」

東一郎はエマに向かって一気に責め立てた。


恐らくエマがけしかけた親衛隊のことだろう。


「えー?エマ全然わかんないよー」

といって泣く真似をした。だが東一郎は表情ひとつかえなかった。


「てか、面倒事はもうゴメンだっつーの!もういいだろ!何で俺に絡んでくるんだよ。なんか恨みでもあるのか?」

東一郎は本音で聞いてみた。


「そんなんじゃないよー。私は迷惑かけたお詫びをしたいだけだよー」

ふわふわした言い方でエマは言った。


「お詫び?まじで?だったら飯奢ってくれ!」

東一郎は間髪入れずに言った。


エマは瞬間無表情になった。

これまで奢ってもらう事は多々あったが、奢ったことなど一度もなかった。彼女はモデル業で稼いだ金は、ほぼ全て洋服などのおしゃれやおいしい食べ物に消えていった。

まさか自分が男に奢れと言われるとは、夢にも思わなかった。

だが、エマは直ぐににこやかな表情を作って言った。


「いいよ!だって私水島くんたちと仲良くなりたいし!」

飛び切りの笑顔でエマは言った。聞き耳を立てていた周りのクラスメイトは驚きを隠せなかった。


「マジか!?やったぜ!じゃあ、早速行こうぜ!ヤマト!」

東一郎はヤマトの方を叩いた。


「え!?俺…もいいの??」

ヤマトは困惑しながら、エマの顔を窺った。


「もちろんだよ!エマは皆と仲良くなりたいもの!よろしくね大和君!」

エマは飛び切りの笑顔でそう言ったが、内心怒りでどうにかならないか、自己を制御することで精一杯だった。


コイツラ!絶対地獄に落とす!てか、誰だよこのチビ!ふざけんなよ!

エマは心のなかでそう叫んだ。

コイツラ絶対許さない!私に惚れさせて散々貢がせてからボロ雑巾のように捨ててやる!

エマは決意を新たにするのだった。

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