第10話 「カワイイ」執行

「本当に許せない!あいつ…」

エマは怒り心頭だった。


「ちょっと、エマ!先行かないでよ」

ユリは追いすがった。


「ユリもちょっと問題発言あったけど、まぁ良いわ。それよりあいつよ」

エマは眉間にシワを寄せて鬼の形相になっていた。


「ちょ…エマ、顔!顔!」

周囲を見渡して、慌ててユリはエマに言った。何人かの生徒がエマを見ていた。彼女はいるだけで非常に目立つのだ。


「え!?ああ、ちょっと…うっかりしちゃった」

エマはいつものように笑顔にすぐ戻った。


「エマ昔っから本気になると悪い顔になるよね…」

「そお?私は単に真剣になっているだけなんだけどね」

「で、どうするの?手伝うよ!」

「ありがとう!ユリ!いつも私を助けてくれて!」

「ううん。親友だもん!私はあなたの味方だよ!」

「ありがとーユリ…でも、私ってちょっとオタクで、男を手玉に取って…って思ってたんだねー」

エマはとびきりの笑顔のままでユリに言った。


「あ、覚えてたんだ…」

ユリは引きつった笑顔のままだった。


「まぁ、いいよ。まずはアイツよ!アイツ!後悔させてやるわ!」

エマは決意新たにそういった。


「やあ!エマちゃん!元気?」

ふとそんな時に声をかけてきたのは、エマのクラスメイトの男子ケンだった。

ケンは特に取り柄は無いが、体が大きく力も強い。そして素直に言うことを聞いてくれるエマ親衛隊の1人だった。ちなみにエマ親衛隊は分かっているだけでも10名程度いる。


「ねぇ!ケン君!聞いてよー」

エマは甘えた声で、ケンに事の成り行きを大袈裟に話した。そして東一郎こと、水島瞬バカにされたと上目遣いでケンに話したのである。


「まじかよ!?俺一言言ってくる!許せねー!」

ケンはエマの話を真に受けて、放課後になると東一郎のもとに向かったのだった。


「さて、私のファンがあなたを許さないわ。思い知ればいい」

ケンを見送るエマの顔は悪い顔になっていた。


「エマ…顔…」

ユリはエマの顔を見ずに注意した。


「うふふ。カワイイの刑!執行よ」

エマは悪い顔のまま、直そうとはしなかった。


勇んで出ていったケンだったが、その直後から彼を見かける事はなかった。

エマはいつものように、犬のように報告に来るケンを待っていたが、報告に来なかったのだ。


「ケンくんどうしたのかなぁ?」

次の日、エマは周囲に聞こえるように、ユリに話をした。

ユリも当惑している。


「どうしたの?エマちゃん」

今度は同じく親衛隊のヒカルとユウヤがエマのもとにやってきた。

エマはケンにやったことと同様に、話を大袈裟且つ東一郎を悪役として話をした。

同じく怒り浸透のヒカルとユウヤは、その日の放課後やはり東一郎のもとに向かった。


だが、ふたりとも戻ってくることはなかった。

ケン、ヒカル、ユウヤの3人共、報告に来ることはなかった。

ユリが調べたところ3人共に学校を休んでいるという。


「何?一体何が起こっているの!?」

エマは少し焦りを感じた。

ユリに探ってもらったが、文句を言いに来た3人は東一郎とともにすぐどこかに行ってしまったようだ。で、10分もしないうちに東一郎だけ何食わぬ顔で戻ってくるとのこと。


ケンとヒカル、ユウヤに何があったのか?ラインを送ってみたが返答はなかった。

業を煮やしたエマは、親衛隊のメンバー全員に大事な話があるとして呼び出した。


エマからの直接呼び出しともなれば、喜んで馳せ参じる親衛隊の残り5名。

エマは、東一郎にバカにされたと大袈裟かつ極端に話をした。

そしてケン・ヒカル・ユウヤが抗議に行ってくれたけど、その後連絡がついていない事を悲しげに訴えた。

親衛隊メンバー5名は怒り、我先にと東一郎のもとに向かった。


「役者だねぇ…」

ユリはエマにある意味呆れ顔で言った。

「ふふふ。役者じゃないよ!私はモデルだよ!これで水島くんもおしまい!カワイイは正義なのだ!」

エマは不敵に笑った。もちろん悪い顔をしていたが、ユリは何も言わなかった。


そして抗議に向かった5名の親衛隊員達は、そのままエマのもとに帰ってくることはなかった。

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