第9話 「カワイイ」三上エマというモデルの少女

おっさん空手家の神崎東一郎と普通の高校生である水島瞬の意識が入れ替わって1ヶ月程が過ぎたある日の事。


「ねぇエマ、なんか聞いた?」

「ん?何?何の話?」

「ほら、あんたが前にちょっと可愛いって言ったらイジメのターゲットにされたD組の男の子!なんか人が変わったみたいだって!」

「えぇ!?そうなの?ていうか、そんなこと言ったっけ?」

「結構顔かわいいけど、暗くて地味だった子だよね」

「ふーん、私は覚えていないなぁ。噂になってるのって?」

「ああ、他のクラスの子に聞いたんだけど、あんたの事気に入ってる男子何人かが、その後イジりまくってたらしくてさ、なんかイジメみたいになってたんだって」

「えぇ!?その子かわいそう」

「で、ちょっとエスカレートして、このままじゃやばいかもってなってたら、急に人が変わったようになって、そのいじってる男子、みんなやっつけちゃったんだって!」

「まじで!!?すご~い!私ちょっと興味持っちゃった!」

「ねぇ、ちょっと見に行かない。どんなふうに変わったのか?」

「うん。良いよ!ちょっとからかっちゃおうか。どうせ暇だし、、ふふふ」

「ちょっと性格悪いよ!エマ!」

「何よ!?ユリだって楽しんでるくせに!ふふふ」


教室の休み時間、B組の女子2人はこんな会話をしていた。


「しかしさ、水島、すごい変わったよな」

ヤマトは東一郎に言った。


「は?何が?」

東一郎はオウム返しした。


「いや、ちょっと前のお前は自己主張しなくて、あまりしゃべんないっつーか、ちょっと一人でいるのが好きって感じで、そもそも言葉遣いももっと大人しかったぞ!なんで人格ごと変わるんだろうな?」

ヤマトはまじまじと東一郎を見た。


「あー、あれじゃね?イジメに耐えられなくて別人格が現れたみたいな…」

東一郎は上の空で返した。


「いや、入れ替わってねーじゃん。元の人格どこ行ったんだよ?てか、人格変わると記憶すら失うのか?」

ヤマトは呆れ顔で東一郎に言った。


その時だった。

ふらっと見かけない女子2名が教室に入ってきた。

周りの男子生徒はもちろん、女子生徒も「ざわざわ」とした雰囲気になった。


「こんにちは!あの、アタシのこと覚えてる?」

すらっと背の高い女子生徒は、東一郎に突然声をかけた。


「あ、エマちゃん…」

ヤマトはぼそっと呟いた。

エマと呼ばれた少女は、目鼻立ちのクッキリしたスラッとした体型で、外国人の血が少し混じっているのだろうか、日本人離れした顔立ちをした美少女だった。


「誰?何?」

東一郎は眉間にシワを寄せるように彼女に言った。


「え!?あ、あれ?」

自信満々に尋ねたエマだったが、反応が予想と違ったことに少し困惑した。

彼女は学園のアイドルとまで言われる美貌の持ち主で、実際に雑誌のモデルとして活動もしている。いわば有名人なのだ。


「いや、何?俺?何の用?」

東一郎はあっさりと言った。


「ちょ…!ちょっと!何なのよ!?あんた!」

隣りにいた別の少女がいきなり東一郎に突っかかった。


「いや…だから何?」


「あんたね!陰キャのくせにエマがわざわざ会いに来てあげたのに、何様なの?本来なら雑誌のモデルもやってるこの子は、あんたなんか口もきけないんだからね」

少女は思わず口に出てしまったが、高飛車な物言いに周囲を気にしてちょっとハッとした。


「え!?いや、そもそもお前も誰?てか、何?モデルの仕事してるから何?偉いの?それ?」

東一郎はまじまじと二人を見た。


エマは混乱していた。大抵の男は自分が困っていれば助けてくれるし、なにか頼んだら喜んでやってくれる。自分で言うのも何だが自分の美貌のおかげだと思っている。

なのにこの男は全く自分に対する興味がないのだ。こんな事は生まれてはじめてかも知れない。

自分は学園中の注目を浴びる存在。

一定の恋人を作らないのは、自分の存在価値を皆に知ってほしいから。皆にチヤホヤされたい!皆が等しく自分を愛してほしいからなのだ。

一人の100の愛よりも100人の10の愛で1000じゃん!という考えだ。


少なくともこれまで自分が話しかけてこんなに邪険にされた事はないし、何かの間違いだと思った。


「あ、ごめんね!エマね!ちょっと前に君のこと可愛いねって言ったらさ、ちょっとそれが元でイジられちゃった聞いてさ。謝りたかったの。ごめんねって!」

下から上目遣いで東一郎を見上げた。


「は?いや、それワザとやったの?」

東一郎はエマをじろりと見た。


「え!?そんな訳無いじゃん。でもエマの言葉が影響しちゃったのかなと思って…」

エマは更に泣くポーズをしながら懇願するような顔をした。


「ああ、別にお前が悪いわけじゃないんだろ?別に気にすんなよ」

東一郎はそう言うと手をひらひらと振ってバイバイのポーズをとってヤマトの方を向いてしまった。


「お…おまえ…って、、お父さんにも言われないのに…」

エマにとってはとてもショックで且つプライドを傷つけられた。


隣りにいたユリはそれ以上に友達がバカにされた様に感じらたらしく顔を真っ赤にして東一郎に言った。


「ちょっとアンタ!エマがわざわざ構ってあげてんのに、その態度は何のよ!」

ユリは怒りに満ちた怒声に近い声で言った。


「うるせーな!お前何なんだよ?マネージャーか!?モデルのマネージャー気取りかよ!?」

東一郎はユリに言い放った。


「なんですって!?アンタみたいな陰キャがモデルのエマから声かけられてるんだから有り難く思いなさいよ!」

「は!?頼んでねーよ!そもそもモデル、モデルうるせーっつの!」

「何よ!この子はあの有名なSKIPていう10代に絶大な支持を受けるモデルのエース格なんだよ!」

「いや、だから知らねーっつの!スキップだかジャンプだかしらねーけど、興味ない!」

「何なのこの陰キャのくせに!」

「うるせーな!新宿とか中野のキャバクラにモデル出身だっつーのキャバ嬢がわんさか居たわ!アイツラにどれだけ貢がされたか!だからモデルって嫌いなんだよ!そのモデルって響きそのものが!」

「はぁ!?エマがキャバクラ嬢だって言うの!?バカにしないでよ!」

「キャバ嬢バカにすんなよ!どうせエマさんもまた実際性格どぎついんじゃないの!?」

「なんですって!?エマは確かに男を利用する魔性なところはあるけど、こんなに可愛い子よ!」

「だから!可愛さとったらクズだろって言ってんの!」

「可愛さは正義ってしらないの?エマは確かにクズの部類だけど、アンタみたいな陰キャに言われたくないわ!」

「はあ!?お前、突然押しかけてきて陰キャだとか言ってんじゃねーよ!」

「なんですって!?どうせ漫画・アニメ好きのオタクのクズなんでしょ!?」

「おいおい、マンガ・アニメは男の嗜みだぜ。多くの人間はそこから漢(おとこ)を学ぶんだよ。お花畑のモデルさんの雑誌とは得られる経験値が違うっつーの!」

「エマもちょっとオタクなところもあるけど、男を手玉に取る経験値ならそこら辺のキャバ嬢に負けてるわけないじゃない!キャバクラに居たら絶対ナンバー1だから!」

「おいおい、舐めんな!お前らみたいが何も知らねーガキが、キャバクラ嬢舐めすぎだろ!女の戦いだぞ!No.1どころかお前らなんて3日で逃げ出すぜ!」

「ちょっとふざけないでよ!エマはそこらへんの可愛い女の子を蹴落としてここまで来てんのよ!そこら辺の芋女なんて焼き芋に…」


「ちょっと!ユリ!!!」

鬼の形相のエマが居た。


「あ…ごめん…エマ…」

口喧嘩に発展してしまったとは言え、あまりにも酷い言い方になってしまった。


「ちょっと…また来るね」

口角を上げてニッコリと作り笑いをしながら、エマは怒りに震えながら教室を出ていった。


「ちょっと待ってよ!」

ユリもエマの後を追いかけていった。


東一郎はふとあたりを見渡した。

そこに居たクラスメイトは全員ぽかんとした顔を少女たちが出ていった方向に向けていた。


「なぁ、俺なんか間違ってる?」

東一郎はヤマトに聞いた。ヤマトは引きつった顔で東一郎の顔を見て首を振った。


「え?キャバクラ行ったことあるの??」

ヤマトは引きつった顔で東一郎に聞いた。

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