第8話 「制裁」平和な日々
東一郎は普段どおりに教室にやってくると普段と何ら変わることなくそのまま席についた。
まだ登校していない生徒も多かったが、昨日の様子を知る生徒は、東一郎が全くの無傷である事に安堵し、無事に解決したのだと認識した。
少し経ってやってきたヤマトは、東一郎を見るなり、照れたような笑顔を向けた。
実は昨日の一部始終をヤマトと数名の男子生徒が外から様子を窺っていたのだ。
東一郎が袋叩きにされようものなら、飛び込もうという段取りまでつけていたようだが、どうも思っていたのと違い様子がおかしいと傍観していたそうだ。
なので、倉庫から東一郎が一人でしかも無傷で出てきた時、その場に居た男子生徒数名は驚きと同時に、無事を喜んだ。
「え?なんでいるんだ?」
東一郎はキョトンとした顔で、ヤマトと数名のクラスメイトに言った。
「あ、いや、、その、、、」
心配して来たとは言いにくいヤマトは口をモゴモゴと動かした。
「あー、ひょっとして心配してくれたのか?」
笑顔の東一郎にヤマトは口には出さないが、微笑みで返した。
「お前!良いやつだな!」
東一郎は友達思いの若者の肩をぐいっと抱えるとグリグリと頭を撫でた。
「な、何だよ!やめろよ!!」
ヤマトは顔を赤くして抗議した。
「えっと、お前らもサンキュー!」
一緒に様子を見に来たクラスメイト3名にも礼を言った。
こんなやり取りが昨晩行われていた。
なので、話はすでにクラスメイトの何名かには、伝わっていたようだ。
噂は尾ひれをつけて広まるものだが、例の4人は一人として登校しなかった。
2日後にワックスの男と大男が登校したが、噂がすでに広まっているので、居心地は悪かったであろう。
ワックスの男と大男が昼休みに人目のつかない校庭のハズレに一緒にいるところに、何故か東一郎が現れた。
2人は無言で目をそらすとその場を離れようとした。
が、次の瞬間東一郎はワックスの男に、蹴りを打ち込んだ。
「お前等逃げんなよ。待ってたんだぜー」
東一郎はそう言うとニヤリと笑った。
「な、何だよ。もう良いだろ!俺たちはもうお前とは関わらない!」
ワックスの男はそう訴えた。
「良いわけねーだろ!これからだって言ったろーが!おい、まずそのベタベタ頭!まずピアスのガキと、赤頭のガキが俺になやったか言え」
東一郎は冷たく言うといきなりワックスの男をビンタした。
「ヒッ!」
ワックスの男は、泣きそうな顔で顔を抑えた。
「おい!!テメーもだ!」
振り向きざまに大男の足を払った。大男はそのまま地面に尻餅をついた。
ワックスの男と大男は、彼らの過去の行いを少しずつ話した。
「で、お前らは俺に何した?まずベタベタ頭!お前が言え」
東一郎はワックスの男を小突きながら言った。
ワックスの男は、自分は何もやっていないと言いはった。
大男は、自分は元々乗り気じゃなかったと言った。
「分かった。赤頭とピアスのガキに同じ質問をして、違ったらお前ら分かってんだろうな!俺はやるっつったら徹底的にやらないと気がすまねーからよ」
じろりと2人を睨みつけた。
「あ、それからこれから気が向いた時にお前らのことぶん殴るから、宜しくな」
そう言うと東一郎は二人を一発ずつ殴った。
二人は痛みに耐えながら、やりすぎだ!勘弁してくれと口々に言った。
「お前らみたいに他人を貶めてイジメて、だけど家や教師の前ではしっかり勉強もして将来に備えてますとかいうクズみてーな奴らが一番むかつくんだよ。だからお前らの高校生活まるごと台無しにしてやるよ!」
東一郎は怒りに満ちた顔で睨みつけた。
後日登校してきた赤髪の男とピアスの男は更に厳しい追い込みをしたのであった。
これ以降この4人組が、同級生に対し悪さをしたと聞いた東一郎は都度殴りつけに行った。
また特に何もなくとも、過去の精算と称していきなりビンタしたりした結果、4人共すっかり大人しくなった。
後日大人しくなった4人に対し、東一郎は突然
「飽きた。もうお前らとは絡まない!」
と一方的に宣言し、勝手に決別したのだった。
これにより東一郎とその周りには、平和が訪れたのである。
4人組は結局この後卒業するまであまり他人と関わることはなく、目立った噂もなく学園生活を大人しく過ごすことになった。
ガキが大人を舐めるな!大人の制裁と東一郎はいった。
「ところでさ、アイツラなんで俺をそんなに目の敵にしたんだ?なんか知ってる?」
ある日、東一郎はヤマトに聞いた。
「え?いやー、何っていうかたまたまなんか目についたんじゃない?で、徐々にエスカレートしていった感じ。ここ数ヶ月で、、」
ヤマトは思い出しながら言った。
「ふーん、じゃあ、昔の俺は特にやられても嫌だとも何も言わんかったて事か」
東一郎はふーっと息をついた。
「まぁ、そうだなぁ。強いていうと、隣のクラスの三上エマって子がお前のことカッコいいって言ったのも原因の一つかもな。要は嫉妬だな。ダセーな」
ヤマトはそういった。
「ふーん、その三上って子は、そんなに可愛い子なのか?嫉妬されるくらい?」
東一郎は自分の鞄をゴソゴソとしながらヤマトに聞いた。
「そりゃそうだろ。学年トップクラスの可愛さで、アイドルだぜ。なんか雑誌のモデルもやってるとか!?例の4人組もその子に気があったんじゃない?まぁ、我々陰キャには関係ない世界だわな、、ははは」
そう言ってヤマトは力なく笑った。
「ふーん、、、。」
東一郎は生返事を返した。
「そういや、お前大分イメージ変わったし、顔貌は変わってないわけだから、脈あんじゃね?俺たち底辺グループと学年トップとの下剋上だな!」
ヤマトは勝手な想像で盛り上がってきた。
「ああ、興味ねーよ。そもそもその子も気まずいんじゃね?自分の一言で他人が結果的にいじめられた訳だからさ・・。」
東一郎はヤマトに振り返っていった。
「そういや、2,3日前にエマちゃんこの辺りをウロウロしてたけど、ひょっとしたらお前になんか言いたかったんじゃね?」
ヤマトはそう言うと帰ろうぜと言った。
東一郎は特に気にせず何も答えなかった。
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