第4話 「転生」水島瞬という器の少年
「ちょっと教えてほしいんだけど…」
東一郎はヤマトと一緒に席に戻って聞いた。
「お前、ちょっとマジで変だぞ?大丈夫か?」
ヤマトは真面目に話を聞いてくれた。
「あのさ、ちょっと聞きたいんだけど…俺って…誰?」
東一郎は自分でも何を言っているのか分からないままに聞いた。
「いや、そっくりそのまま、聞き返したいわ。お前誰?いつもの水島じゃないぞ」
「ああ、そうか…ちょっと悪いんだけど俺のこと知っていることを全部教えてくれ!ちょっと記憶がおかしいんだ」
ヤマトは最初ぽかんとしていたが、諦めたのかいくつかの事を教えてくれた。
・私立明和高校1年生であること
・このクラスは1年D組であること
・自分の名前はどうやら「水島瞬」
・部活動は特にしていないこと
・アルバイトもしていないこと
・仲の良い友達はヤマトと後もうひとりいること
・現在は東一郎が過ごした筈の年から6年前であること
・現在9月であること
最も驚いたのは、なんと今は6年前!事故の年から6年も前という信じ難い事実を告げられた。
つまりあの事故のタイミングから目が醒めたら、6年前の水島瞬という人物に転生してると言う事のようだ。
ヤマトの言うことを信じるのならばそういう事になる。
そしてこの信じがたい状況が夢であると東一郎は結論づけた。だが、この夢はなかなか醒めない。
というか、夢にしては気味が悪いくらいにリアルすぎる。そしてとても長い。
「夢ってこんなに長いんだっけか?終わんねーかな?あ、いや、何なら俺死んだのかな?これって死後の世界なのかな?ええ?死後の世界って三途の川的なもの見なかったし…てか、これで終わり??マジ??じゃあ、二回目の人生??ええ!?生まれ変わりってこと??」
東一郎は夕暮れに染まりつつある太陽を見ながらブツブツと言った。
「おい、そろそろ帰ろうぜ。またアイツラが来たら面倒だしさ」
ヤマトは諦め顔で東一郎に言った。
「ああ、さっきからちょいちょい言ってるけど、アイツラって何??」
東一郎は顔をヤマトに向けた。
「いや、お前のこと執拗にいじってくるアイツラだよ。お前結構悩んでたじゃん。」
ヤマトは正面から東一郎に言った。
「え?そうなの?なにそれ?執拗にイジるってなに??いじめってこと?」
東一郎は驚きつつ聞いた。
「ああ、まぁ、いじめっつーか、イジるっつーか、でもいじめっつーか。少なくともお前は嫌がってたろ」
ヤマトは言葉を選んでそういった。
「ふーん、そうなんだ。俺がイジメに遭ってたのかぁ」
東一郎は変な気分になった。
東一郎はイジメというものを見たことがなかった。そもそも本人がイジメというものを断固としてしなかったし、それっぽいものを見ると力で黙らせていた。
だがイジメを無くそうという崇高な理由ではなく、単に目障りだったからだ。当時の東一郎に意見を言うものは誰も居なく、つまり少なくとも東一郎の目の前でイジメというものが存在はしていなかった。
ある意味実力行使した際の相手は東一郎にいじめられたと言えなくもないが。
「まぁ、いいや。じゃあ帰ろうぜ!」
ヤマトはぽんと立ち上がると、東一郎の方を叩いた。
「ああ…」
東一郎は生返事を返した。
怪訝に思うヤマトは不思議そうに東一郎を見た。
東一郎は一緒に立ち上がるとヤマトに向かっていった。
「あのさ…お前、俺んち知らない??」
ヤマトは東一郎を家まで連れて行ってくれた。
学校から東一郎の家までは徒歩で20分程度であった。
なぜ自転車を使わないのだろうか?と東一郎は不思議に思った。
帰り際に他愛ない話をヤマトとした。
ヤマトはやたらに喋り続けるやつで、友人である水島瞬の異変に戸惑いながらもあまり多くを聞かずに話をしていた。
家の前に来ると帰ろうとするヤマトを、なんとか押し留め家にあげようとした。
これは別に礼をしたいという訳ではなく、そもそも自分の部屋も家族も何も知らないのだから、ヤマトに居てもらったほうが都合が良かったからだ。
東一郎は自分の持ち物を確認したところ家の鍵らしきものをカバンの中に発見した。とりあえずこれを使って入ればよいのか?
迷っていると後ろから声をかけられた。
「お兄ちゃん!」
後ろを見ると制服を着た少女が笑顔で声をかけてきた。
「お!リナちゃんこんにちは!」
ヤマトは笑顔で少女に挨拶をした。
「あ!ヤマトさん!いらっしゃい!」
リナという少女は笑顔でヤマトに答えた。
「どうしたの?お家入らないの?」
少女は二人に対してそう言うと、スタスタと家の扉を開けた。どうやら鍵はかかっていなかったようだ。
「早く!」
少女はそう言うと二人を笑顔で手招きした。さっき見た水島瞬の顔と近いと言えば近いが、より女の子らしい可愛らしい顔つきだった。
どうやら水島瞬の妹のリナという少女のようだ。ヤマトの話によると父・母・妹との4人暮らしとのこと。
東一郎とヤマトは言われるがままに家に入った。
「お邪魔します」
東一郎とヤマトは同時にそう呟いた。
「はぁ!?お兄ちゃん何いってんの?」
リナは東一郎の言葉を聞いてケタケタと笑いながらスタスタと家に入っていった。
「あら、おかえりなさい」
スラッとした女性が姿を表した。品がある女性だ。
どうやら彼女が水島瞬の母親なのだろう。
「あ…ああ…た…だ…いま」
ボソボソと東一郎は呟いた。そもそも東一郎にとって完全な赤の他人だ。なんと接して良いのか分からない。
最初はリビングルームに居たのだが、部屋に行くということにした。
正直部屋もどこにあるかわからなかったので、部屋に行くと言いつつもドキドキしながら言ったが、ヤマトに案内してもらって部屋に行った。
水島瞬の部屋は2階にあり部屋はきれいに片付いていた。
整理整頓された部屋を見て東一郎は自分のだらしない部屋との違いに呆然とした。
どうやら水島瞬という少年はとてもきちんとした性格であったのだろう。
彼の過去を知るために、色々と調べたいところだがまずはヤマトに情報を色々と聞いた。学校でのこと。他愛のない話から話題の話など事細かに聞いた。
最終的にヤマトはもう限界だ!と言って帰っていった。
水島瞬の母親はヤマトに夕食を勧めたが、彼はそれを固辞して帰っていった。
母親と妹と食事をしている時に、父親と思われる人物が帰宅した。
穏やかそうな人たちで、特に妹を中心に明るい家庭のようだ。
その中で、この水島瞬という少年はどういう立ち位置だったのか?
一緒になって楽しく食事していたのか?それとも今の自分のように何も言わずに黙々と食事をしたのだろうか?
東一郎は食事を済ませて部屋に戻ると、水島瞬の部屋を調べた。
整理整頓された荷物と、勉強熱心であったろうノートを発見した。几帳面なきれいな文字を書く少年だったようだ。
彼は過去のアルバムなど様々なものを見た。その中に一つ封筒が入っていた。
そこにはこう書かれていた。
遺書
「コイツ…マジか…」
東一郎はその封筒のタイトルに目を落とすとそう呟いた。
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