第3話 「転生」見知らぬ学校、見知らぬ生徒

「おい!おい!水島!」

後ろの男が、しきりに呼んでいる。


ハッと顔をあげると慌ててあたりを見渡した。


「え?な…何だこれ??」

東一郎は夢から醒めたような気分だ。

確か工事現場の地崩れに巻き込まれて…覚えているのはそこまで…。


そしていま目の前にあるのは、見たことのない風景、いや既視感はある。

学校…しかも周りの生徒を見るにどうやら高校のクラスだろう。

だが誰も全く知らない。

全く知らない景色、学校の教室であること以外、見たこともない景色、記憶の片隅にもないクラスメート、窓側の真ん中らへんの席に座っているが、後ろの男が自分を呼んでいる。


「おい!!水島!ボケっとしてるな!」

笑顔でそう話しかけてきた。


東一郎は呆然として声の主を見た。

どうやら時間は夕方で帰りのホームルームといったところだろうか?

何となく気だるい空気で、あるものは部活の準備をしていたり、あるものは帰りを待ちわびてソワソワとしている。


東一郎はなんと言えばわからなままに、声をかけてきたクラスメートの男に尋ねた。


「な、なあ…。ここどこ??」

東一郎は困惑しながら聞いた。


「は!?おま、何いってんだよ!」

そう言うと男は笑った。


「いや…ちょっとマジで、悪いんだけどちょっと記憶が曖昧で…。ちなみに君、名前は?」

東一郎は男に尋ねた。


「ん?どうした?大丈夫か?まさかアイツラに殴られたりしたのか?」

男は少し心配そうに東一郎に話しかけた。


「アイツラ??って誰?あと名前は?」

東一郎はニコリともせずに聞いた。


「おいおい、まじやめろってビビるわ。俺だよ俺。ヤマト!望月大和だよ!」

ヤマトと名乗った少年は、東一郎に怪訝な顔をして言った。


「ああ、ところで大和君さ…」

「大和…くん!!?」

ヤマトは驚いた表情を見せた。

「え?ああ、ヤマト…さん??ヤマトっち??やまちゃん??」

東一郎は名前として呼ぶにふさわしい候補を上げた。


「いや、お前いつも俺のことヤマトって呼んでるんだけど…」

そう言って更に深刻そうな顔をして東一郎の顔を覗き込んだ。


「いや、悪い悪い。ちょっと混乱しててさ…」

そう言って東一郎は無理やり笑った。

やべえ…全くわからねぇ…。東一郎は心のなかで呟いた。


ヤマトという少年は小柄で人懐っこい顔をしている。

態度から見るとどうやらこの世界での東一郎とは仲が良い関係のようだ。

友達ということなのだろうか?


東一郎はぼんやりとそんな事を考えていると教師と思われる30歳くらいの男性が入ってきた。

「起立・気をつけ・礼」

当番なのかクラス委員なのか女子生徒が号令をかける。


教師は簡単な連絡事項を話すとさっさと号令を待ってさっさと帰っていった。

クラスは放課後ということになる。


東一郎は未だに混乱している。

「これはどう考えても高校だよな…てか、こいつら高校生の中におっさんが混じってんのに何で何も思わないんだ?」

不思議に思う。


「そもそもこのヤマトって奴も、何で俺に気安く話しかけるんだろう?友達か何かと勘違いしてんのか?」

と思って東一郎は思った。


まさか…俺が若返ってるのか!?

慌てて鏡を探したが、どこにもそれらしきものはない。


「おい、ヤマト!トイレってどこ?」

東一郎は後ろの席のヤマトに聞いた。


「はぁ?トイレって…お前そんなの教室出てすぐ左じゃん。まじ大丈夫か?」

ヤマトは呆れながらそういった。


東一郎は慌てて教室を飛び出すとトイレに駆け込んだ。

「あ、おい!!どうした!」

ヤマトが後ろから声をかけた。

東一郎は駆け込んだトイレの鏡を見た。自分の姿を見た彼は驚きのあまり声を失った。


そこに写っていたのは、見ず知らずの少年の姿だった。

「だ、誰だよ…これ」

東一郎は自分が高校生の姿に戻っているのではないかと思ったがそうでもなさそうだ。全く見たこともない少年に成り代わっていたのだ。


中性的な顔立ちでひょろっとした背の高さ、黒い髪はボブカットとまで言わないが、長く伸びていた。切れ長の目、筋の通った鼻、薄い唇。

パッと見ると美少年とも言えるが、かつて男らしくイケメンと呼ばれた東一郎とは似ても似つかない姿だった。


遅れて着いてきたヤマトが心配そうに東一郎を見た。


「おい、これは一体誰だ?」

東一郎はヤマトに向かって思わず笑いながら話しかけた。

ヤマトはキョトンとした顔をしてすぐに…。


「いや…いつもどおりのお前…水島瞬じゃん…」

ヤマトは眉間にシワを寄せながら言った。


「だ…誰やねん!?誰だそれ!?」

東一郎は関西芸人が言いそうなセリフを言った。

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