第68話:凸入
◇◇◇
ここは……あぁ、そっか。朝になったのかな。
それにしても酷い夢だったなぁ。また怖いめにあう夢をみるだなんて。
それに変態さんの事も夢にみるとか、もう最低よ!
しかも下着まで見られるとか、なんて夢なのよもぅ……。
「でも……かっこよかったなぁ。って、あんな変態のどこがカッコイイのよ。夢補正恐るべしね」
それにしても暗いな。まだ夜明け前? えっと、何時かな。
「七時か……もう明るくなってもいいのに……って、待ってPM? 夜の七時って何よ?! うそでしょ、いつまで寝てるのよ私! 貴重なおやすみがあああ!!」
何が起こったのか理解できず、思わず叫ぶ。すると部屋のドアがノックされ、悪魔執事の声がした。
「お目覚めですかお嬢様。入ってもよろしいでしょうか?」
衣服を整え、照明をつけてから「どうぞ」と一言。
見事な作法で音もなく入室してきた善次は、銀のトレイの上にホットココアを持ってきた。
相変わらず出来る男だと思いながら、百均で買ったブタのマグカップを両手で持つ。
じんわりと温かいそれは、両手から心を落ち着かせてくれた事で、本題へとうつる。
「それで善次、私に一体何があったのよ。こんな時間まで寝ているだなんておかしいわ」
「それはお嬢様が一番よくご存知かと」
先程夢だと思っていた事実が、あれはそうではなかったんだと思い出す。
とたんに喉がかわきだし、ベッドに座りながらココアを飲む。
美琴さんから向けられた、いいようない恐怖。
それを思い出すとまた背骨が震えるが、両手に力を込めてブタのマグカップを持つと落ち着いてきた。
「そうね……。うん、分かるよ」
「今は御館様の指示待ちですが、近いうちに何らかの方法で、お嬢様を祕巫女として完全覚醒させると思われます」
「完全覚醒……か」
その言葉をかみしめ、憎らしいほど適温なホットココアを一気飲みする。
ブタのマグカップを善次の持つ、銀のトレイへと押し付けながら、立ち上がりクローゼットへと歩く。
ヒノキで出来た扉へ右手を当てながら、自分でもごまかしきれない体の変化を感じる。
そう、これが祕巫女と呼ばれる力なのだろうと、心臓の上をキュっと抑えつつ大きく息を吸う。
それに呼応するかのように、不思議な力としか表現できない謎の感覚。
だからだろうか。ここから自分でも驚く行動に出てしまう。
クローゼットの扉を勢いよく開け放ち、ずらりと並ぶ洋服を見る。
並ぶお気に入りの服。それに指を這わせながら、このままではいけないと思う。
このまま流れに乗ってしまい、自分の意思の遥か
そう思っただけでイラつきと不安が襲ってきた。
お気に入りの服を握りしめ、そのままソファーへと放り投げながら、背後に居る善次へと強く言い放つ。
「待つのはキライよ! 今から変態さんに会いにいってくる!!」
「お、お待ちくださいお嬢様。今夜はこのままお休みになって」
「決めたの、自分の事は自分で解決するってね。それにもう待つだけの恐怖はこりごりだからね」
善次の前だけど、気にせずにパジャマを脱ぎ捨て服を着る。
大胆な事をしていると思うけれど、それより今は彼――古廻戦極に会いたい。会って話をしたい。
そう思うほどに、体が勝手に動く。
背後から善次が「お待ち下さい明日香様!」と止めるが、もう足は止まらない。
ムダに長い廊下を駆け、すれちがうメイド達が私の行動に驚く。
そんな顔にクスリとしながら、やがて玄関をくぐり抜けて「開門して!」と叫ぶ。
すると入り口にいる守衛が驚きながらも即座に鍵を解除し、大門の小さな入り口の〝くぐり戸〟を思い切り開ける。
そこへと滑り込むように走りぬけ、正面にある空き家へと叫ぶ。
「お願い! 出てきて異怪骨董やさん!!」
そう叫んだ瞬間、白く古ぼけた家が徐々に歪み始め、蜃気楼のように奥から現れた――あの、異怪骨董やさんが。
「やった! 本当にでちゃったよ!」
そう言いながら店へと走る。
古いが技工が冴えわたる引き戸を両手で開き、内部へと足を踏み入れながら叫ぶ。
「変態さん居るんでしょ!? 昼の事を説明してよね!!」
どよつく店内。見渡すかぎり骨董品が並んでいるが、どうやらそれらが驚いているのが分かった。
そんな事もお構いなしに一歩足を踏み入れた瞬間、天井より等身大の黒髪の日本人形が降ってきた。
しかもその手には出刃包丁がにぎられており、それが私の頭上から振り落とされた。
それに目を背けず睨みつけると、そこへ銀色の光があいだへと入ってきた。
見れば日本刀であり、その刃文も天女が踊る特徴的なもの。
忘れもしない妖刀・悲恋美琴のものだと確信して少しだけ口角が上がる。
なぜならそれの持ち主をよく知っているし、私が今一番会いたいと思っている男――古廻戦極の物だからだ。
「――まて夢見姫。コイツは枢木明日香。祕巫女となる娘だよ」
「コレハご無礼を。承知いたしました、以後は入店を許可シマス」
「頼むよ。で……、残念娘。この登場はどういうこった?」
落ち着いて話しているが、その声色からは怒りがにじみ出ているのが伝わる。
だけどそれに負けるわけにはいかない。是が非でも私の思いを伝えると決めたのだから。
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