第67話:試練?
すごい形相でこちらへと向かってくる幽霊。
生気がないが、整った美人に思わず見惚れていると、いつの間にか目の前に来ていた。
「あれ? 今ここに居た気がしたんだよ?」
「んぁ~。あるじぃの気配が無いんだワン。匂いも消えているし、術を使って逃げ出しただワンよ」
「そういう術だけうまくなるんだから! もぅなんだよ。ん、あなたは……明日香ちゃん!?」
「え?! ど、どうして私の名前を知っているの?」
「だって昨日あったばかりなんだよ」
お互いに驚きながら顔を見て、どういう事かと頭をひねる。
すると足元の子狐ちゃんが、私の足をポムポムと叩き「あるじぃの香りがするんだワン」と言った。
「本当なの? わん太郎」
「ワレはエライからして、間違えることは無いんだワン。この娘から、あるじぃの香りがプンプンするだワンよ」
ジト目でこちらを睨む美人な幽霊。
思わず「ひぃ」と息を呑みながら、善次へと助けを求める。
「善次助けてよぅ」
「面白いからもうしばらく見ていたかったのですが……。お久しぶりですね美琴さん」
「あれ、善次も居たんだよ? とすると、やっぱり戦極様はここに?」
善次は「ええそうです」と言いながら、右手に持っていた紙を渡す。
「御館様よりこちらをお預かりしております」
「ん? これは……目の前のお嬢様に、幽霊とはなんぞやと教えてやってくれ…… それと、さっきの請求書の支払いは、今回の稼ぎからヨロシク……って、戦極さまあああああああ!!」
不思議だ。これだけの美人は怒っていても可愛いらしい。
私もそれなりに美形だと言われるけれど、ここまでではないと思う。
まぁ、もっとも美形だと褒めてくれるのは、私の胸を揉み上げるのが趣味という親友の
アレ? 私の周りは変態しかいないッ!?
「はぁ……どうなっちゃうのよ私」
そうため息をつき美琴と呼ばれた幽霊を見る。
すると彼女も怒るのをやめて、私へと話しかけた。
「あわわ。ごめんなんだよ、驚かせちゃって。私は美琴って言うんだよ。あらためてよろしくね、明日香ちゃん」
「あ、いえ。私こそごめんなさい。その……幽霊だとか言っちゃって」
「んぁ~間違っていないんだワンよ。この凶暴なのは女幽霊だワンからして、妖刀・悲恋美琴の呪われた住人なんだワン」
幽霊? 呪い? な、何を言っているのかな子狐ちゃん?
思わずつま先から頭まで、二度見直してみる。
「ハハハ、またまたご冗談を。だって手紙を受け取ったし、普通に話しているし、足もあるし……浮いているし!?」
よく見れば、地面から三十センチほど浮き上がっている美琴さん。
そんな彼女の顔を見れば、ハイライトの消えた瞳で私を見つめる。
「そう……私ね……死んでいるんだよ……だから明日香ちゃん。あなたもおいで……」
昼間だと言うのに周囲の空気が冷たくよどむ。
思わず「ひぅッ」と息を吸い込み、助けを求めて足元の子狐ちゃんを見る。
すると子狐ちゃんもハイライトの消えた瞳で、「死者の都は寒いんだワン」とつぶやく。
さらにつまる息。背後に居る善次へと助けを求め、くるりと振り返る。
「お嬢様……あの世も一度体験してみるのもよいでしょうか」
冷酷な表情をさらに氷結させて、ハイライトの消えた瞳で私へと迫る。
思わず一歩後ずさるが、そこへ両手で顔を撫でられた。
その氷以上に生冷たい感触に、背骨が抜かれたと思える衝撃が走ったと同時に、左耳のすぐ後ろから声が……。
「大丈夫……怖いのは一瞬だから……さぁ、おいで……」
「ひ、ひ、ひゃああああああ!!」
ひたりと美琴さんの頬が背後から左頬へとくっつき、その質感の恐怖で意識が飛ぶ。
そのまま気が遠くなり背後へと倒れ、またも冷たいがモフモフの何かが頭にあたったのを感じて意識を失……。
「ぷも~っぷ。金持ち娘に潰されたワンよ~たすけて~」
「あらら。やりすぎちゃったんだよ」
「いえ、おかげで大人しく帰ってくれますので助かりましたよ」
「それは良かったけれど、この状態では祕巫女として心配なんだよ」
気絶していても可愛らしい顔なのが、生粋の美人というものなんだよ。
そう思いながら明日香ちゃんを見ると同時に、戦極様から渡された手紙を見る。
実に腹ただしい内容だったけれど、最後の一文がとても気になった。
――美琴、頼みがある。一般人が恐怖で錯乱するほどの呪いを漏らして、明日香へ接してくれ。
その結果を後で聞かせてくれ。それで今後の方針を決める――。
「まずは私で、
「そうですね、それがよいでしょう。お手数ですが美琴さん、よろしくお願いします。それではまた」
そう善次は言うと、いつの間にか片付けたテーブルセットを左に抱えたまま、明日香を背負い歩く。
鴨川のせせらぎが彼女を癒やしてくれると信じつつ、足元に転がるわん太郎を拾い上げホコリを払う。
「ひどめにあったワン」
「ごめんね、わん太郎。それでどう思ったんだよ?」
「ワレとしては及第点をくれてやるんだワン」
「やっぱり? 気絶はしちゃったけれど、あの程度ですむんだから大したものなんだよ」
「理想は青ざめた顔くらいが丁度いいんだワンけど、まぁ仕方ないんだワン」
「うん。だってあの呪いの威力なら、あの程度の気絶じゃすまないんだよ」
そう言いながら、わん太郎を抱えて水の上を歩く。
足元に鯉が泳ぎ小魚を捕食する。それを見つめながら強く思う。
明日香ちゃんを、奴らに喰われてたまるかと。
「責任、重大だね」
「面倒な話だワンねぇ。それより、あるじぃを探すんだワン」
「あ! そうだった。もぅ、嫌な役押し付けた事もきっちりお仕置きするんだよ!」
そう言いながら、わん太郎を抱きしめ木陰へと消える。
丁度そこで休んでいたお爺さんがいたが、私達には全く気が付かない。
普通はそうなのだが、明日香ちゃんはちゃんと視えた。
移動しながら、戦極様が術で書いた紙を取り出し見つめる。
「何の準備もなくいきなり私にあんな事をさせるなんて、よっぽどの事が……」
そう言いながらも手紙の意図を知り、これからの事が不安になった。
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