第10話:禍神

 瞬間、電気で弾かれたかと思う程の衝撃と共に、右手が鳥居から拒絶された。

 ただ不思議だったのが、それと同時に鳥居は消え去った事だ。

 でもあの時、間違いなく鳥居の額束に〝解錠かいじょう〟と書いてあったのを覚えている。


「……た、確かに三週間くらい前にコレと同じ物を見たよ。あと額束に解錠って書いてあった」


 そう言うと、彼……いえ、変態さんは「だろう」と続ける。


「コイツはタダの鳥居じゃない。この世とあの世の中間の〝隔離世かくりよ〟ってやつに存在するのさ」


 聞き慣れない言葉、「カクリヨって?」と聞くが、変態さんは呆れた口調で続ける。


「本来は幽世かくりよとかの言い方もあるが、ここの場合は文字通り隔離するのさ。だから隔離する世界――隔離世って訳だ」


 なるほどと思い一つ頷く。

 それを見た変態さんも頷くと、話を続ける。


「本来ここは普通の人間には見えねぇし、入ることも難しい。稀に神隠しって現象で、ここに引き込まれるってやつだ」

「だからあの娘が……」

「それだな。そしてもう、今の残念ちゃんは見えちまうし入れちまう」

「それ! どうして私が見えたり、あとは何だっけ……私のバケモノが言っていたやつ。えっと」

祕巫女ひみこか?」

「そう、それ! それは一体何なのかな?」


 そうたずねると、変態さんは数秒考えた後に驚くことを言う。


「それは善次に聞け。やつが残念ちゃんに伝え無いのなら、まだ早いって事だ」

「え!? 何で善次の事を知っているのよ?」

「まぁ色々と大人には事情があるんだわ」

「……変態さんは、どう見ても私と同い年くらいだけど?」


 そう言うと、変態さんはバツが悪そうに「まぁ今話しても同じか。知らないとまた巻き込まれるかもしれねぇしな」と話す。

 内容は驚くべきものであり、信じられないものだった。


 善次は枢木家うちの者じゃなく、変態さんの家から派遣されているそうだ。

 その事について両親は知らないらしく、どうやら祖母の差し金だと知り驚いた。

 さらに驚愕は続く。どうやら祕巫女と言う存在が私なんだそうだ。


「私が祕巫女? それって一体……」

「まぁ驚くのも無理はない。祕巫女ってのは、霊的なモノを感じやすい体質って思えば良い――」


 祕巫女について話しは続く。

 今はまだ半覚醒と言って良い状態であり、本来は手順をおって覚醒するはずであったみたい。

 なぜ半覚醒かと言うと、私の力が予想外に強すぎて、あの鳥居を見つけた事が一つ。


 もう一つは一般人が知らない特殊な満月である、〝星亡月せいぼうづき〟の日と重なった事が大きいらしい。

 さらに運が悪いことに、覚醒のきっかけとなったあの鳥居に触れた事で、今の状態になったと言う事だ。

 

 そんな霊的に敏感な体を守るため、祖母が私のために雇いれたのが善次という、万能悪魔執事だという。

 確かに有能すぎるから、元・殺し屋かと思ったほどだったが、話を聞いて納得した。まぁ、結構抜けているけれど。


「と言う訳で、残念ちゃんが覚醒するまでの守り役が善次ってわけ」

「おばあちゃんと善次が……」


 あいも変わらず妖怪じみた謎の祖母に驚きつつ、変態さんの話は続く。


「それで鳥居の向こう、隔離世に住んでいるのが、こいつら付喪神ってわけだ」

「付喪神? それって古い物に宿るって神様の事だよね?」

「そう、だからコイツ。亀電は黒電話にとり憑いているのさ」


 いつの間にか、足元まで来ていた亀電と呼ばれる付喪神は、「化物みたいに言うのはやめてくれ」と言う。


「まぁ似たようなものだろう?」

「失敬な、これでも神の一柱ぞ!」

「神様と話せるなんて凄い……」


 亀電は二本立ちになり「そうじゃ、凄いじゃろう!」と言いフンスと息を吐くと、勢い余って後ろへと転がってしまう。

 それを子狐ちゃんが「仕方ないワンねぇ」と言って起こしてやってるのにほっこりする。


「まぁそんな所だ。確かに亀電みたく神格が高いのから低いのまで居る。そして神格がマイナスへ振り切れると、さっき討滅した堕ちた付喪神になる」

「堕ちた付喪神……」

「そうだ、堕ちた付喪神……それを禍神まじんと呼ぶ。そいつらは――」


 ――面倒そうに話していた変態さんの顔つきが突如変わる。

 それは禍津日神の眷属、〝禍神〟という存在を語り始めたからだ。

 聞けば人に害をなす存在であり、私を襲い体を乗っ取り殺そうとしたのも禍神だという。


 かなり獰猛な性格が多いらしく、私の偽物だった禍神は、亀電様を取り込み力を増そうとしたみたい。

 だけど、この結界を張った変態さんの一族である〝古廻家こまわりけ〟の力に驚く。

 そういう事態になった場合に備え、禍神が土地神様を乗っ取ろうとした時に、封滅用の結界が作動するらしい。


 だけど、「なぜ私が襲われたの?」そう疑問を口にすると、変態さんは「旨そうだからだろ」と、そっけなく返事をした。

 釈然としなかったが、彼はそれ以上話す気もないようで、話しは確信へと迫る。


「今後、残念ちゃんは禍神と遭遇する確率が高い。なにせ〝視える・触れられる・会話出来る〟と三点セットだからな。セットメニューもびっくりな品揃えだ」

「な、何よその嬉しくないセットメニューは。でも……」


 そう言いながら眼前にある禍々しい鳥居を見上げ、それが本当なのだと理解してしまう。


〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 もしよろしければ、フォローと評価を★★★にしていただけたら幸いです。

 更新の励みになりますので、なにとぞ~(⁠´⁠;⁠人⁠;⁠`⁠)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る