第27話 リイネへの報告
街に存在するギルドには様々な種類がある。
その意味合いとしては単に『組合』ということになるが、同じ目的の仲間を集めたもの、集団で仕事をするために自然発生した組織であった。
そのためギルドごとに特色や風習はバラバラである。
受け持つ職務の内容は様々だが、魔獣討伐を行うギルドは重要だ。
人々の生活には欠かせない存在で、それだけを専門として他を断るギルドもある。
魔獣が人々を襲うとなると、他の町に移動することすらも安心できないためだ。
交友が結べなくなる。
魔獣討伐はもちろんのこと、護衛しての移動や、近づかないような対策を施すことなども、それだけでじゅうぶんに需要が高い。
客間の扉が閉じると、綺麗な姿勢で立つ女性がいた。
「ご無事で何よりですわ、ミキ……!」
金髪が揺れ、女剣士を認めると安心をそのまま表情に出した。
微笑むリイネは、王都で生まれてからずっと暮らしていて、ミキとは
柄が入っていないが、質の良い服に身を包んでいる。
貴族的階級なことは誰の目にも明らかだった。
「まあ色々あったけれどね……予定外の乱入者とか」
でも私は大丈夫よ、と笑んだ。
どんな時も無事なのだから呆れる……と
話に、本題に移りましょう、とミキはリイネの向かいに座った。
部屋には三人目の人間がいた。
細身の、仕立ての良い服の男がリイネの斜め後方に控えていた―――レイネの世話役、執事である。
彼は客人に対し、茶を
ただ、ミキがあまり飲食に頓着しない人格であるというか、気質であることは、彼も知っていた。
親交時期、付き合いが長い者のみで集まった室内である。
「お怪我もないようで何よりです」
執事の男は素直に驚いていた。
魔獣討伐のギルドに属すると聞いたときは、やはり驚かされたのだ。
だがミキの身体能力や気質を見てきたため、とやかく言うのはやめようと自分を諫めた。
やはり子は親に似る者なのだな、との感想を持った。
まあそれだけで片付くほど単純なものでもないのだが。
お嬢様然としたリイネが心配そうにする。
「ミキ……あなたのことだから、今ごろ実力行使か何かをしているのだと思ったのよ?」
戦闘の気配があるというか、戦闘に加減がない性質。
元より活発なのだ。
リイネは幼い日から広い庭園や屋敷を駆けまわった思い出を基準に、ミキという女を考えている。
「もう―――イヤねぇリイネったら。 相手が抜かない限りは私も
持っていた武器を軽く持ち上げたミキの笑顔には曇りがない。
それで安心し、頬を緩めそうになった金髪令嬢であるが。
あれ……?でも今の……
文章の違和感を指摘する間もなく、ミキは本題に入った。
「あのギルドのことだけれど……私はもう少しマシだと思ったわ。けれど状況は悪い」
リイネは瞳を細める。
ミキの口から、伝説の芳香の話を聞く。
こんな形でとなると―――残念だ。
長い睫毛の内に、悲しみが宿った。
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モエルはその日、講習をすべて終えてから椅子の背にくっつき、伸びをしていた。
軽くストレッチの様相である。
ううむ……知識が増える。
増えると考えることも増えたなあ……だがポジティブになろう。
なんだかんだで異世界に来てから、飢えることなく大きな町にたどり着けている。
これは百点満点と言ってもよいのではなかろうか。
左隣をちらと見る。
男と目が合った。
この街の住人と比べるとはっきりわかる、日本生まれの普通の男がいた。
顔つきでわかる。
言葉では表現しづらいけれど、目や鼻がくっきりしていない。
外人顔を間近で見ると、ちょっと落ち着かないよね……。
いや、例えば差別をしているとかそういうわけでもない。
なんなら日本人同士でもこうしたソワソワはあるモエルであった。
モエルよりは幼いかな、というような男は口を開きかけた、それだけの表情変化。
目の光でわかる、安堵したようだ。
けっきょく先に声を上げたのは、モエルの方だった。
「えと……あ、あんたもそのう…ここに来たってことはアレです?そういうことです?」
「いやあ、能力使えます? 自分もちょっと……いや、何が何だかって言う感じですけれどハハハハ……!」
両者とも、頭をゆるく掻きながら、にへらにへらと挨拶をする。
距離感が難しいながらも、頑張って友達作ろう。
作ったほうがいいよな……?うん。
それから日本人の知り合いと話した。
特筆するほどのことがなく、まあ実家のような安心感をこの世界で感じることが出来た。
男はシマジと名乗った。
生まれから育ちまで兵庫だと言った。
少しばかりおどおどしたような様子かもしれないが、全く普通の日本人だった。
ただすべての意見が自分と重なったわけではなかった。
「え?魔獣討伐しねえの!?」
「おお、まあそのお……なんか怖そうだし」
彼や、その知り合いであるらしい二人ほどは、よほどのことがない限りは危険地帯に行きたくないというのだ。
まあ平和主義というか……この辺は俺がおかしいかな。
ここに集まっている地の果ての人……皆、確かに尋常ならざる能力を持っているという。
自分の持つ火属性とどっちが強いだろうと、そういう話をモエルは期待した。
しかし全員がバトルジャンキーかと言えば全くそんなことはなく、こうしてみると日本人の圧倒的な治安の良さが発揮される。
まあ、いい人が多いのだった。
別に皮肉でも何でもなくいっている、そういうものなのだろう。
……けれど、なんだかなー。
俺は悩んだ。
「魔獣を討伐すると……ただ、街の人に感謝されるっぽいぜ、こっちじゃ害獣だからよ、これはやるしかないだろ」
講習でも魔獣に関しての情報は明らかになった。
この世界の人々……一般の民の中には、毎年確実に死傷者が出ているらしい。
それは良くないんじゃあないのか。
こっちの人と親しいとは言えないけれど。
「やりたければやればいい。ただ防具を付けても……ううんなんて説明しようかな、それでもさ、モエルくんよォ、熊と戦えとか、馬に追いつけとか、言われてみろよ―――迷うだろう。 やるか?やらないだろ普通は」
しかもそれが魔獣なのだ、さらに厄介な存在なのだ、とシマジは語り、その後ろの付き添いも同調する。
「…………」
彼らは徹底していた。
通常の生活を目指すのならば、恐ろしい目には会いたくない。
しばらくは王都での生活を満喫するという。
まあそれはそれで、確かに必要か。
このあたりは趣味の違いといえるのだろう。
こういう人もいるのか。
いやバグっているのはモエルらしかった。
それとなく、聞いてみたが、女に平手打ちをされてから異世界に渡った者は自分以外いないようだった。
皆、激動の日々というわけでもないようだ。
一番パンチが強いのは俺というわけか。
少しばかり生き方を見直そうと思ってみるモエルであった。
魔獣と触れずにこの世界で生きることも、可能かもしれないしな……可能か?
「そうか……」
モエルは困惑した。
ミキの言い方だと、『地の果ての人』にあたるモエルは、火属性の能力を使えるから魔獣討伐で食い扶持を維持していくムーブが主流であるという。
細かい流れは覚えていないので違うかもしれないが、そんな話だったように、モエルは記憶していた。
自分も、自分の力を使わないことは、やはりもったいないと感じる。
……後でミナモと話してみるか。
その講習会を後にするモエル。
やはり知り合いに聞くのが一番だ。
ミナモ、ミキ……出会って三日目ということになるかな?
それが一番の知り合いとは、なかなか困りものである。
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