第26話 講習
その講習会では、地の果ての人を集めていた。
少なくない若者で囲む
モエルは困惑も交えつつ、この世界の人々と話した。
いや、一方的に話を聞かされた。
なんかの劇なのかっていうくらい―――なんだ、教室を再現していた。
後々わかったことだけれど、俺たちの故郷のことを知り、それに寄せてくれているらしい。
ははあ、そりゃあ再現になるはずだわ。
ともかく自分以外にも似た者がいることを知ったモエルだった。
男女ともに、背丈には違いはあれど、同じ境遇の者はいるので、集まっている。
モエルはどちらかと言えば、年上の部類に入った。
ここで聞かされた『勇者伝説』に関しては、子どもに読み聞かせるような、童話のような雰囲気だった。
そのためか、物語を聴いているだけで心がむず痒かったモエルである。
意味あるのかな……
ただ、だからと言って馬鹿には出来ないもので、実際のところ王都に住む子供らはこの話を聞かされて育つというほどのベストセラーであり、実際問題幼児向けのお話らしい。
この世界というか、国のスタンダード。
ならば国語の教科書に乗せる程度のことはするということか。
そもそもの識字率は低いらしいし、ややこしいものにしようものなら大人でも覚えることに苦労するという。
―――ただ覚えた方が良いというか、この世界に勇者がいたのは事実らしく、それを後世に残そうという想いから存在するということだった。
勇者がいた時、というのが気になるが。
過去形か。
それは、じゃあ今はどうなんだって言う話になる。
現在、俺がわざわざ転移してきてやった―――って言うのも変だが、無理矢理移動させられたこのタイミングはどうなるのだ。
ミナモの家で出会った、おチビ達も全員学校に通えるというわけではないらしい。
そのあたりは時代だろうか。
働くことを最優先、身構えてしまうようなところはあったものの、中世ではスタンダードだろう。
やはりこの世界で生きるならば、幼いうちから商売の手伝いをしていくことは、まあ最適でなくても、稼ぎは出来るに近いない。
もちろん現代日本と比べて、であるけれど。
モエルはしかし、羨ましいなとは思えた。
早いところ働いて稼ぐのは好きな
根がポジティブなところはある。
今までの生活だと、ちゃんと勉強しろという社会規範があった。
兎にも角にも、この世界の人となりというか、状況を学んだのだった。
ミナモに送り届けられたこの場所では、この世界のことを学ぶ。
それが目的らしい―――。
生活の仕方、この世界の店や流通する金貨などについて。
水道はよほどの中心部以外は存在しなくて、井戸が掘られているだとか。
魔導具と呼ばれるものが街中に溢れていること。
それは魔獣討伐の時に使うものだという知識を得ていたモエルだったが、それだけではなかった。
人々の生活にも組み込まれており、現代日本の設備を超えるんじゃあないかというような便利なものもあった。
役割や機能としては、エンジンやモーター、あとは火を起こす家電製品みたいな扱いも受けていて、国民の暮らしを回している。
つまり完全に中世レベルの生活を覚えないといけないというわけではないらしく、少し安心した。
便利な世の中?である。
昭和や明治以前の生活水準だった場合、それの強要をされるのは単なるハードモードだ。
現代日本人だったことが完全に裏目に出る。
何せスマホが使えないだけで、そこそこストレスを覚え始めているモエルであった。
モエルのような人間、境遇の人が頻繁にこの世界に訪れているということがうかがえた。
「俺だけじゃあなかったのか……!」
俺って特別、レアではないんだな。
人は一人ではないという感覚を覚えたモエルは、安堵を覚えるが、同時に期待外れ感も少しばかりあった。
自分が特別だと思いたい、というような感情はあったけれど……。
講師は声高に語り続ける。
「地の果ての人―――と呼ばれる立場になる、あなたたちを、この国は迎え入れています。特に王都ともなれば、勇者との親交も厚かったため顕著です」
王都や国民を救う光となりうる。
このグスロットの民も、温かく迎え入れてくれるはずだという話をされた。
どうやらこっちの社会は俺たちのことをしっかりと認知しているらしい。
もしかしたら、こういった大きな街のお偉いさんばかりかもしれないが。
わかってくれる人がこの世界にいるというのは、いくらか安心というか、気が楽である。
それが務めだ、という。
講師は司祭か何かみたいな服だった。
「しかしながら、王都民に仇なす生き方を選ぶものがいます―――」
全てがいい人間ではなかったらしい。
まあそれはそうだ……、こっちの世界に馴染まないとな。
俺の先輩にあたる勇者は、王都とのコネクションを築きあげてくれたらしい。
その所為かこの場所で、受け入れられている……というようなことをつらつらと説明された。
この講習会では、この……異世界。
モエルが生まれた場所ではないここを『第一の世界』として扱い、他の場所から来た地の果ての人に対し、ルール説明を行っているようだった。
そんなルーティンをほぼ毎日行っているのだろう。
この世界を一番目とするか……なんというか傲慢だな。
自己中心な。
いや……、でもこの世界の人からすりゃあわかりやすいことは確かだ。
例えば講師陣?教師陣は、全員が第一世界の人間だろう。
――――――――――――――――――——————————————————————————————————
「急げ! 急がんか!」
ロヴローら、伝説の芳香のギルドメンバーである。
「ええい……自分たちが小娘一匹捕えられんことをわかっとらんのか」
先ほどから怒鳴り続けている男が、さらに悪態をついた。
その苛立ちに対して、ロヴローは小さくつぶやく。
「よい」
「なに、なんだって…?」
「ギルドにたかだか半年だ、在籍した女だ。そもそも―――誰が信じようか馬鹿者が」
半ば席から立ちあがり、
しかし
おまえがそういうのならわかったよ、と同じく幹部の男は腕を組む。
ロヴローの瞳からは何も感じとれなかった……何を思っているのか、かなり前からわからに男だ。
ならばなぜ自ら馬を走らせた―――同じくギルド幹部、このギルドの金銭事情に首まで
使っている男は眉のあたりに皺を刻んで疑問を覚えた。
確かにロヴローのいうことも、当然の範疇ではある。
ならばなぜ自ら馬を走らせた―――同じくギルド幹部、このギルドの金銭事情に首まで
使っている男は眉のあたりに皺を刻んで疑問を覚えた。
過激な手法の金集めを、ミキ以上に見てきた―――長年知るものである。
別にあの裏切り者に追いつけなくともよい、とでも言いたげな態度である。
「まもなく到着する」
ギルドが所有する馬車の中でも最等級に位置するもので、ミナモの馬車とは速度が違った。
当然ながら魔獣の一種であり、脚の太さも何もかもが違う。
紫謳馬といわれるその品種。
仮にモエルが目にしていれば―――こんなの馬じゃない、恐竜の血でも引いてるんだろ、との感想が沸くほどの、強靭な体躯で駆けていく。
「それでもせいぜい同着だろう」
風の音とも悲鳴とも聞こえるような音が、ロヴローの真上の天井、そのさらに上から響いた。
彼は肩をかたむけて、窓部から視線だけ空に送る。
空で何か飛んでいる。
魔獣であることは確実だ。
この馬を超える速度で、別の方角へ飛んで行った。
「このところ、多いな」
ロヴローは目を細める。
魔獣———その中には、空を舞う存在も当然に存在している。
この馬を買えるようになったのは今まで金集めを怠ってこなかったからだ。
しかし、真の意味で魔獣を自分のものだと思った日はない。
思ったことはないし、思いたくもない。
常に制御からは程遠い存在だ。
「俺は魔獣が嫌いだ……地の果ての人もな」
あとは、当然―――勇者も。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます