第20話 岐路
翌朝、まだ眠け眼を擦るモエルは、ミナモ家の人々と別れを交わした。
子どもたちは元気で、終始モエルに対して笑顔を見せていた。
……まあ、仮にモエルと会わなくとも、元気な存在、それが子供というものなのかもしれない。
なお、姉であるミナモからは注意を受ける等していたから、
モエルは、ミキ、ミナモと馬車で移動を開始する。
次の町へ行くこととなった。
「このまま次の町の、城まで走るって言うんだな」
「そうだよ」
馬車を走らせるのは、昨日と変わらず、ミナモだ。割と安っぽい作りの馬車であるように見えた。
自分とミキが乗れば、かなり狭く感じる。
荷物は載せるが最小限のように見える。
日帰り旅くらい?
ミナモの家の周囲には、商家だからだろう―――それなりに馬が並んだ
当然、もっと大きな馬車も存在したが―――。
まあそれを俺に使えとは言わない……父親も、働いていることはわかっている。
野っぱらを駆ける馬。
おとなしく
「……」
何も言わずに馬車に乗っていたわけではあるが、話したいとは思った。
情報収集のためだ。
この世界完全シロウトである自分が、これから先の異世界生活で情報量不足で旅立つことに、危機感を募らせていた。
何も知らないのは、恐ろしいし先が思いやられる。
ミキ、ミナモといつまで行動を共にするかはわからない。
おそらく、二人ともにそれぞれ事情があるため……というのもあるが、モエル自身も、このパーティに乗り気ではない。
未だにモエルは愚かさを内包していた。
すなわち、昔の女のことを引き摺っているのである。
―――わからねえ、いつ
まあ最低限危険な連中ではない、いつぞやのように刃物を向ける男達とは違う……いや、女剣士の方は何時でも抜刀可能だ。
こいつが危ない。
モエルは、行くべき場所にたどり着き次第、別れを切り出すつもりだった。
ミナモ曰く「城に行って能力を見せるんだ」ということだ。
いずれは自力で何とかする。
せめて同性の、男の友人に出会い、働き口くらいは教えて欲しいものだ。
一応は、タダ飯食らいは良くないなあという感覚は有していた。
無暗に聞き出すと再びトラブルになるということは考えないモエルだった。
今は目の前の女からこの世界のことを引っ張り出すしかあるまい。
指し当ってモエルは、ミキに対し、その剣ってどこに売ってんの―――などと話を振ってみる。
ミキは目も合わせなかったが、ミナモは朗らかな口調で話しかけてきた。
「モエルくん、身体の調子はどうだい? そもそもケガはしていないのかい」
む?
どういうことだ。
防具はもう着ておいた方がいい、とミナモに言われる。
もちろん、追手がいる以上はその可能性を想定してあるモエルだった。
昨晩のうちに、防具の着付け―――装着、というより固定の仕方を教わった。
ことごとく日本の製品と布質が違うので、困惑はしたが、なんとかなった。
どんとこいだぜ。
昨日は刃物を持った暴漢どもを相手にしたモエルであったが、切り傷なしでこの場にいる。
二日連続で無事でいられるだろうか、そういう甘い世界だろうか。
なお体調に関して違和感はない。
昨日はぐっすり眠っていた―――それこそ、夢をがっつり見るくらいには寝ていたはずだが。
何かを見た―――どんな夢だったかは忘れているモエルである。
いや、待て、夢を見るとしても、浅い眠りの状態の時に見るものである。
そういった知識を思い出した―――まあ、それだけだった。
要は、昔やったことの記憶、その整理である。
「そうよ、モエル、私も剣の準備をしておくわ」
ミキは目つきも鋭い。
きりっとして、剣さえ持っていなければ男が寄ってきそうな顔立ちであるが……。
剣の準備……、だと。
そういえば出会ってからずっと帯刀している。
性格としては武士とか
笑顔を見せることはあるが、なんというか、ミナモのとはかなり違うんだよなあ。
ミナモはこれからのことを説明する。
「今の状況についてだけれどね」
昨日のこともあり、ギルド『伝説の芳香』が色んな
主な街道を使おうという案もあったけれど、奴らが追いかけていたり、すでに検問染みて見張りを張っている可能性が大である。
人数においては向こうの方が上である。
つまり、別のルートを使おうということだ。
モエルにも話はわかったが―――。
「俺はどっちも知らんぜ、王道だろうと邪道だろうと、この
問題はその危険性にあるらしい。
モエルも、少しばかり辺りを見回す。
まだ先ほど
田舎っぽい、砂利が多い道を進んで、起伏もあることは振動から伝わっていた。
道が狭いということだろうか。
それは、聞いていたらつまり……。
「難しいルートなのか?」
「森に入るのさ―――そこには」
そこには、魔獣が現れる。
敵が現れる、その可能性がある。
ミナモは馬を走らせて、その区間を出来るだけ早く駆け抜ける予定だ。
腹をすかした魔獣が飛び出してこないとも限らない。
そのため、多くの商人はここを通りたがらないということだった。
ミナモも例外ではなく、今回は特別の行進だ。
「その時には私の剣と、あんたのその炎で何とか切り抜けるってことよ」
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