第2話

月に一度ある陛下との面会は、陛下自身が決めたことだった。

忙しすぎる陛下が王族が恙無く生活しているか確認するための面会だが、

思い返すと「問題ないか」「ありません」のやり取りだけで終わっていた。


その一言を確認するためだけに毎月会っていたのかとあきれるばかりだが、

思い出す前のソフィアが何も言わなかったのは、

幼いころから周りに言われ続けていたせいだ。


「出来損ないの姫」「ハズレ姫」

「陛下が王女を王宮に住まわせているのは慈悲」

「本当はイライザ姫を可愛がりたいのに我慢されている」

「王太子の後に継ぐのはイライザ姫だ」


そんな風に王太子の娘である私よりも、

第三王子だった叔父の娘イライザのほうが上だと言われ続けていた。

出来損ないの王女なのだから、何一つ文句を言ってはいけないと、

今考えれば洗脳されていたのだろう。


第一王子の父が王太子になり私が産まれ、

第二王子が結婚し王族として残っていることから、

臣下に降り公爵になった叔父と娘のイライザには王位継承権はないのに。


あまり夫婦仲が良くなく娘にかまうことのない王太子夫妻と、

外交を担って国外にいる第二王子夫妻。

領地もなく暇している叔父が王宮で好き勝手するのは簡単だったろうけど…。



ため息をついていると、ようやく陛下が謁見室に到着した。

祖父であるが陛下とお呼びしているのは使用人たちからの指導だ。

あくまで孫扱いはするつもりは無いと言いたいのだ。


だからこそ、あえてここは言わせてもらう。


「問題は無いか?」


「…お祖父様、抱っこしてください!」


「…は?」


「だから、抱っこしてください!」


突然の申し出に陛下だけでなく、側近すべてが目を見開いている。

今まで「ありません」の一言以外話すことのなかった王女が、

こわもての陛下相手に抱っこを求めたのだから…驚くのも無理はない。


それでも、じっと陛下を見つめていると、動揺しながらも答えてくれた。


「…ち、近くに来なさい。」


「はい!」


女官たちが止めようとするのも無視して、陛下のすぐ前まで行くと両手を上に伸ばす。

陛下の視線が少しだけさまよったが、決意したように両脇に手を入れて抱き上げられる。


七歳とは思えないほど軽い身体だ。

だぶだぶのドレスの上からはわからないだろうが、限界までやせ細っている。

陛下はもっと重いと思っていたのか、抱き上げたら勢いが良すぎたようで後ろにふらついた。

その勢いに便乗して陛下の首に腕を回し抱き着いて、小声でお願いする。


「人払いをお願いします。」


「…っ。」


驚いたとは思うが、顔色変えずに周りに指示を出したのはすごいと思う。

七歳ではあるが、見た目は五歳にも満たないような幼い孫が人払いをお願いしたのだ。

私の願いを聞いて人払いしてくれるかは賭けだった。


陛下が手で払う真似をすると、謁見室の中にいた側近たちは外に出て行った。

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