森を抜けた先の町……?


「あぁ~~! やぁ~~っと抜けたぁ~~~!!」


 森を抜けれたことに歓喜の声をあげるレミリア。それにエミリアも、


「ふぅ……辺りが完全に真っ暗になる前に抜けれて、本当によかった……」


 安堵の息を吐きながら続けて言った。すると、レミリアが、


「うぅ~~~ん……? ねぇねぇ、エミィ。あれ見てよぉ~~~」


 と、森を抜けたところに広がる草原の先を指さした。レミリアが指さした方向に目をやるエミリア。


「あれが……町……なのかしら?」


 首をかしげるエミリア。それもそのはず、レミリアが指さした方向にあったものは、遠くから見てもわかるくらいに荒れ果てており、かろうじて人が住めそうな住居がぽつりぽつりと建っているだけのとても町とは呼べないような場所だったのだ。まあ好意的に見れば、ギリギリ村だと呼べなくもないが。


 それに、そんな荒れて寂しげな町らしきいたるところに、何やら淡い優しげな灯りがいくつも見えるのだ。荒れた町とは不釣り合いなその灯りが、もっと町を不気味に見せていた。


「たぶん、そうなんじゃない? あれ以外に、町っぽい場所とかないし……」


 自信なさげに言うレミリア。だが確かにレミリアの言う通り、他に人工物のようなものは見当たらない。


「う~~~ん……このまま夜になっちゃうと何にも見えなくなっちゃうし……迷っていてもしょうがないわ。とりあえずあそこに行ってみましょうよ、姉さん」


 エミリアの言うように、この世界の空は晴れない黒雲によって包まれているため、夜になると地上は一切の光の無い漆黒の闇夜によって支配されてしまうのだ。そんな世界だからこそ、夜に町や村などの集落の外にいるなど、遭難必至の自殺行為に等しい。


「そうだね~そうしよっかぁ~」


 気を取りなおして、町らしき場所へと歩みだす二人。やがて、その場所が自分達の思っていた以上にひどい有様だということがわかるくらいに近づくと、町の入り口と思しき場所から、たいまつを持った二人組の男がやってきた。


「止まれ!!」


 二人組の男のうち、若い男の方が警戒の声をレミリア達にかけてきた。どうやら、町の門番のようらしい。


 それを見てレミリアはすぐさま、面倒な交渉事はエミィにお任せっ♪ とばかりに、エミリアの後ろにささっと移動して、どんっ! とエミリアを押した。


 はぁ……とエミリアは肩をすくませながらも、門番の二人に向かってニコリと笑みを浮かべて、


「突然の御訪問、驚かせて申し訳ありません。わたしたちは決して怪しいものではございません」


 ペコリ、と礼儀正しくお辞儀をしながらそう言った。門番の二人は顔を見合わせ、片方の年長者らしい門番が、


「いや、これはご丁寧に……。こちらこそ、大声をあげてしまって申し訳ない」


 と頭を下げながらエミリアに言った。その頭を下げた門番に向かってエミリアが、


「ひとつお尋ねしたいのですが、ここがサラサの町なのでしょうか?」

「ああ、そうだよ。まあ、この町の現状だと町っぽく見えないだろうがね」

「そう、ですね……」


 サラサの町の惨状に眉をひそめるエミリア。ひょっとして、野盗にでも襲われてしまったのかしら?


「それで、この町に何か用でもあるのかい、お嬢さんがた?」

「ええ、実はわたしたちは旅芸人をしておりまして、もしよろしければ、町の中で芸をさせてはいただけないかと……」

「旅芸人だって? へぇ、この物騒なご時世に珍しいことしてんだねぇ、お嬢さんがた」


 感心したような様子の年長者の門番。すると、別な門番が、


「う~ん、そろそろ辺りも暗くなってきてるから、町の中に入れてやりたいのは山々なんだけど、すまないが身元の確かな者以外は、今ちょっと町の中に入れるわけにはいかないんだよ」

「うん、そうなんだよ。だから、すまないが――――」


 そう言って話を終わらせようとする門番二人。そんな門番二人に、少しお待ちをと、エミリアが背中のリュックを下ろし、リュックの中から書類を一枚取り出して、それを門番二人に差し出した。


「うん? これはなんだい?」

「これは、ルルザの町の領主様がお書きくださった、わたしたちの紹介状でございます」

「なんだって? 御領主様からの紹介状だって?」


 驚きの声をあげ、書類を受け取る年長の門番。門番は受け取った書類をしげしげと眺めていたが、やがて感嘆の声をあげた。


「はぁ~……お嬢さんがた、よっぽど素晴らしい芸をしなさるんだろうな。こんな御領主様直筆の紹介状を持った旅芸人なんて、聞いたことも見たこともないよ」


 お前も見てみろと、書類をもう一人の門番へと手渡す。書類を手渡されたもう一人の門番も、その書類をしばらく眺めたのち、


「こりゃあ、すごいなぁ……」


 と感嘆の声をあげてみせたのだった。


「いかがでしょうか。わたしたちを町の中へと入れてはいただけないでしょうか?」


 ペコリ、と頭を下げて頼み込むエミリア。年長の門番はあごに手をやり、う~んと一唸りした後、


「本来ならば、御領主様にお伺いを立てるところだが、ルルザの町の御領主様の紹介状を持っていなさることだし、まあ大丈夫だろう――ただ、一つだけ確認させておいてほしいことがあるんだ」

「なんでしょうか?」

「お嬢さんがたは……魔術師階級ヘクセかい?」

「はい――――」


 そう言って、エミリアは掌から光球を発生させて見せた。それを後ろで見ていたレミリアも、じゃじゃ~ん☆ といった様相でエミリアの横に並び、同じく掌から光球を発生させて見せた。


「はぁ……お嬢さんがた、ほんっとに珍しいねぇ。魔術師階級ヘクセなら、そんな旅芸人なんてしなくても、どこかの町に腰を落ち着けることだってできように」

「ふふ……よく、言われます」


 はにかむエミリア。


「でもぉ~わたしたちは芸が好きだしぃ~~~、それに同じ場所で芸をずっとしつづけるのも難しいものなんだよぉ~?」


 わかってないなぁ、とレミリアが前かがみになって年長の門番に言う。年長の門番は、レミリアの妖艶な肢体に一瞬目を奪われたが、すぐにゴホンッ! と咳ばらいをして、


「ま、まあ、お嬢さんがたの町への入場を許可しよう。おい、すまないがお嬢さんがたを町の中へと案内してやってくれ」


 と、別な門番に言いつける。


「わかりました。それじゃあお嬢さんがた、歓迎するよ。実をというと、最近、ちょっと厄介な問題がこの町に降りかかってきてね。町の中のムードがあまりよくなかったんだ。そんな時に、お嬢さんがたのような旅芸人が来てくれたとなったら、きっと町の皆も喜ぶと思うよ」

「ほんとぉっ?」


 金の匂いを鋭敏に嗅ぎつけたか、目をキラキラと輝かせるレミリア。そんなレミリアをぐいっと身体で押しのけるエミリア。


「厄介な問題――ですか?」


 エミリアのこの問いに、門番は苦虫を嚙み潰したような表情となった。


「ああ――厄介な問題さ」


 忌々しそうに吐き捨てながら、門番はレミリアとエミリアを町の中へと招き入れようと歩き始めた。


 そんな門番の様子に、エミリアは微かなイヤな予感を――レミリアは儲け話の予感を、それぞれの胸に抱きながら、門番の案内に従いながら町の中へと歩を進めていくのであった。

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