第17話 話し合い

「ナギくん、ちょっと良いかしら」

「ナミさん。彼女の結果はどうでしたか?」

「改造された様子はなし、精神が著しく摩耗しているから休ませているわ。あの子たちは?」

「ちょっと汗を流してもらっています」

「そう、わかったわ。それじゃあ、先に当事者以外で話をしたほうが良いわね」


 ブリーフィングルームへとエアーを連れたナミが入ると中にはナギだけが居り、三人の子供たちがどこに行ったのかを尋ねるとシャワーに向かったことを告げる。

 その言葉に頷き、ナミは腰を下ろすとエアーが彼女から離れてブリーフィングルーム中央に置かれているテーブルへと降り立った。


「キミはたしかソラくんの……」

『直接会うのは初めてッピね。ボクは精霊エアーだッピ』

「……喋れたのですね。驚きましたが、精霊というのは予想外でしたね」

『見た目は鳥だけど、精霊だから喋れるッピ。それとキミたちのアースマシンも根源は精霊と同一の存在だと感じたッピ』

「……なるほど。解明できていない部分もあったりしましたが、そうなっていたのですね。長いこと判明していなかった謎が解けました」


 内心驚きまくっているナギであるが、同時にアースマシンの長らく判明されていなかった謎に興味を示して居る様子であった。

 そこから続くようにして精霊とは何なのかという説明がされ、それをナギは真剣に聞いている。

 テーブルに居る丸々と肥えた青色の鳥と若い見た目の中年男性が話し合う構図という傍から見れば少し異様な光景であるが、話される内容はより異様であった。

 そしてナギが幾つかの質問をエアーにしていると、汗を流し終えたリクたち三人がブリーフィングルームへと戻ってきた。


「あー、サッパリした……って、何だこれ?」

「えっと、母さん……これはいったい?」

「鳥と父さんが話ししてる? なにこれ?」


 当然そんな光景を目の当たりにした三人は、戸惑いながらナミへと訊ねる。

 ナミは落ち着いた様子でコーヒーを飲んでおり、三人の問いかけに口元からカップを離す。


「おかえりなさい三人とも。汗は流せたかしら?」

「あ、ああ……それよりも……」

「え、ええ、これはいったい……?」

「どう言うことなの?」

「まあ、戸惑うのも無理はないわよね。ナギくん、エアー……さん? くん? どっちかしら? まあ、いいわ。それより三人が戻って来たわよ」

「おや、ずいぶんと話していたみたいですね。おかえりなさい、三人とも」

『こんにちわだッピ! ボクは精霊のエアーだッピ!』

「「「……しゃ…………、しゃべったーーっ?!」」」


 ナミの言葉にハッとした様子で照れながらナギは三人へと振り返る。

 エアーも片方の翼を上げて挨拶をすると、三人は固まった。……そして、三人同時に叫んだ。

 「さっきもナギくんと喋っていたでしょ」というナミの軽いツッコミがあったが彼らには聞こえなかったようだった。


 ●


「三人とも落ち着いたかい? はい、飲み物だよ」

「い、一応は落ち着いたけど……理解が追い付かねぇ」

「そうですね。ウルヴァッド帝国の怪人でも小型のものなんていませんでしたし……」

「っていうよりも雰囲気自体も違うように感じるしね~」


 ひとしきり驚いて落ち着いたリクたちへとナギが飲み物を渡すと、彼らは飲み物を一気に飲み干してひと息つく。

 そしてウルヴァッド帝国の怪人をエアーとの比例に出すが彼らの記憶の中にある怪人でも小柄な見た目の怪人は現れたことはあったが、小鳥サイズのものとはであっていないことを思い出す。

 さらにハナが言うようにウルヴァッド帝国の怪人のイメージはおどろおどろしいクリーチャー感が凄いのだが、エアーはどちらかと言うとカートゥーンといった感じの見た目をしていた。

 だから落ち着くのも早かったりしたのだろう。


『ウルヴァイ帝国が創っている怪人は人間を改造しているっていうのはナギ氏から聞いたッピ。だから、純粋な精霊とはまったくの別物だッピよ』

「ですね。ちなみにエアーさんから聞きましたが、ウルサイナーと呼ばれていたあのモンスターは相手が抱えているストレス……つまりは人が抱える心の闇を具現化した存在だということです」

「なるほど、心の闇が具現化ですか……あのピエロが投げていたボールがそのトリガーということですね。人の心の力は凄いということが分かるいい代表例ですね」


 エアーとナギの言葉にカイが納得したように頷くが、リクとハナは理解できていないようで首を傾げていた。

 けれどナギとカイはよく似た性格のためかかなり興味津々に話しを行っている。

 そんな二人を見ていたハナであるが、ふと疑問に思ったことを呟く。


「そ~いえば、エアーって精霊って言ってるけど……どこから来たの?」

「そういえば、そうだよな? 俺たちが呼び寄せたとかいうわけじゃなさそうだし」

『ああ、ボクたち精霊は癒霊少女が変身するときに彼女たちとひとつになるんだッピ。だから、変身を解除したらボクと癒霊少女は分かれるんだッピ』

「……え、じゃあ、キミって……ヒールスカイが変身するときにひとつになってるの?」

「じゃあ……、彼女は変身前の状態ってこと……だよな?」


 サラッと語られた言葉にリクとハナが興味を示す。

 そしてメディカルルームのほうを見ながら、同時に思う。


(み、見たい……。ヒールスカイの正体がやっぱりソラなのかどうなのか、知りたい……けど……! そうじゃなかったら……!)

(変身ってどんな風になってるの? あたしらのようにスーツじゃなさそうだし、気になる。すっごく気になる!)

「はいはい、メディカルルームに行きたそうにしているけどダメよ。彼女にも正体はばらさないでほしいって言われてるし、約束したんだから」

「わ、わかってる!」「わかってるってば~!」


 子供たちがやりそうなことを先にナミは牽制すると、イタズラがバレた子供のように二人は焦りながら答える。

 そんな子供たちに苦笑していたナミであるが、そろそろ本題に入るべきだと考えたようで彼らへと向き直る。


「はいはい、ナギくん、エアーさん、カイ。みんなそろそろ本題に入りましょ」

「おっと、そうだったね。やっぱり知らない分野の話を聞くとついね」

「ええ、やはり専門分野以外でも興味深いものは興味深いんですよ」

『そうっピね。それじゃあ、話をするッピ』


 ナギとカイが苦笑しながら謝り、エアーが軽く首を上下に動かしてから話をはじめる。

 それはとある四人の少女たちの戦いの物語、少女たちが精霊に選ばれ、戦うこととなった日々の物語。

 幼い少女たちには少しどころかかなり厳しいであろう戦いを少女たちは手と手を取り合い、ときには苦労しつつも互いに励まし合い、ときには喧嘩をするけれども仲直りをして笑い合う。

 そんな戦いの日々に少女がひとり追加され、戦いは熾烈を極める。

 けれど少女たちは諦めず、そして世界の危機と同時に敵のボスとのラストバトルに挑むこととなった。

 だが敵のボスも一筋縄ではいかず、自分のものとならない世界になど興味はないと考えたらしく世界を破壊する結論に出たらしくとある装置を起動させていた。

 その装置を護るのは敵の幹部のひとりであり、苦戦しながらも少女たちは戦いに勝利した。

 しかし起動していた装置はあと少しで発動する寸前だった。慌てる少女たちを嘲笑うように刻々と装置は発動を迎えようとする。そんな中、途中加入した少女が装置を覆うようにしてバリアを張った。

 それだけならよかっただろう。しかし少女はバリアの内側……装置とともにいた。

 仲間たちは少女に出るように叫ぶが、外よりも内側のほうが詳細に装置の状況が分かるために出ることを拒んだ。

 そんな状況で装置は起動し、少女は中から漏れ出さないように注意しながらバリアを張り……最後は装置の最後とともにその世界から消え去った。


『そして世界の外に投げ出された少女は変身が解除されてボクと離れ離れになってしまったッピ。で、つい先日ピエロがヤルキナイナー……ウルサイナーを具現化したときにこの世界に気づいて、離れ離れになっていた少女の気配にも気づいたッピ。気づけたならあとは簡単、この世界に跳びこめばいいだけッピよ

 そして離れ離れになっていた他の癒霊少女たちがどうなったのかは分かっていないけど、そのうちの一人が洗脳されて敵になってしまってたッピ』

「なるほど……、ヒールスカイさんにそんな過去が……」

「小学生でそんな戦いって……すごいね」

「……なあ、エアー……さん? 教えてほしいんだけどさ」

『何だッピ?』


 エアーの話を聞いていた三人は語られた話が誰のものであるかを察し、聴いていた。

 そして聞き終えた後、リクが真剣な表情をエアーへと向ける。


「やっぱり、ヒールスカイは……ソラなのか?」

『……それに関してはボクは答えないッピ。彼女が明かすのを待つッピ』

「だけど――!」

『キミは正体を知られたくないと望んでいる子の秘密を、他人から教えてもらいたいのということッピか?』

「それは……、そうだけど」

『それにキミはこれまでの関係を壊そうとしてるのを理解するッピよ。もしもそのソラちゃんがヒールスカイだとして、キミはどうするッピか?

 変身している前に会っても戦いの話ばかりするッピか? ボクはそんなの嫌だと思うッピ』

「…………」

「あたしはイヤだな……。ソラちゃんとのこれまでの関係が壊れるの」


 エアーの言葉に黙るリクであったが、ポツリとハナが呟く。

 その言葉にリクは目を閉じ、ソラとの関係を想う。

 これまでの彼女との日々を。そして、彼女がヒールスカイであった場合の日々を。

 けれどソラがヒールスカイだと分かった場合、彼女との関係がどうなるのかがまったく見えなかった。それどころか彼女との関係が悪くなってしまう気がしてしまっていた。


(ヒーローの正体がわかると協力できるっていうけど、何だか壁が出来てしまう気がする。……俺は、嫌らしい。ソラとは普通の関係でいたい)

「……はあ、そうだよな。悪い、ヒールスカイの正体が誰かなんて別に良いよな。俺が間違ってたよ」

『それが良いッピ。ま、キミたちの想像通りだし、ボクも普通に彼女の家に居るッピよ』

「「「――って、なにをサラッと正体ばらしてるんだよ!?」」」


 心の中で踏ん切りがついたリクはエアーに謝罪する。

 そんなエアーであるがサラッとヒールスカイの正体を暴露し、三人から一斉にツッコミが送られた。

 一方で暴露をしたエアーは悪びれもせずに出されていた飲み物を飲む。


『だって、キミたちの両親によってソラがヒールスカイだって根本的にバレちゃってるッピよ? だというのに、この子は違うんです、一般人なんです! なんて言っても苦しい言い訳じゃないッピか。だから教えておくことにしたッピ。まあ、本人には許可なんてとっていないから、バレていないって思ってるから黙っておくッピよ』

「お、お前、腹黒いって言われないか?」

『長い間色んな世界を見て回っていると色々と腹黒くなるッピよ。色んなヒーローとか悪の組織が凄かったッピ……』


 苦笑するリクの言葉にエアーは遠い目をしながら言う。

 そんなヒーローたちの戦いに興味を示すナギとカイであるが、ナミによってその話は後日ということにされていた。

 納得しているかと聞かれるとしている様子ではなかったが、諦めるしかないと理解したので黙っていた。


『それであっさりとバラした理由だけど、色々と協力してほしいからっていうのが大きいッピ』

「協力?」

「まあ、本人が居ないというのに正体をバラすということをしてるのですし、何か理由があると思っていましたが……何を求めてるのですか?」

『いくつかあるけど、まず第一にソラ……いや、癒霊少女である彼女たちの身の安全が欲しいッピ。これから先、彼女たちをソラが助けても研究だとかなんだとか言って連れて行かれて何かされてたら困るッピ。だから彼女たちの今後を約束してほしいッピ』

「そうですね。ソラくんだけじゃなく、救出された彼女たちの身の安全も保障するべきですね。わかりました。ナミさんもそれで良いですか?」

「ええ、大丈夫よ。それとエアーさん、彼女たちがウルヴァッド帝国に改造されてたとしても私が治してみせるからそっちも安心してちょうだい」

『お願いするッピ。ピエロも本気で他の癒霊少女を改造させて襲ってくる可能性が高いかから不安しかないんだッピ……』

「……人の形を保っていることを祈るしかないわね」

『あ~……そういうのもあるッピか……。こればかりは天に祈るしかないッピね……』


 ナミの言葉にウルヴァッド帝国がどんな国なのかを理解し、エアーは天井を仰ぎ見る。

 同時にソラには聞かせるわけにはいかないと思っていた。聞いたら無理矢理にでもウルヴァッド帝国に乗り込むとか言いかねないのだから。

 その結果、ソラは死ぬか改造されて敵となってしまう未来しか見えない。

 だから言うつもりはないのだ。


 こうして、この世界のヒーローたちとの話し合いは当事者を抜きに進むのだった。

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