第16話 ようこそ、秘密基地

『とりあえず……基地に戻るためにアースマシンに乗り込もうと思うんだけど、くっついてくれないか?』

「え? えっと……」

『あ、い、いや、俺たちじゃないと乗れないから、抱き着いててくれないと――って、ああいや、そういうわけだけど、やましい気持ちじゃなくて!』


 ヒールスカイはアーススリーに導かれるまま基地へと移動するためにアースマシンへと乗り込むこととなった。

 その際にコントロールルーム的な場所に入るための手段を口にしたのだがレッドアースはしどろもどろとなる。

 ちなみに気を失っているヒールフレアはブルーアースが責任をもって連れて行くと言ったため、彼を信じて預けたので先にシーアースへと搭乗していた。


『レッド、はやく来てください』

『そ~そ~、こう、ギュ~って抱き着けば良いんだからさぁ!』

『ちょ!? 何でそうなるんだよ!?』

「え、えと……、し、失礼します!」

『――っ!!(や、柔らか! いい匂いする……!) そ、それじゃあ、行くぞ!』


 囃すイエローアースに驚きの声をあげるレッドアースであったが、覚悟を決めたヒールスカイがレッドアースへと抱き着く。瞬間、胸元に感じる柔らかさと清浄な心地よい香りが、彼のマスク越しに届いた。

 そんな状況を必死に堪えながら、レッドアースはヒールスカイが落ちないように腰に腕を回すとマグマアースへと乗り込み、基地に向けて移動をはじめる。


(うぅ……、ドキドキします。リ、リクくんに……聞かれていません、よね?)

(や、やっぱりソラ……なのか? けど、ソラじゃなかったらあいつ以外の女性と抱き合ったという罪悪感が……ああ、どっちなんだ!)


 レッドアースの正体がリクであることに気づいているヒールスカイソラは顔が赤くなっていないか、心臓の音が聞こえないかと思っており……、一方でレッドアースリクのほうもヒールスカイが両親から言われたように幼馴染である少女なのかと思いつつも、そうでは無かったらという想いに板挟みとなってしまっていた。

 そんなある意味でピエロやウルサイナー、そしてウルヴァッド帝国との戦い以上の戦いを二人は繰り広げていた。


 ●


 アースマシンは基地への帰還の際、ウルヴァッド帝国や味方の防衛軍に基地の所在が分からないためにバラバラに別れ、それぞれのアースマシンが出撃するポイントまで到着すると転移装置が作動し基地までアースマシンが転送されるという仕組みとなっていた。

 そしてアースマシンから基地内へと降り立つと、既に連絡を貰っていたからかナギとナミが待ち構えていた。


「いらっしゃい、ヒールスカイさん。アーススリーの基地へようこそ」

「は、はい、よろしくお願いしますっ」

『母さ――博士、彼女をお願いします』

「ええ、分かったわ。ヒールスカイさんも来てもらえないかしら?」

「えっ!? わ、わたしですか?」


 ブルーアースに抱き抱えられていたヒールフレアが自走するタイプのストレッチャーに乗せられ、それを確認してからナミがヒールスカイへと言う。

 突然のことで驚いた様子でヒールスカイが声を漏らす。

 そして言うだけ言うとナミがヒールスカイを連れてメディカルルームへと案内される。


「さて、それじゃあ彼女の診察と治療を行おうと思うから、あんたらは出てった出てった!」

『え!? だ、大丈夫なのか?』

「服とか脱がしたりするし、男は出ていく!」

『じゃ~、あたしは?』

「……あんたも!」

『なんで~~!?』


 後からついてきたアーススリーを追い出すと、ナミはヒールフレアを見ると診察をはじめる。

 メディカルルームに備え付けられた設備がナミがモニターを操作するたびに出てくると、ヒールフレアの体へと近づくと色々な検査が行われ始めた。

 それをヒールスカイは後ろから眺めていた。


「血液に異常はなし、身体は……すこし痩せてしまっているみたいね。身長との適正体重よりも低いわ。ウルヴァッドの改造はされた様子はないみたいね。……精神は見たところかなり疲弊しているようね」

「そうですか……。ありがとうございます」

「少し休ませたら目を覚ますと思うわ。それじゃあ、今度はヒールスカイさんの検査をすることにしましょうか」

「え、わたしは大丈夫ですけど……」


 ヒールスカイに向きなおったナミにヒールスカイは首を傾げる。

 そんな彼女にナミは言う。


「そうなの? 変身を解除したときにはケガの問題はない?」

「えっと……はい、すこしキズはありますけど、とくに問題はないです」

「まあ、この間の戦いの次の日に会ったときも見たところケガをしている様子はなかったから、変身中のケガは何らかの障壁が働いて変身前にはダメージが行かないようになっているって考えた方が良いのかしらね。そこのところはどうなの? 答えられる範囲で良いから答えてくれないかしら、

「どうなのでしょう? わたしにもよくわかりませ――――え……、いま、なんて」


 ナミの質問にヒールスカイは答えていく。彼女の答えを聞きながら、戦いでケガをしていたときのことを思い出しながらナミはヒールスカイへと言う。

 はじめは理解しておらず、会話をしていた彼女であったが正体である名前を口にしたと理解した瞬間、ビクッとしながら青ざめた表情でナミを見る。

 その瞳に宿るのは驚きと恐怖。

 当たり前だ。ヒールスカイがソラであるということはバレていないと彼女は思っていたのだから、なんてことはないみたいな様子で正体を当てられたのだから驚きと戸惑いが胸中に渦巻いていた。

 そんな感情を悟られまいとしながら、ヒールスカイは青ざめた表情を取り繕いながらぎこちない笑みを浮かべる。


「な、なんのことを言っているのですか? わ、わたしは……」

「ごめんなさいね。以前からヒールスカイがソラちゃんだと言うことは、採取した血液と髪の遺伝子情報で分かってはいたの。だけどあの子たちと同じようにソラちゃんの日常を壊したくなんて無かったから、夫とあの子たちだけには言っておいたの」

「っ!? ……リクくんたちも、知ってたの……ですか?」

「たぶん知っているんだろうなって思ってたけど、その様子からしてあの子たちがアーススリーであることは知っていたみたいね。それと安心して、あの子たちはヒールスカイの正体を知ったけどあなただって認めたくなかったから、『もしかして』なところで止まっているわ」


 すこし前からリクたちの様子がおかしかった。その理由に気づいたヒールスカイは悲痛な面持ちを浮かべる。そんな彼女へと安心させるようにナミは言う。

 その言葉にヒールスカイは若干安堵したような表情に変わるが、心苦しそうな様子は変わりない。


「……おばさん、騙してて、すみませんでした」

「隠すつもりはもうない、って考えても良いのかしら?」

「はい……。けど、わたし自身思い出したのが少し前だったので……リクくんたちがアーススリーだって気づいているだけの一般人だって思ってたんです」

「それはそれで異常だけど、ありがとうね。あの子たちの居場所になろうと思ってくれていたんでしょ?」


 ナミの言葉にヒールスカイは頷くと、ナミはやさしく彼女の頭を撫でる。

 すると限界だったのか、ヒールスカイはボロボロ涙を零しはじめた。


「あらら、これは質問は無理そうね……」

『大丈夫ッピ。それならボクが質問を受けるッピ』

「あら? この声って……」

『ソラ、変身を解除してほしいッピ』

「……わかりました。エアー。説明をお願いします」


 泣きだしたヒールスカイに苦笑するナミであったが、聞こえてきた声に首を傾げる。

 そんな彼女を他所にヒールスカイは声の主と会話すると、軽く全身を光らせ……元の星空ソラへと戻ると肩にずんぐりむっくりな青い鳥が乗っていた。


『はじめまして、アーススリーの保護者さん。ボクは精霊エアーッピ』

「あなた……最近ソラちゃんが飼いはじめていた鳥よね? 喋れたのね……」

『時折何処かからボクを見ているって気づいていたッピ。だから極力は喋らないようにしていたんだッピよ。まあ、監視の目が外だけだったというのも助かったッピよ』

「そうなのね。それで、ちゃんと説明をしてもらえるのかしら?」

『大丈夫ッピよ。ソラ、ボクは彼女たちと話をしようと思うからフレアを見てあげるといいッピ――というか、いい加減に変身を解除させるべきッピね。ほら、サラマもいい加減に起きるッピよ! 寝坊助も大概にするッピ!』

「ちょ!? エ、エアー!? 何をしてるんですかぁ!?」


 眠るヒールフレアへと近づいたエアーは彼女の胸元のブローチを軽く突きはじめる。

 その様子に驚いた様子のソラであったが、ヒールフレアの体が一瞬だけ炎に包まれると変身が解除され……火祭ホムラへと戻り、彼女の胸の上ではぐったりとした様子の赤い皮膚をしたトカゲのような生物がいた。


『ヴ、ヴァ~……、これまでずっとストレスで拘束されていたから、起き上がるのが辛いドラよ……。エアー、久しぶりに会ったからって厳しすぎないドラか?』

『久しぶりッピねサラマ。キミも精霊界に戻れないッピか?』

『ちょっと無理ドラ。けど、ここは精霊界に近い気配がして居心地が良いから、ちょっと休ませてもらうドラ……。それと久しぶりドラねソラ……太った?』

「え、ええ、久しぶりです。サラマ……あの、さっきはありがとうございました。それと太ってはいません、成長しただけです」

『よくわからないけど、無事に再会できてよかったドラ』

(あの時のホムラも自分はサラマの欠片って言ってましたけど……、ホムラのサラマとは独立しているのでしょうか? けど、あなたも手を貸してくれたんですよね? ありがとうございます)


 何も知らない様子のサラマにソラは心の中で感謝してから、寝息を立てているホムラを見る。

 死んだように眠る彼女の姿はダークフレアの時と同じように白い髪をしていて、肌も白くなっていた。しかも服も着ていない。

 ソラの記憶の中にある彼女の赤みを帯びた黒く長い髪をポニーテールも、ほぼ毎日外を走り回っていたから浅黒くなった健康的な肌もどこにもない。

 そして受けていた疲労が、かなりのものだったようで起きる様子はなく……まるで死んでいるようにも見えた。


「……ホムラ、生きていますよね?」

『大丈夫ドラ。ホムラも疲れてるだけドラ、目が覚めたらきっと元気になるドラよ』

「そう、ですよね。ありがとうございますサラマ」

『それじゃあソラはホムラを見ててあげるッピ。ボクはアーススリーたちと話をしてくるッピ』

「ええ、わかったわ。それじゃあソラちゃん、ちょっとこの子を借りていくわね。あと……あの子たちはメディカルルームに入らないように念を押しておくわ」

「ありがとうございます、おばさん」

「いいのよ。気にしないで。……それと、ソラちゃんがヒールスカイだっていうのは明言はしないわ。けど、匂わせはさせてもらうわね」

「……はい。言うなら、わたしの口から言いたいです」


 心苦しいと言った表情をするソラの頭を軽く撫でてからナミはメディカルルームを後にし、それを見送ったソラは眠るホムラの手をギュッと握りしめる。

 はやく目を覚ましてほしいと祈りながら。

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