第15話 掴み取ったものと新たな脅威

(ホムラ、ぜったい……ぜったいに助けます。貴女はそんな無表情も、苦しそうな顔も、似合いませんから!)


 ヒールスカイは歌う。

 仲間のために、親友のために。

 その歌声が、奏でられるギターの音色が音符となり、浄化の青い火を燃やしながらダークフレアへと向かう。

 黒い炎を消し飛ばし、ひとつ、ひとつと音符はダークフレアへと当たっていく。


「う、ぁ……ぅ……!」


 音符がダークフレアに当たると彼女の体が燃え上がる。その度に彼女の口からは苦痛にも似たうめき声が漏れる。

 だがそれと同時に首に取り付けられていたリングが、彼女の意思とは関係なく狂ったように弾かされていた黒いギターが、彼女が燃える度にその余波によってピシピシと音を立てながら亀裂を走らせていく。


 さらには空間を満たしたヒールスカイの歌声とギターのメロディはアースマシンにも伝播し、機体からはドクンドクンという脈動とともに淡い光を放ち始めていた。


『これは――!? スペック以上の出力が出ています!!』

『よく分かんないけど、ガイアアースが喜んでいる気がする!』

『今ならなんだって出来そうだ! みんな、合体だ!!』

『わかりました!』

『わかったよ~!』


 レッドアースの掛け声に返事をし、三人は同時に地球儀を回転させながら叫ぶ。


『『『地球合体!!』』』


 直後、それぞれのマシンが鳴き、震え、吼え――合体を始めた。

 すると周囲からどこからともなくチキュウオーのための挿入歌が鳴り始め、その曲が流れる中で三体のアースマシンはチキュウオーへと合体を完了させた。


『『『完成、チキュウオー! ――って、この歌は何処から来たぁ!?』』』


 聞こえた歌声に三人はツッコミを入れる。しかし、歌は気にするなとでもいうように、流れているメロディと歌声からは返事などない。

 そしてチキュウオーは絶好調とでもいうように眩い光を放っていた。


『『『『ウルサイナーーーーッ!!』』』』


 そんなチキュウオーへとすこし怯みながらもウルサイナーは雄叫びを上げながらズシンズシンと近づいてくると、パンチを打つべく拳を振りかぶる。

 それに気づいたアーススリーは歌へのツッコミを止め、行動を開始した。


『チキュウオー、受け止めろ!』

『『『『ウルサイナーーッ!』』』』

『『『くぅ……! けど、この間みたいに一撃で倒れない!』』』


 振りかぶられた拳を手で受け止めると、ズズッとチキュウオーの巨体が後ろに下がるが戦闘不能になることはない。

 きっとこれはヒールスカイの歌声のお陰だと感じながら反撃を開始する。


『チキュウオー、反撃だ!』

『パンチ、行きますよ!』

『パンチの次はキックだ~~! てりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃ~~!!』


 言いながら地球儀を回すと拳を受け止めた手と反対の手で、ウルサイナーを殴りつける。

 殴りつけられよろめいたウルサイナーへと追い打ちをかけるように、ジャンプをするとその胴体に向けて連続的にキックを放つ。

 そのダメージによろめいていたウルサイナーの体は後ろへと倒れた。


『くそっ、クソクソくそぉ!! ヒールスカイ! アーススリィィィィィィィィィィッ!!』


 倒れたウルサイナーを見ていたピエロからは怒りの声が漏れる。

 そんなピエロの怒りをさらに追い立てるように、バキィン!と砕ける音が聞こえた。


「う…………、ぁ……」

「フレアァァァァァァッ! やっと、やっと……いえ、先にこれを、完全に壊します!」


 音に振り返ると黒いギターが限界を迎えたのかついに砕けてしまい……、膝から崩れ落ちたダークフレアへとヒールスカイが演奏を中断し近づき抱きとめ、首のリング状の道具を壊していた。

 簡単に壊せるはずがないものであるが、ヒールスカイのヒーリングメロディによってほとんど砕けかけていたようで……彼女の力でも壊せていた。


(くそっ! くそくそくそっ!! ヤミー団長! アナタさまなら、アナタさまならいったいどのようにこの状況を乗り越えたのですか! お答えください、ヤミー団長! 哀れなピエロに救いの手を!!)


 ヒールエレメンツを相手にしていたとき以上に酷い状況にピエロは今は亡きストレス歌劇団の団長へと救いを求める。

 しかし、そんなピエロを助ける者はない。


「ピエロ、よくもフレアを……! それにアクアも、ウインドも、グランドも返してください!」


 そんなピエロへとヒールスカイが叫ぶと、ピエロはまだまだ切り札を持っているということを思い出した。

 そしてそれを使ってヒールスカイを絶望させる方法を。


『――フ、フヒ! そ、そう、です。そう、でしたネ! 今回はワタクシは退かせてもらいましょう! ですが、覚えていてくださいヒールスカイ。アナタがたがワタクシに与えた屈辱の怨みがアナタの仲間である彼女たちに向くということを! アァ、楽しみデス。アナタのセイで仲間たちが酷いメに遭い、そのサマを見たアナタが泣き崩れる様子を想像するのが!!』

「っ! こ、この卑怯者! なんで、なんで正々堂々戦わないのですか!?」


 自分はまだ優勢だ。それに気づきながら怒りに顔をしかめるヒールスカイを見ながらピエロは愉悦する。

 ああ、彼女たちをどうするべきか。フレアのように精神を封じて人形にするのが良いか。それとも他の団長に差し出すべきか。ああ、にご執心の陛下に玩具として差し出すのも良いかも知れない。

 彼女たちをどうするべきかと想像しながら、ピエロは別れの挨拶をする。


『すぅいませんねぇ。これもワタクシの性分なのデスから! ああ、折角創り出したウルサイナーはもったいないですが、ワタクシは失礼させていただきマスね』

「逃がしま――『オヤオヤ? お友達を見捨てるのデスか?』――……」


 倒れたダークフレア……いや、ヒールフレアをいつでも攻撃できるとピエロが暗に言っていることにヒールスカイは理解し、何も言えずに俯いた。

 それを見ながらピエロは今度こそ逃げようとした。――――だが。


「……昔、フレアが言ってました。ムカツクやつには思いきりの一撃を入れるんだ。って……わたし、あなたにすごくムカついています。フレアを利用して、みんなをさらに利用しようとしている。そんなあなたに、すごくムカついています。だから……逃げる前に思いきりの一撃、受けてもらいます!」


 ヒールスカイは俯いていた顔を上げるとキッとピエロを睨む。その瞳の奥には青く赤く燃える炎が宿っており、それを見たピエロはイヤな予感を感じた。


『バカバカしい! フレアを見捨てるというのデスか? ワタクシはそれでも良いのデスよ?』

「見捨てません。そして、わたしは……動くつもりはありません。だから……あなたに来てもらいます」

『何を言って――っ!? 熱っ!? コ、コレは……! ――!!』


 ヒールスカイの言葉の意味が分からずにいたピエロだったが、足首に突如熱を感じ見ると……ヒールスカイの首に巻かれていたマフラーが足首に巻きついていた。

 巻きついたマフラーによって、空間を移動して逃げようとしていたピエロは逃げれなくなり、さらにヒールスカイのもとへとマフラーに引っ張られた。


(マズい……! 癒霊少女ほどこういう時に面倒な存在は居ない! はやく、はやくマフラーを切って逃げなければ!)

「フレア、技を借ります! スカイギター! フレア☆ストラーーッイクッッ!!」

『ゴボォ!? が、ぁ……!!』


 持っていた空色のギターを逆さに持つと野球のバットのように構え、引っ張られてくるピエロを見据え構えたギターを横に振るった。

 この技は癒霊少女の戦いの道具である楽器で殴りつけるというとんでもない技であるが、物理的な攻撃であると同時に純粋な精霊の力の塊であるため、ストレス歌劇団やヤルキナイナーには大ダメージが与えられるものだった。……ちなみにヒールスカイにはそんな技はない。

 そして振るわれたギターはピエロの顔に命中し、呻き声を上げながら遠くへと吹き飛ばされ……地面に倒れて動かなくなっていた。

 そんなピエロを見ながら、ヒールスカイは酷いながらもスカッとした気分を感じていた。


 ●


『『『チキュウソード!』』』


 一方、ウルサイナーと戦っていたチキュウオーも勝負をつけるべく、チキュウソードを構えてウルサイナーと対峙していた。

 どう攻撃をするべきか、そう考えながらもいくつも顔があるからか死角がないため攻めきれずにいるようだった……が、ヒールスカイがピエロを殴りつける瞬間を見て、彼女の行動力がレッドアースにも伝播したようだった。


『ヒールスカイ、やったな! ……う、うおおおおおっ! 俺もすっげぇ燃えてきたぜぇぇぇぇぇぇっ!!』

『――って、ほんとに燃えてるよレッド!?』

『これは……気合の炎とでもいうべきでしょうか? しかもその炎はチキュウソードの刀身にも伝播しているようです!』


 巨大地球儀の前で真っ赤に燃え上がるレッドアースを見ながら驚きの声をあげるイエローアース。一方ブルーアースは冷静にその様子を確認し、チキュウソードが真っ赤に燃え上がり始めているのを見ていた。

 対する責められないように警戒していたウルサイナーは、燃え上がったチキュウオーをさらに脅威と思ってしまったようで一歩下がってしまった。

 それが勝敗の決定打となった。


『『『『ウ、ウルサイナー……』』』』

『っ! 今です、レッド!』

『わかった! うおおおおおっ!! くらえ、燃えるマグマの一撃を!!』


 ブルーアースの合図とともにレッドアースは声を上げ、チキュウオーは駆けて剣を振り上げる。

 瞬間、彼らは技の名前を口にした。


『『『チキュウオー! 灼熱マグマ斬り!!』』』


 瞬間、チキュウオーの背後に噴火する火山の幻覚が現れ、ドロドロのマグマがウルサイナーに向けて流れていく。

 流れていくマグマに焼かれた錯覚をウルサイナーが感じたと同時に、赤熱したチキュウソードが振り下ろされた。

 マグマの熱と熱の斬撃という二連撃がウルサイナーを襲い、ウルサイナーの黒い体は散っていく。どうやらマグマの熱もチキュウソードに宿った炎にもヒールスカイの歌の影響を受けたようで浄化の力があるようで、焼かれながらウルサイナーは浄化されていった。

 そして浄化されたウルサイナーが居た足元にはウルサイナーの媒介に使われた数名のウルヴァッド兵たちが倒れていたが、安らかな表情を見る限り命に支障は無いようだった。


『はぁ、はぁ……、やった……のか?』

『そうみたい、ですね』

『や、やった~~~~!!』


 ウルサイナーを倒した。それを実感できずにいた三人だったが、じわじわとその事実を理解して言ったようでイエローアースが両手を上げながら喜びの声をあげた。

 それを見ながらブルーアースとレッドアースも互いの拳を当て合う。


『やったな。ブルー!』

『ええ、やりましたねレッド!』

『あ、見て! ピエロが起き上がってきたよ!』

『行こう!』『行きましょう!』


 ギターで殴り飛ばされていたピエロが、ふらふらと立ち上がろうとするのに気づきイエローアースが指を指す。

 その言葉に二人は頷くとアーススリーはチキュウオーから飛び出し、地上に降り立った。

 地上に降り立ったアーススリーに気づいたヒールスカイがチラリとそちらを見ると互いに健闘し合うように頷く。……まあ、ヒールスカイのほうは恥ずかしさがあるからか若干頬が紅くなっているように見られた。

 そして立ち上がり、俯いたままのピエロへとレッドアースは言う。


『ピエロ! お前がどんな奴かはわからねぇ! けど、俺たちの世界を好きにはさせない!』

『ええ、アーススリーが居るかぎり、あなたにもウルヴァッド帝国の好きにもさせるつもりはありません!』

『そうそう! あたしたちも、そしてヒールスカイも相手になるからね~!』

「わ、私ですかっ!? ……え、えと、そうです!」


 レッドアースの言葉に続けてブルーアース、イエローアースが言うと巻きこまれたヒールスカイも戸惑いながらも頷く。

 しかしピエロは俯いたまま動かない。その様子を訝し気に見ていた一同だったが、ブルーアースが呟きを拾った。


『アア、クソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソ。コロスコロスコロスコロスコロス。ユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ。アァ…………、アア――――ァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァ~~~~~~ッッ!!』

『『『っ!?』』』

「っ! この気配……まさか!? 皆さん、こっちに来てください!!」


 壊れた機械のように呟きつづけていたピエロだったが、突然爆発したかのように黒い波動を放ち始めた。

 突然のことに驚いた様子を見せたアーススリーであるが、ヒールスカイは何かに気づきアーススリーを呼び寄せる。

 彼女の呼びかけにアーススリーが近づき、それを確認してから彼女はスカイギターを奏で始めると周囲を覆うようにエアーウォールを展開した。

 直後、ストレス空間を満たすほどの黒い波動が爆発した。


『アァ、ココニイタノデスネ。ヤミーダンチョウ……』


 視界を黒一色に染め上げられる中、彼らはピエロの声を聞いた。

 そして、視界を染めあげていた黒がヒールスカイによるスカイメロディの演奏によって浄化され、ストレス空間が解除されたときにはピエロの姿はなかった。


「はぁ、はぁ……、もう大丈夫です」

『ありがとう、ヒールスカイ。……今のはいったい?』

「わかりません。ですが、わたしたちが戦っていた敵のボスと同じ気配がしたのは確かです……」

『なるほど、何らかの要因であのピエロが覚醒した可能性が高そう……ですね』

『頭が痛くなるね~……』


 レッドアースの問いかけにヒールスカイが答えると、ブルーアースが可能性を口にする。

 それを聞きながらイエローアースが頭を抱えていた。


(……ピエロも、ストレス歌劇団の幹部たちも、ヤミー団長から生まれたのでしたよね? だったら、あれもヤミー団長ということ……になりますよね。わたし一人で、大丈夫でしょうか……)

「まあ、なんとかしないといけませんね。……アーススリーの皆さん、わたしは失礼させてもらいます。……フレアを連れて行かないといけないので」

『待った、ヒールスカイ!』


 眠るヒールフレアを抱き抱えてこの場を後にしようとするヒールスカイであるが、レッドアースに呼び止められた。

 突如呼び止められたヒールスカイは振り返り、レッドアースを見る。


「えっと、なん……ですか?」

『彼女、ヒールフレア……で良いのか? 病院に連れて行かなくても大丈夫なのか?』

「それは……」

『提案なんだけどさ、俺たちと一緒に基地まで付いてきてくれないか?』

「……え」


 レッドアースの言葉にヒールスカイは驚きの声を小さく漏らす。

 普通正義のヒーローが基地まで招くということは無いだろうに、提案してきたことに彼女は驚く。そしてレッドアース個人の意思ではなくブルーアースとイエローアースも言わない様子を見ると二人も却下しないようだった。


(どうなのですか、エアー。ホムラは眠らせておけば良いと思いますか?)

(それはボクにも分からないッピ。けど、彼らが言うように基地に連れて行って診てもらうのも良いと思うッピよ)

(そう、ですか……。でも、正体……バレませんか?)

(大丈夫ッピよ。……(たぶんとっくにバレてると思うッピ))

(何か言いましたかエアー?)

(気のせいだッピよ)


 心の中でヒールスカイはエアーと会話をし、すこし悩んだ結果……レッドアースへと向き直ると頭を下げた。


「……わかりました。どうかフレアを、お願いします」

『っ! わ、わかった。それじゃあ、行こうか……!』


 頭を下げたヒールスカイにギョッとしながらも返事をしながら、アーススリーはヒールスカイを自分たちの基地へと招くことに成功したのだった。

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