第13話 ダークフレア
「リクくんもカイくんもどうしたんですか? なんだか最近ソワソワっていうか、モヤモヤしてますよね?」
「「えっ!? あ、いや、その……」」
「ソラちゃん、ソワソワモヤモヤじゃなくてムラムラって――「ハナちゃんもですよ!」――うぇ!?」
朝、学校への通学中、ソラはついにリクとカイに尋ねた。
それを指摘され戸惑う二人を笑うハナであったが、彼女も指摘されて少し間抜けな声が漏れる。
ここ数日間、何時ものように通学しているのだが三人の様子はどこか変であった。
よく遊びに来ていたはずのソラの家にもあまり来ることがなくなり、ハナに至っては勝手に入るということがなくなった。
そしてソラが話しかけているときでもリクとカイは何処か上の空のような反応を度々しているし、まるで気のせいとか認めたくないとでもいうように首を振るようになっていた。
だというのに、ジョギングをするときはリクがいっしょに走ってくれるし、勉強で分からないところがあればカイが親身になって教えてくれたりもしていた。
過保護にされてはいるけれど、何処か対応に困っているという態度にソラも機嫌が悪かった。
だから通学途中に聞くことにしたのだ。
「わたしになにかありましたか? リクくんもカイくんも、ハナちゃんも全員変ですよ? 答えてくださいよ」
「えっと、その……」
「それは、ですね……」
「これには事情があって……」
ソラの言葉に三人はなにをどう言えば良いのかわからない。
当りまえだ。彼らはソラがヒールスカイであるということを知ってしまっている(本人たちは認めたくないけれど)、だというのにソラのほうは自分たちがアーススリーであるということを知らない。だから言うに言えないのだ。
もしも彼女が自分たちの正体を知っているならば、と一瞬思ってしまうもそれはダメだと却下する。
正体を知られた場合、彼女がウルヴァッド帝国の標的にされてしまう可能性があるのだから。
(くそっ、どう言えば良い? どう言えばソラが傷つかない??)
(ああ、こんなときに何で僕の天才的頭脳は働かないのですか!?)
(もうソラちゃんにすべてぶちまけたらいいんじゃない? そうしたらソラちゃんも正直に言ってくれるかも知れないんだしっ!!)
(うぅ、ちょっと三人に強く言いすぎましたか? やっぱり、アーススリーに関係することで悩んでるんですよね? だったら、言えないに決まっていますよね。……うぅ、わたしイジワルです)
心の中で悩み続けている三人、それと同じようにソラもちょっと後悔してしまっていた。
だから謝ろうと考え、ソラは口を開こうとする。だがそれよりも先に、ヒアサシティ中に声が響き渡った。
『あー、アー、レッディ~スエ~ンドジェントルメ~ンッ!!』
「「「「っっ!?」」」」
「なんだ、何の声だ?」
「やだ、何これ……」
響いた声にソラたちは反応し、周囲にいた学生やサラリーマンからは戸惑いの声が漏れる。
聞こえているシティ中でも同じように戸惑いと何かが起きるのではないのかという恐怖が感じられる中で声……ピエロの声が響き渡る。
『これより、シティの外でワタクシことピエロはかつてワタクシたちに歯向かった愚か者を処刑しようと思いマス! コレがその証拠です!!』
何が行われるのか? 歯向かった愚か者? 何も知らない人たちを置いてきぼりにしながら、ピエロは演説しながらシティ上空に映像を浮かび上がらせた。
浮かび上がった映像にはシティ間を繋げるための道路を塞ぐようにピエロと多くのウルヴァッド兵が立っており、ピエロの隣には十字架が設置されていた。
そして十字架にはひとりの少女が磔となっており、それを見た瞬間――ソラは駆け出していた。
殆どの者たちが磔にされた少女に対して誰だと思っただろう。しかし、ソラには誰か分かった。だから駆け出したのだ。
「っ! ソラ!!」
「ソラくん!!」
「ソラちゃん!?」
背後から彼女を呼ぶ声が聞こえたが、その声に止まることなくソラは懸命に走ると心の中でエアーに呼びかける。
すると彼女の呼びかけによってエアーはどこからともなく現れ、彼女の肩へと乗った。
『どうしたッピ、ソラ?』
「フレア、フレアがいました! 生きてたんです!!」
『っ!? そうみたいッピね。けど、これはどう見てもキミを誘き寄せるための罠ッピよ? それでも行くつもりッピか?』
「当りまえです! だって、フレアは……ホムラはわたしの親友なんですから!!」
『……わかったッピ。けど、十分注意するッピよ?』
「ありがとうございます! ――エレメンタルフュージョン! メタモルフォーゼ!!」
絶対に聞き入れない。それを理解しているため、エアーは黙る。
そんなエアーの想いにも気づかないほどにソラは逸る気持ちを抑えきれないように駆けながら、変身をし、ヒールスカイへと変わる。
一瞬で変身したヒールスカイは走るスピードを上げ、ピエロたちがいる場所へと急いだ。
(待っててください、ホムラ!)
「行っちゃった……」
「――って、そんな風にボケーッとしてる暇はねぇだろ!?」
「そ、そうでした! 僕たちも急ぎましょう!!」
一方、ソラに置いていかれた三人は茫然としていたがリクの言葉にハッとしながら三人も続いて走り出す。
そしてリクは変身アイテムの通信機能で父のナギへと連絡をする。
『リクか! 今の放送は――「ソラが突っ走っていったんだ!」――なんだって!?』
「あの様子からして、どうやら磔にされている少女は彼女の仲間だったんだと思います」
「だよね……。あーもう! なんで敵は空気を読まないのかな~!!」
「愚痴を言うのは後だ! それよりも早く向かおう」
「わかりました」「うんっ!」
リクの言葉に二人は頷き、ソラを追いかけるようにして駆け出した。
●
ヒアサシティと別のシティへと繋がるための道路、その道を塞ぐようにしてウルヴァッド兵が立ち塞がっており、彼らが塞いだ道路の中心にピエロと磔にされているヒールフレアが居た。
しかしヒールフレアは気を失っているからか微動だにせず、そんな彼女を見ながらピエロは仮面の下でクックックッと笑う。
『そろソロ来ますかネェ? 彼女もきっとアナタのために来ますよ? 嬉しいデスか? 悔しいデスか? アハハ、目が覚めたときの彼女の反応が楽しみデスよ!』
『ウルヴァッド!』
『オヤ、来たみたいデスねぇ』
目を閉じたヒールフレアへとピエロは語るが、彼女からの返事はない。
それでもいい、これから起きる悲劇であり喜劇には彼女たちが必要なのだから。
笑いを堪えるのを必死に我慢しながら待っていると道路を塞いでいたウルヴァッド兵からヒールスカイが現れたことを告げられる。
同時にウルヴァッド兵たちが立ち塞がる前にヒールスカイが降り立った。
「ピエロ! フレアを返してください!!」
『よぉ~こそヒールスカイ! よく来てくれましたネェ!! というか、罠だってわかってるのデスか?』
「当りまえです! でも、仲間を見捨てることなんて出来ません!」
『仲間、仲間デスか……。クハッ、フヒ……ッ、失礼』
「何が面白いのですか!?」
降り立ったヒールスカイがピエロに大声で語り掛けると、やはりヒールスカイを誘っていたようでピエロは嬉しそうに両手を広げヒールスカイをバカにするように語り掛ける。
そんなヒールスカイからの返事を聞くと、ピエロの口から堪えていた笑いが我慢できずに漏れてしまうがヒールスカイが激高し怒鳴る。
『イエいえ、なんでもないデスよ~。でしたら、ワタクシが用意した敵と戦って勝ったなら、ヒールフレアを解放してあげましょう!!』
「っ!! 本当……ですね?」
『ええ、本当デスよ。アナタが勝てるならデスけどネェ』
「……約束ですよ。わたしが勝ったら、フレアを返してください!!」
『エエ、いいでしょう! では、目覚めなさい――』
何が出てくるかもわからない。そんな状況の中でヒールスカイはピエロの提案を受けた。
その返事を聞きながらピエロは仮面の下で笑みを浮かべると、ヒールスカイのための敵を目覚めさせる。
『――ダークフレア!!』
「はい、ピエロさま……」
「え……?」
瞬間、ヒールフレアの体が自らの火で燃え上がった。
だがその燃え上がった彼女の火はヒールスカイの知っている色ではなかった。
黒、ヤルキナイナーやウルサイナーを象徴するストレス歌劇団の黒だった。
ゆっくりと彼女の赤かった髪が灰色に、さらに白く……灰のように染まり、日焼け気味の肌が浅黒く染まっていく。
そして彼女の瞳が開かれると、そこにはかつて感じられた元気さや勇気などはなく……あるのは空虚、空っぽの色だった。
「フレ、ア……?」
「邪霊少女ダークフレア、ピエロさまの命令により、ヒールスカイを倒します」
『さあ、やりなさい。ダークフレア!』
「はい」
ピエロの前に立ったヒールフレア……いや、ダークフレアを前にヒールスカイは戸惑いを見せながら、一歩下がる。
そんな彼女へとピエロの指示に従ったダークフレアは殴りかかってきた。
「っ!? や、やめてくださいフレア! 正気に戻ってください!!」
「ヒールスカイは、敵。敵は、倒す」
「ピ、ピエロ! 卑怯です! フレアに、フレアに何をしたのですかっ!?」
『オヤオヤぁ? アナタはワタクシが用意した敵と戦うのではなかったのデスかぁ?』
「それとこれとは話が別ですっ!」
殴りかかられたヒールスカイはそのパンチを受け、ダークフレアへと呼びかける。
しかしダークフレアは何の反応も見せず、受け止められたパンチの代わりにキックを放つ。
それを回避しながらヒールスカイはピエロに叫ぶが、ピエロは嗤うだけだった。
そんなピエロに怒りを覚え、ヒールスカイはピエロに向かおうとする。しかし、振り返った瞬間に後頭部へと衝撃が走り道路に叩きつけられた。
「あぐっ!?」
「逃がさない。敵は倒す。敵は倒す。敵は倒す」
「フレ、ア……! しっかり、してくだ――ぐぅっ!」
ダークフレアに掴まれて顔面を道路に叩きつけられたことに気づき、ヒールスカイは訴えかける。しかし、その瞳に仲間であるヒールスカイは映っておらず、彼女の呼びかけは届かない。
そしてそんな二人の様子を見ながらピエロは嗤う。
『アハハハハハハッ!! ど~デスか? かつての仲間と戦わされる気分は? 苦しいですか、悔しいデスかぁ? ですが、まだまだワタクシは物足りません! ダークフレア、ヒールスカイをとことん痛めつけなさい!!』
「はい、ピエロさま。ダークフレアボール」
「――――っか、は――っ!?」
ピエロの命令に従い、道路が陥没するまで何度も顔を叩きつけていたダークスカイはさらに追い打ちをかけるべく、空いた手に漆黒の火の玉を出現させると彼女の無防備な背中へと打ち付けた。
直後、ダークフレアの火によって背中が焼ける痛みとそれとは別の凍えるような寒さが全身を襲った。
(フレア、いったい、いったい何があったんですか? やめて、やめてください! 正気に、正気に戻ってください!)
『スカイ! しっかりするッピ! 今のフレアは異常だッピ、抵抗しないとキミが殺されてしまうッピ!!』
「け、ど……」
『悔しいけど、逃げるッピ!』
「わかり、ました……!」
エアーの言葉に離脱を試みようとする。
けれど、敵が見逃すはずもなかった。
『オヤァ、逃げようと思っているのデスか? ざぁんねん、アナタは逃げることなど出来ないのデスよ! もし逃げようものなら、ウルヴァッド兵たちの銃弾がアナタを襲います。そしてダークフレアには……そうデスね、人々を虐殺してもらいましょうか。それとも、自らの手で燃えてもらいまショウか』
「っ!! 卑怯、です!」
『だったら戦って勝ってくださいヨ! それができればデスけどねぇ!! ――ダークフレア』
「はい、ピエロさま。――ダークギター」
銃を構えるウルヴァッド兵たち、嗤うピエロ。
敵に囲まれる中、ダークフレアは地面に手を下ろすと漆黒の火に包まれたエレキギターを呼び寄せた。
そして、弦をかるく引いた瞬間、おぞましい音色が響いた。
「歪め、地球。溢れろストレス。――響け、黒き火のメロディー。ダークメロディ――ダークフレアソング」
奏でられはじめたギターの音楽は周囲の心を沈ませる旋律で、彼女の口から響く歌声は感情など込められていない排他的な言葉の羅列。
聞いていると胸がムカムカするほどの心に安らぎなど感じさせないものだった。
そして音楽と歌が周囲に広がっていくにつれて、ダークフレアの足元から黒い火が昇り始めた。
「なんですかこれ……、こんなの、こんなのフレアの音じゃありません! ヒールタクト!!
奏でましょう、空のメロディ――スカイソング!!」
思い出の中にある元気を与えてくれていた彼女のメロディから程遠いことに気づいたヒールスカイは顔を歪めながらヒールタクトを掴むと、すぐに歌を歌い出す。
すると彼女の周りに空色の音符が現れ、ダークフレアへと飛んでいく。
『ダメだッピ、スカイ! キミのスカイソングは――!!』
『クヒヒッ! バカですかアナタは! 自らの歌で敵である彼女の歌を増強させるだなんて。ほんっと~に愚かデスねぇ!!』
「~~~~~~♪」
エアーの制止する声、ピエロの小馬鹿にする声。
それが聞こえる中で音符がダークフレアの周囲に届いた直後、空色の音符は黒く染まり……火を纏わせていく。
それを見た瞬間、ヒールスカイは自身の過ちに気づいた。
(そう、でした……。わたしの、歌は……彼女たちのための……!)
「増強確認。ダークフレアソング――フォルテ」
「きゃあああああああああああああああーーーーっ!!」
黒い火の奔流がヒールスカイへと襲い掛かり、彼女を燃やした。
背中に押し当てられていた熱さよりも強烈な熱さが彼女の全身を襲い、同時に全身を強張らせるような寒さが体を締め付ける。
それに耐え切れず、ヒールスカイは歌を途切れさせ……ヒールタクトを落としてしまう。
すると彼女の周囲に浮かんでいた音符はダークフレアの黒い火に吸収され、勢いが増していく。
それを見ながらヒールスカイは、膝をつき倒れてしまう。
『スカイ、スカイしっかりするッピ! スカイ!!』
「……まだ動く。死ね、ヒールスカイ。ピエロさまに仇名す敵。ダーク――っ!」
エアーの声は聞こえても動けずにいるヒールスカイへとダークフレアは近づき、トドメを刺すべくダークフレアギターを振り上げたダークフレアだったが……彼女へと遠距離から攻撃が放たれヒールスカイから距離を取ることとなった。
そして彼女の攻撃を遮った存在が姿を現した。
『そこまでだウルヴァッド帝国!』
『僕らが来たからにはこれ以上は好きにはさせません!』
『大人しくあたしたちに倒されろ~~!』
『『『 地球戦士、アーススリー! 参上!! 』』』
『『『『『ウ、ウルヴァッド!?』』』』』
ポーズを決めた瞬間、彼らの背後に地球の幻影が投影されるとウルヴァッド兵から動揺の声が漏れる。
そんなウルヴァッド兵を落ち着かせるようにピエロがパンパンと手を叩く。
『落ち着きなさい。よぉ~こそ、アーススリーの皆様。此度の喜劇であり悲劇の舞台へ!』
『『『っ!? 空が暗くなった!?』』』
『警戒を怠るな!』
『分かっていますよ!』
ピエロの合図にウルヴァッド兵たちは動きを止め、体勢を立て直した。
すると周囲が闇に覆われ、周囲が暗くなりアーススリーからは緊張が走る。
そんな彼らの様子など気にせず突如ピエロの頭上にライトが当たり、彼(彼女?)の姿が露わとなり、アーススリーへとカーテシーのような挨拶をしてこれから舞台が行われることを告げた。
だがそんな
『ピエロ! いったい何をするつもりだ!!』
『そんなに怒ってると折角の舞台が台無しとなってしまいますヨ。さあ! ここに居るのはかつて別の世界を救いし戦士がひとりヒールスカイ!』
パッとライトがヒールスカイのもとへと降りるが、その姿はボロボロであった。
全身が炎に焼かれたために白かった肌に火傷の跡が出来ており、意識も朦朧としてるのがわかった。
そして次に少し離れた位置にライトが当てられる。
『対するは彼女の仲間であったヒールフレアを捕え、ワタクシの手によって仕立て直した悪の戦士である邪霊少女ダークフレア!
彼女は仕立て直したために感情など一切持たない、ワタクシのためにのみ動く戦闘機械となっていますので、ヒールスカイ。アナタを完膚なきまでに倒すまで動きを止めるつもりはありませんヨ!』
『テメェ……! なんて酷い真似を……!』
『最低ですね』
『このクズ! 卑怯者!!』
『んん~、なんともいい言葉デスねぇ。その言葉はワタクシにとっては誉め言葉としか言いようがありません!』
アーススリーからの雑言を両手を広げながら心地よく聞くピエロであったが、指を鳴らすと暗闇が消え……アーススリーを先へと行かせないようにウルヴァッド兵が立ち塞がっていた。
『これから行われるのは悪の少女による一方的な虐殺か? はたまたそのボロボロとなった体を起こし、かつての友を倒すことを選ぶ哀れな正義の少女か! ご期待あれ!! ――さあ、ダークフレア、やりなさい!!』
「はい、ピエロさま……」
起き上がれずにいるヒールスカイへとダークフレアは近づいていく。
だというのにヒールスカイからは立ち上がる様子が見られない。
立ち上がろうとしようにも全身が鉛のように重く、そして心が凍えてしまっていた。
『立ち上がるッピ! ここでスカイが倒れたら、ピエロを倒すことが出来なくなるッピよ!!』
「わかって、ます……けど、でも……!」
(立ち上が、れないんです。心の中でもうひとりのわたしが『どうせフレアを助けれない』とか『楽になろうよ』って囁いてくるんです……)
『立ち上がるんだ! ヒールスカイ!! くそっ! 邪魔だ!!』
『立ち上がってください、ヒールスカイさん! 負けてはダメです!!』
『頑張って、ヒールスカイ! あ~、もう! 邪魔だ~~!!』
立ち上がることが出来ないヒールスカイへとアーススリーが叫ぶ。
その言葉に首を動かし、彼らのほうを見ると大勢のウルヴァッド兵と対峙しているからか向かうことが出来ずにいるのが見えた。
彼らも頑張ってこちらへと近づこうとしているようだが、敵の妨害で思うように進めないのがヒールスカイは感じられた。
そして、カツンとダークフレアが近づく足音が聞こえた。
「ピエロさまの命令はぜったい、だからヒールスカイを倒す。だからヒールスカイを……」
「…………え」
『スカイ、フレアを見るッピ!』
ぽたりとヒールスカイの顔に雨粒が当たった。雨が降ってきたと感じたが……違っていた。
エアーの言葉に視線をダークフレアに向けると表情が変わらない、光を宿さない彼女の瞳からは涙が零れ落ちていた。
「っ!? 泣いて、いる。……フレア、抗って……いるのですか?」
「ヒールスカイは敵、ピエロさまの敵、アタシの……て、……ち……が。――ラ」
「っ!! そう、ですよね……? このまま戦わずに、わたしが全部を諦めたら……フレアも、ピエロに捕まっているに違いないみんなも、誰ひとり助けることなんて出来ません……よね!」
『その意気だッピ! けど、どうすれば良いッピ? スカイのメロディは元々は彼女たちを補助するための歌だッピ……』
「だったら、奏でるだけです。フレアを助けるために、心から……歌います! ――ヒールタクト!」
ふらふらとしながら立ち上がるヒールスカイ。
満身創痍という言葉が今の彼女には似合うだろうが、それでも彼女は友を助けるために立ち上がるとヒールタクトを手に取る。
そして彼女は奏で始める。空のメロディを。親友をピエロの呪縛から救い出すために。
「~~♬ ~~~~♪ ~~♫」
『ああ忌々しい……! 何をしているのデスかダークフレア! ヒールスカイにトドメを刺すのデス!!』
「ぅ、や……」
『はぁ、友情パワーとでも言うのデスか? だったら、無理矢理にでも歌ってもらいマスよ』
ピエロはそう言うとリング状の道具を取り出すと、抵抗をするダークフレアへと投げた。
するとリング状の道具はダークフレアの首へと収まると彼女の体へと侵食した。
「が――あ、ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっぁっ!?!?!?」
「!? フレア! ピエロ、いったいフレアに何を!?」
『ヒールスカイ、アナタが悪いのデスよ。友情パワーで洗脳が解けるとか馬鹿らしい。……ハァ、ダークフレアもこれで終わりデスねぇ。もっと使いたかったのデスが……ザンネン』
ビキビキと首に付けられたリング状の道具がダークフレアの体を走り、彼女の口からは苦痛の悲鳴が漏れる。
ヒールスカイは知らないだろうが、これはウルヴァッド帝国機械兵団団長コウガーイが開発した意志を完全に奪う代わりに肉体の性能を爆発的に上げるという道具であった。
つまるところ戦いなんて嫌だという兵士を戦うだけの機械にするための道具である。
そしてそれを使われた者は精神は砕かれ、肉体の性能を爆発的に上げた代償として歩くことさえもできないようにもなる悪魔のような道具であった。
『スカイ、嫌な予感がするッピ! はやくフレアに付けられたそれを壊すッピ!!』
「わかりました! フレ――きゃ!?」
「うぅ、ああああああアアアアアああああああぁぁぁぁぁァァァァァァアアアアア!! ダァァァァァクゥゥゥゥフゥレェェェェェアアァァァァァァソォォォォォォングゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」
『さあ、ダークフレア。アナタの大事なお友達を燃やし尽くしてあげなさい!』
喉が張り裂けんばかりの雄叫びとともにダークフレアの歌とも呼べない叫びが周囲に響き渡る。それと同時に黒い火――いや、黒い炎が地面から周囲に広がった。
そしてその黒い炎はヒールスカイの音符を簡単に燃やし尽くす。
「っ!? スカイソングが――!」
『スカイ、これ以上は危険だッピ!』
「そんな! そうしたらフレアは……!」
『残念だけど……諦めるしかないッピ』
黒い炎に燃える音符、徐々に失われていくヒールスカイの歌。それを見ながらエアーは決断し、撤退するように促す。
しかし、ヒールスカイは……逃げなかった。
「いや、です……。フレアは、フレアは逃げませんでした。だから、だからわたしも、逃げません! 絶対に、逃げることはしたくないです!!」
『っ!! スカイ、ダメだッピ!!』
「エアーが嫌なら、わたし一人でも行きますから!」
『!! ソラ! ダメだッピ、戻るッピ!!』
絶対に助けたいと願うヒールスカイ、それに対して相棒である彼女を気遣うエアー。
それに気づいていても彼女は曲げるつもりはなかった。
だからヒールスカイは駆け出すと同時に変身を解除した。
突然の変身解除に驚き、目を見開くエアーの声を背後に聞きながら、狂ったように歌い続けるダークフレアへとソラは近づく。
……幸いと言えば良いのかわからないが、ダークフレアが歌い出した瞬間から黒い炎が周囲を燃やしていたため、視界は塞がっていたので変身解除をしたさいに三人には見られていないようだった。
『くそっ! ブルー、なんとかならないのか!?』
『この炎は科学的に出ているものではなく、ヒールスカイさんが出す音符と同じようなものです。だから、消すことは不可能です!』
『でもすっごく熱いんですけど~~!?』
『だから謎なんですってば! 普通は物は燃えるわけないじゃないですか!』
『ヒールスカイ! 無事かーーーーっ!?』
立ち込める黒い炎と周囲が燃える煙の中にアーススリーの声が響くが、返事はなかった。
一方でソラは周囲に立ち込める黒い炎を抜けて、ダークフレアへと近づくが……燃え上がるような熱さと凍えるような寒さが全身を襲い続けていた。
エアーの制止を無視してダークフレアへと向かった彼女だが、殆ど意識は無くなりかけていた。
(フレア、……ホムラ。助け、ます。わたしを救ってくれた、貴女のように……わたしは、貴女を絶対に、絶対に……)
「すくって、みせ……ます」
あとすこし、そう思いながらソラは脚を動かし、近づく。
そして狂ったようにギターを弾き続けるフレアの手に触れた――。
●
【ソラ視点】
――い。
声が、聞こえました。
「んん……、なん、ですかぁ……?」
――ラ、――なよ。
眠いのに、まだ声が聞こえます。
「眠いんですってばぁ……」
――メ、よ。――ラ、き、なよ。ほ――ら。
ゆさゆさと揺さぶられ、眠いのに邪魔をされて少し腹が立ちます。
というか、何でわたし……眠っているんでしたっけ?
何か忘れているような気がしながら、すこしだけ目を開けると……わたしを揺すっている人物が見えました。
「ほーらー、はやく起きなよ。ソラってばー」
「……ホム、ラ…………? …………えっ!?」
「あ、やーっと目が覚めたんだねソラ! にへへ、久しぶり!」
わたしを揺すっていたのがホムラだと気づき、バッと顔を上げます。
するとホムラはあのときと同じように楽しそうに笑いました。
その笑顔を見ながら、わたしは固まっていました。
……え、なんですか、これ……?
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