第6話 変身、癒霊少女ヒールスカイ
時間は一旦リクたちがジェットアースに乗り込んでウルヴァッド帝国が暴れている地区へと向かったころに戻る。
昼休み終了のチャイムが鳴り響き、生徒たちは全員それぞれ午後の授業を開始するために教室に戻ったり、教室移動を行ったりしていた。
そしてソラのクラスは古文の授業であり、古文担当の教師が教室へと入ってきてクラス委員長が挨拶を行い、倣って全員が頭を下げる。
「うん? 地球兄弟は居ないのか?」
「は、はい、その……ト、トイレだそうです! 1時間以上ずっと腹痛が止まなくて、もしかすると放課後もずっとトイレに籠ってるかも知れないそうですっ!!」
「そ、そうか……。わかった……。あいつら、ほぼ毎日トイレに行ってるな……」
リクとカイが居ないことに気づいた教師の言葉に、ソラがそう答える。
こうして、リクとカイは本人が知らぬ間にトイレに引きこもってしまうほどに体調が悪いというレッテルが貼られてしまっているのだが、微妙に何らかの現象が働いてくれたおかげで『度々トイレに行く兄弟』という不名誉な称号だけが残ってしまう。
まあ、それだけなので……まだ良いと思うべきだろう。
というよりも、ソラがそんな言い訳をしなかった場合は「あ、地球兄弟居ないなー」と思うぐらいだったのだが、それは知らない事実だったりするから仕方ない。
そんな事実を知らない状態でソラは古文の授業を聞き、黒板に書かれているものをノートに書きこんでいるのだが……あまり集中できていない。
(リクくんたち、大丈夫でしょうか。昨日の夜も戦ってて疲れてますよね……。晩ごはん、おばさんと一緒に作って栄養があるものを用意しましょうか)
「星空ー、ちゃんと授業に集中するように」
「は、はい、すみませんっ」
窓から見える外、三人が戦っているであろう場所を見ていたソラだったが教師の言葉にハッとして謝る。
そんな彼女の反応に数名のクラスメイトはくすくす笑う。きっと、お昼ご飯を食べたばかりだから眠くなっていると思ったのだろう。
聞こえてくる小さな笑いに顔を赤くして縮こまるソラ。
何気ない何時も通りの学校生活だった。
だが、そんな学校生活に突如として不条理は襲いかかる。
「――――え?」
カチリ、とまるで時計の針が止まったかのように世界からは色が消え、白と黒のモノクロとなり、ソラ以外のクラスメイトの動きが止まった。
戸惑いながら周りを見渡しても、誰も動いていない。くすくすと笑っていたクラスメイトも手元を口に当てた状態で固まっており、教師もチョークを黒板に当てたまま固まっている。
驚きながら窓から外を見ると、体育の授業をしていたクラスの様子が見えたけれど……彼らもまったく動かない。授業に使われていたサッカーボールも宙に浮いたまま止まっている。
「なに、これ……? ううん、ちがう……なん、で……? なんで、ストレス空間が……? え、スト、レス……空間?」
(わたし、知ってる……? 知らない、ううん、知ってる……だって、だってわたしは……この空間で……)
――――パリィィィィンッ!!
「っ!?」
『やっと会えたッピ! ソラ、ソラァァァァッ!!』
「えっ!? エ、エ……アー……?」
この現象に戸惑いを見せるソラであったが、同時に頭の中が混乱していた。
何故なら彼女はこの空間が何であるかを知っていたし、彼女にはこの空間が与える影響はまったく無いのだから……。
けれどどうして自分がこの空間のことを知っているのかということと、鉄砲水のように戻り始めている記憶に頭の中がグチャグチャして膝を抱えていたが、突如ガラスを割るように空間が砕け、驚きながらそちらを見るとそこから一羽の青い鳥が出てきた。
そして青い鳥は泣きながらソラの胸元に飛び込み、喋る鳥ということにソラは驚きを見せた……が同時に彼女の口からは無意識にその鳥の名前が出る。
『そうッピ! ボクッピ! ソラの契約精霊の空の精霊エアーッピよ!!』
「エ、アー……そう、です。わた、しは……」
失っていた記憶が、ソラの中に……すこしずつ蘇ってきた。
●
ストレス空間を展開するヤミー団長率いるストレス歌劇団という存在。
彼らは人々のストレスを巨大なモンスターに変貌させる力を持っていて、特殊な時が止まった空間でヤルキナイナーに変貌させたストレスを暴れまわらせて時が戻ったときに街や人に被害を及ぼし……その悲鳴と負の感情を演奏のように感じる者たちだった。
誰もが気づかない内にストレスを爆発させ、街や人に危害が加わえられる。その手始めに選ばれたのがソラが暮らしていた日朝市だった。
『フフフフフ、恐怖のオーケストラをはじめようではないか!』
だがしかし何処の世界にも、闇がある所には光がある。
世界に害を与えようとするストレス歌劇団の存在に気づいたその世界の精霊たちは、世界から心が汚れていない綺麗な心を持った少女たちを選び、彼女たちに癒霊少女になってもらえるようにお願いしたのだ。
『お願いします。わたくしたちの力を使って、ストレス歌劇団と戦ってください……!』
「まかせて! 悪いやつはアタシが懲らしめてやるんだから!」
「勝手に話しを! ……はあ、わかりましたわ。わたしも手を貸します」
「いいよ~。自由を邪魔されたくないからね~」
「お金にならんオーケストラなんて、商売やないからなぁ!」
選ばれた4人の彼女たちは精霊たちのお願いに首を縦に振って、精霊と契約して癒霊少女となった。
火の精霊と契約した少女はヒールフレアとなり、水の精霊と契約した少女はヒールアクアとなり、風の精霊と契約した少女はヒールウインドとなり、土の精霊と契約した少女はヒールグランドとなり、契約した四大精霊に因んで少女たちはヒールエレメンツと名乗ったのだった。
「火に灯るは癒しのメロディー! ――ヒールフレアーーッ!」
「水に流れるは癒しのメロディー。 ――ヒールアクアです!」
「風にたゆたうは癒しのメロディ~! ――ヒールウインド~!」
「地に交じるは癒しのメロディー! ヒールグランドや!」
「「「「四人そろって、ヒールエレメンツ!!」」」」
戦いとは無縁だった少女たちは恐怖を振り払うように互いを励まし、互いを奮い立たせ、ときには喧嘩をしたり、泣いたりしていた。
そんな中、彼女たちの正体がクラスメイトであるひとりの少女に偶然知られてしまった。彼女たちは自分たちの正体をばらさないでほしいとお願いするために少女に近づいた。
「……なんですか?」
「あ、あのー、アタシたちのがね、その……」
「言いませんよ。……だって、だれもわたしの話なんて真剣に聞いてくれませんから。話はそれだけですか?」
「あ……」
まるで相手にしていないというように少女は彼女たちを突きはなす。
そんな少女を見ていると……彼女は偉い地位にいる両親によって決められた習い事を優先にされて遊ぶことさえ出来ず、親が用意した形だけの友達を側に置き、だれも信じることなんて出来ない毎日に猛烈なストレスを感じ続けていることがわかった。
だれも信用できないために周囲との壁をつくってしまい、話しかけようとする者さえも突き放していたために……誰からも相手をされずに孤立してしまっていた。
「うらやましくなんてない……、うらやましくなんて……ないです!」
『ホホォ、こんな小娘だというのにかなりのストレスを持っている。利用する手はないなァ!』
「え――きゃあああっ!?」
『ヤルキナイナァァァァァァァッ!!』
そんな中で少女はクラスの仲が良い四人組であった少女たちが、そんな正義の味方のようなことをしていることに驚きを感じたものの……それ以上に嫉妬してしまった。
自分にはないものを持っている。彼女たちが羨ましい、憎い、壊したい。そんな鬱屈としたストレスは当然ストレス歌劇団の格好の的となっており、少女は強力なヤルキナイナーを生み出してしまった。
「うわぁぁぁっ!?」
「くぅ……、な、なんて強さですの……」
「これはちょっとやばいかもしれないね~……」
「この強さ、商売あがったりやーっ!!」
少女が生み出してしまったヤルキナイナーによって、初めてヒールエレメンツは完膚なきまでに敗北してしまった。
傷だらけでボロボロになった彼女たちを見た少女は清々したという想いよりも、こんなことしたくないという想いが強かった。
「いや、やめて……。やめてください! こんなの、こんなのわたしは望んでいません!」
『ホホォ? ヤルキナイナーを生み出したというのにまだ意識があるのか? ならば、その絶望を特等席で聞かせてやろうではないかっ!! さあ、もっと悲鳴を聞かせろ!』
「っ!? いやっ!!」
『ヤルキナイナーーッ!』
少女の言葉を嗤いながら、ストレス歌劇団の幹部であった存在はヤルキナイナーに命じ、ヤルキナイナーの中に捕えたのだった……。
ヤルキナイナーの中は鳥かごのようになっており、時が止まった空間の町が自分の生み出した存在によって壊されていく様子を、人がサッカーボールのように蹴られていく様子を、少女は見させられていた。
はじめは何度も「やめて」と泣き叫んでいた少女だったが、声が枯れていくにつれてだれにも自分の声は聞こえないと感じはじめ……最後には自分を責めるようなことを呟きながら蹲っていた。
「やめて……。やめて……」
「わたしが、わたしが……わるいんです……」
「ちがうっ! ●●が悪いんじゃない! 絶対、絶対に助けるから!!」
そんな少女を助けたのは、彼女のストレスによって傷つけられたヒールエレメンツだった。彼女たちのリーダー格であったヒールフレアは仲間を奮い立たせ、少女が生み出したヤルキナイナーと対峙した。
倒れても立ち上がる四人の姿を少女は茫然と見ていた。
(むり、きっと無理、無理なんだ……)
「あ・き・ら・め・る――もんかああああぁぁぁぁぁっ!!」
「そう、です! わたくしたちが、諦めたら……だれも、救えませんもの!!」
「そうだね~。たまには、やる気出さないとね~~!!」
「せやな! 損得勘定なしで、助けたるーーっ!!」
「「「「はああああああああああーーーーっ!!」」」」
『ヤルキ――ナイナァァァァァァァッ!!』
「「「「ま・け・る・かぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」」
『ヤルキナイナァァーーッ!?』
少女たちは己を奮い立たせて渾身の一撃を放ち、ヤルキナイナーの腹に大穴を開けた。
そして開いた大穴へとフレアが飛びこみ、蹲る少女に手を差し伸べた。
「助けに来たよ!」
「もう、もう放っておいてください……! わたしなんて、わたしなんていなければ……!」
「ううん、アタシたちが放っておかないよ。だって、アタシはきみと――ソラと友達になりたいから!」
「●●さん……」
「だから手を、アタシの手を掴んで!」
気づけば少女は、ヒールフレアの手を掴んでいた。
掴まれた手にニカッと歯を見せながら笑うと彼女はヤルキナイナーの中から少女を――ソラを助け出した。
(そうだ……。わたしは、彼女の手を掴んで……助けてもらったんだ。そして、彼女たちから勇気を貰ったんだ……)
しかし、力を振り絞った結果……ヒールエレメンツは立ち上がれないほどに体力を消耗しきっていた。だがソラの生み出したヤルキナイナーはまだ健在だった。
それを見ていたストレス歌劇団の幹部は驚いていたけれど、満身創痍のヒールエレメンツを前に両手を広げる。
『ホッホォ! 助け出したのは見事ですが、もう立つ力さえも残っていない様子! ヤルキナイナー、ヒールエレメンツにトドメを刺すのだ!!』
『ヤルキナイナー!』
「「「「つ!!」」」」
「さ、させません!」
ズンズンと近づくヤルキナイナーに少女たちは身を固くする。しかし彼女たちの前にソラが両手を広げて立つ。
けれど怖いからか足がガクガク震えているのは仕方ない。
『ホッホォ、何も出来ない人間が立っていても何も出来ないだろう? 最後のチャンスをやろう。大人しく退けば壊れる街並みを特等席でまた見せてやらんでもないぞぉ?』
「い、いやです! 退きません……! だって……、だって、わたしも、わたしもみんなと、みんなと! 友達に、なりたいから……!」
「ソラ……」
「ソラさん……」
「ソラ~……」
「ソラやん……」
「だから、わたしはここをどきません! ――――え?!」
心の底からソラが叫んだ瞬間、彼女の胸元が眩い光りを放った。
その光にストレス歌劇団の幹部とヤルキナイナーは顔を覆う。対するヒールエレメンツの四人は彼女の光から精霊が生まれるのを見た。
青空のように澄み渡った綺麗な青色の鳥の姿をした精霊。
それが戸惑うソラの前で顔を合わせる。
「え? え? あなた、は……?」
『はじめましてッピ、ソラ! ボクはキミの心から生まれた精霊のエアーだッピ!』
「わたしの、心から……?」
『そうだッピ! キミの友達になりたいっていう純粋な想いがボクを生み出したッピ!』
彼女の友達になりたい。その想いは純粋だった。
親に決められたからじゃない。周りがそうするように言ってきたからじゃない。
これは、ソラ自身が決めたこと。自分に手を伸ばしてくれた、元気なクラスメイトと自分は友達になりたい。そう彼女は思った。
だから精霊は応え、生まれた。
『精霊が生まれた……だと!? ええい、これ以上、癒霊少女を増やしてたまるか! やれっ、ヤルキナイナー!!』
『ヤルキナイナーー!』
唖然とするソラを他所に光が収まり、精霊が増えたことに気づいたストレス歌劇団の幹部はヤルキナイナーに指示を出す。
それに従い、ヤルキナイナーはズシンズシンと歩み寄ってくる。
『ソラ! 変身だッピ!! キミが癒す姿を、思い描くッピ!』
「変身……。わかりましたっ!」
エアーの言葉にソラは頷き、手を空に掲げる。
変身の仕方は頭のなかに浮かんでいた。だからソラはその言葉を口にした。
「エレメンタルフュージョン! メタモルフォーゼ!!」
瞬間、ソラの体は光に包まれ、その中でソラの体の中へとエアーが入っていき、彼女とひとつになる。
すると彼女のミルクティー色の明るい茶髪が空色へと変化していき、着ていたドレスワンピースは解け、青を基調とした癒霊少女のコスチュームに変化した。
続いて両手を広げて指揮者のように振りはじめると彼女の周りに音符が現れ、手に当たると手袋、脚に当たると靴下とブーツに変化していく。
髪に音符が当たると青と白のリボンが出現し、広がっていた空色の髪を左右で結びツインテールにヘアアレンジ。
最後に胸元に音符が当たり、子供らしい大きな青色のリボンがボワッと出現するとゆっくりとソラのまぶたが開かれる。
エアーとひとつになったからか、茶色だったソラの瞳はまるで夕焼け空と夜空を連想させるような茜色と藍色のオッドアイとなっていた。
ソラが癒霊少女への変身を完了すると、光は弾けた。
「空に広がるは癒しのメロディー! ――ヒールスカイ!」
こうして、ヒールエレメンツに新たな仲間が増えた。
そしてソラは四人の少女たちと共に戦い、共に学校生活を過ごして楽しさを覚え、時には両親によって引き離されそうになったけれども乗り越えた。
ストレス歌劇団の幹部との戦いも心が折れそうになったけれど、仲間たちとともに乗り越えることが出来た。
この思い出だけは絶対に忘れたくない思い出だった。
けれど、日朝市を世界をかけたヤミー団長との最後の戦い……、残った最後の幹部との戦いで倒された敵幹部は全員を道連れに自爆しようとしていたため、ソラは仲間を救うために自らの命を投げ出した。
そうしなければ、全員が死んでしまうかも知れない場面だったから。
自らの最後を彩るかの如く爆発しようとする幹部とその爆発を外に行き渡らせないように力を使うソラ。
彼女を心配して叫ぶ仲間たちへと、後を託して……ソラは自爆に巻き込まれた。
けれど、どういうわけか自爆のエネルギーが原因なのか彼女は時空の狭間に飛ばされてしまい……ウルヴァッド帝国の脅威に晒されているこの世界へと落ちた。
すべてのことをわすれて……。
●
「おもい……、だしました……」
(わたし、なんで今まで……こんな大事なことをわすれていたんですか? 大事な友達を、仲間のことを……!)
『ソラ、落ち着くッピ!』
「す、すみません、エアー……」
頭のなかに流れ込んできた思い出にソラの視界がぐらりと揺れ、同時に大切な仲間のことを擦れていた自身を叱責する。
そんな彼女の表情と心を読み取ったのか、エアーは一喝。
相棒の言葉にハッとしたソラはエアーに謝罪すると、周囲を見渡す。
「エアー、これはいったいどういうことか分かりますか? それに、あの後どうなったかも……」
『あの後どうなったのかは分からないッピ……。けど、これはストレス空間に間違いないッピ!』
「ストレス歌劇団がこの世界にもいるということ……ですよね? だったら、やることはひとつしかありませんよね!」
『わかってるッピ! 久しぶりの変身だけど問題ないッピか?』
「大丈夫です! エアー、屋上に行きましょう!」
ソラの言葉にエアーが訊ねると、彼女は自信満々に頷く。
そして、エアーを肩に載せて屋上へと走る。……マスクメロンが重く、ぶるんばるん揺れていてすこし走り難いけれど、一生懸命走っているのだ。
「はあ、はあ……、う、運動不足です……」
『大丈夫ッピかソラ?』
「だい、丈夫です……! と、とにかく行きますよぉ!」
肩で息をしていたソラだったが、何度か深呼吸をすると落ち着いてきたようでソラは手を空に掲げる。
そして、記憶の中に蘇ったキーワードを口にした。
「エレメンタルフュージョン! メタモルフォーーーゼッ!!」
直後、ソラの体は光に包まれ、光の中にいるソラへとエアーが入り、彼女とひとつになる。
ずっと離れ離れだった何かが埋まるのを感じながら、変わっていく感覚を感じていた。
ミルクティーのように明るい茶髪が空色に変化し、着ていた制服が解けていく。
一糸纏わぬ、けれども光に包まれているためにシルエットしかわからないが……幼い少女ならともかく、出る所が出てしまっている女性らしい体型をした少女のためにどこかエロスを感じてしまう。
(あの頃は何とも思っていませんでしたけど、変身する感覚って……こんな感じだったのですね。……んっ、何だか締め付けられるようで、苦しい……?)
包んでいる光が癒霊少女のコスチュームへと服が変化してしていくのだが、変化していくにつれてソラは妙な息苦しさを感じていた。
しかし、変身プロセスのさいはどういうわけか瞼を開けることが出来ないため、最後に目を開けるしかない。
(きっと久しぶりの変身だから、ですよね?)
そう考えながら、変身を終えて最後にまぶたが開かれ、オッドアイとなった瞳が露となり……強制的に決めポーズを体が取った瞬間、彼女は驚愕した。
「空に広がるは癒しのメロディー! ――ヒールスカイ! ――って、何ですかこれぇっ!?」
ビシッとポーズを取ったのは一瞬、すぐにポーズを解くと彼女は自らの体を両腕で隠しながらその場でしゃがみこんだ。
当りまえだ。変身を終えた彼女の服装は、どう見ても変質者や痴女という言葉が似合いそうなパッツンパッツンな上にパンツにいたっては今にも千切れそうなほどに端がギッチギチとなっているのだから。
……久しぶりにヒールスカイへの変身を遂げたソラ。
しかし、変身コスチュームは彼女の年齢とともにサイズアップなどしていなかったようで、当時の服装のままであったのだった。
そのことに気づくのは改めて確認するときになるのだが、今は自分から見てもどう見ても変態にしか見えないということにソラは顔を真っ赤に染めあげていた。
『何をしてるッピ! はやくヤルキナイナーを倒しに行くッピよスカイ!』
「わ、わかってますけど、ちょっと待ってくださいぃぃ……!」
『その牛みたいなおっぱいとか、今にも千切れそうな下着とかが平然と見えてても構わないッピ! ほら、はやく急ぐッピよ!!』
「エ、エアー、何だかすごくおっさん臭くなっていませんかぁ!?」
『それぐらいの年月が過ぎたんだッピよ!!』
「ひ~~んっ!!」
動けずにいるソラ……いや、ヒールスカイを胸元の大きなリボンの中央に付けられたアクセサリーからエアーが語り掛け、発破をかける。
その発破にヨロヨロと立ち上がると、すこし屈んだような妙な体勢でスカイは屋上から飛び出してストレス歌劇団とヤルキナイナーが居るであろう場所へと向かうのだった。
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